Ex.御乱心
「ユート!きちゃだめっ……だ、めっ。は、離れてぇぇぇぇぇえええ!!!」
「ルナっ。待って、ルーナー!」
混沌姫、ルナマリアード。
その怒気の余波でのみで災害級の魔物である黄昏竜をも退けるというその膨大な力の持ち主。
全力全開、突然の御隠り。
「もう一度聞きます、何がどうしたというんですか」
あはは、と気のない笑いをしながらいつものより更に困った顔で執務室のソファーに座り込む彼、その顔色はひどく悪い。
今この執務室にいるのはメイド長のセスと次長であるジャスミンのみでそれ以下のメイドと執事長以下の使用は総出で家出姫の説得に当たっている。
すでに説得開始から1時間が経過していた。
捜索でなく説得なのは彼女の居場所がすでに判明しているからであって、ユートがそこにいないのはルナの心情を逆撫でしないため、と一応はなっている。
体面だけ見れば主と姫の仲違い、間違いなく王国の危機であるがこの二人のことだ、きっとそんな重大な理由ではないのだろうと当たりをつけたセスがとりあえず話を聞こうと執務室にひっぱりこんで今に至る。
「あははじゃ何が起きたかわからないんですから、さくっと答えてください。ほら、さくっと。」
「……言えない。」
「言えないじゃないのです、すでに事態(使用人のストレス)は深刻です。」
言えない、答えてください、言えない、とさっきからずっとこの調子である。
これにはジャスミンもすっかり困ってしまった、普段他人に迷惑をかける事を良しとしない彼の断固とした態度に少し違和感を覚えながら。
セスの元に時折来る報告によると姫は以前自身の部屋に結界を展開し一切外部との接触をとろうとしていないとのこと。
姫が展開した結界は強力無比で執事長以下城の総戦力をつぎ込んだとしてもその結界に皹をいれるどころかたわませることすら不可能であることは明白、かといって放置しておけばその魔力の重圧に使用人が耐えきれなくなり気絶するものが増えてしまう。
次第に強くなる魔力にいずれは城中の者が気絶してしまうでしょうな、とは執事長の言。いつもは悠然と余裕の笑みを見せる彼の額が若干ひくついていたという。
「困りました。姫様は沈黙、頼みの綱の主様もこの調子、そして被害は増大の一途。私も……あぁ、ふらふらするぅ」
セスの猿芝居とわかっていながらもごめんねと一言ユートはわびを入れるがどうしたらいいか俺もわからないんだと首を降り
「事情は話せないし、かといって俺がこのままルナの元に行ったらたぶん……」
よくて城が半壊かなあ、その前に皆に避難してもらった方がいいね。となんとも物騒な事をいうのだ。
「そんなことにならないように、私共がお手伝いしたいのです。」
たまらずジャスミンが口を挟むが、こればかりはとユートは首を降りかけるが意を決したようにとても話難いんだけど、小さな声で切り出した。
彼の召喚される前の世界の、創世の神の話を。
「……なるほど、姫様も例外ではないと思われますよ。しかし主様の前の世界の神様というのは……随分とその……なんといいますでしょうか。まさか体を洗っただけでなんて……あらまあ」
ぽっと頬を染めるセス、これも猿芝居である。
対する
「……そう言われてるからもしかしたらと思ってね。可能性があるうちは否定できなかったんだけど、これでなんとかルナの誤解を解けるよ。」
「それでも次からはすぐ私どもに相談なさってくださいね。」
こういう事はあまり女の子に言うのって、と渋るユートだがこんな事態まで発展するほうが困りますとピシャリとジャスミンが切ってすてる白蛇属特有の目尻下の鱗が若干ピンクに染まっているのはまあ見逃すに越したことはない。
「いいのですいよー、ジャスミンったらおませさんですからっ」
まぁ、人をからかう事に人生をかけると豪語するセスには無縁の話だが。
怒るジャスミンに終われて退室する間際皆下げときますから今すぐ誤解を解きにいってくださいましねーとユートにウィンクする余裕まで見せて姿を消したセスの心配りに感謝しつつも覚悟を決めて席をたつ。
(城の半壊は兎も角、俺は無事に帰れそうにないなあ)
そんな事を考えながらルナの私室に向かうのだった。
『ルーナ、ルーナ?』
『……来ちゃダメ。』
『入るね。』
『来ちゃダメだったら!!!』
『大丈夫だから、落ち着・て……』
『だっ・・緒に・・・子・・できちゃ・・・!私、私・・・悟できて・・んですも・』
『・供・・きる・・なんというかその特別・事・・なきゃで・・にいるだけじゃ・・はできな・・・』
『……っ手を繋いでもいい、の?一緒にいても?膝枕しても?』
『うん、大丈夫。』
『……早く言いなさいよばかぁぁぁぁぁ!』
ちょっとずれてる主様と、螺くれてるのに純情な姫様の城中巻き込んだちょっとした騒動のお話。