第六話 「氷室千佳」
一瞬だった。何が起きたかわからなかった。そうあの時と同じように。
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小さい頃あの感覚が好きで始めたスピードスケート。
そのスピードスケートに頑張って打ち込んだおかげで私は13歳にして次期五輪代表候補と呼ばれるまでの実力になっていた。
しかし私はその重圧でもう潰れかけていた。学校でも上手くいかずスケートでも思うように滑れない。そんな時、もう顔も声も思い出せないけどあいつに出会った。
「なぁ!あんた氷室千佳だよな!」
「……そうだけど。」
「俺あんたのファンなんだ!まさかそんなすごい人が同じ学校だったなんて!これから宜しくな!」
「私は君が思うほど凄くなんてない。」
「そんなことない。」
急に真面目な顔になったあいつに私は言葉が出なかった。
「俺どう仕様もない位に悩んでた時期があってさ。けどさ、そんときにあんたの演技見て俺吹っ切れたんだよ。」
「・・・とりあえず私は君が思うような人じゃないから。」
そういったもののあいつは毎日のように私に話しかけてきた。そしていつの間にか私はあいつと毎日一緒にいるようになっていた。
とある冬の日の放課後。
あいつといつものように帰っていたとき、あいつが急に言ってきた。
「なぁ。明日暇?」
「暇だよ。」
「じゃぁさ。明日どっか行こーぜ!マックとか!」
「!うん。」
「じゃぁ。また明日な!!」
私はあいつに好意を抱いていたのだろう。とても高揚した気分で家に帰っていった。
次の日。
私はあいつとの待ち合わせ場所にいた。こんな服でいいのかな。何かおかしいとこはないかな。そう思いながらあいつを待っていた時。
近くから悲鳴があがった。なんだろう。そう思った刹那。
グサッ。
え?
嫌な音と共に身体が崩れ落ちる。
何が起きたか解らないくらいに一瞬だった。
死にたくない。死にたくない。まだあいつに想いを伝えてない。
私は訪れる死という事実に必死に抗った。
しかし、私は死んだ。
薬中患者の無差別殺人だったらしい。
私は死んだ。初めて恋心を抱いた人に想いを伝えることもできずに。
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「おい!千佳!」
陽人の声。私はまだ生きてる?
痛む体を無理やり起こす。良かった。私はまだ死んでない。絶対に蘇生してあいつに想いを伝えるんだ。
絶対に。。。
ゲーム開始から00:06:30
脱落者:1名