Ex.新人研修2
兎耳族は魔族の中でも特に力を持たない種族である。
眉目秀麗だが非常に力の弱い種族でかつての戦乱の時代には実力主義である魔王の庇護を受けられず人族の元でなんとか生き長らえてきた。
奴隷として。
特に秀でた能力の持たないこの種族は専門の職や特技などで世界にその存在をうまく売ることができず人族の奴隷としてあらゆる雑用を請け負いなんとかして生きていたがその生粋の不器用さから労働力としては断トツで不人気な奴隷、それ以外の理由では人気であり特に耳先にいくにつれて白から銀色に変化する銀耳と呼ばれる兎耳族の真祖に連なる者は非常に高価で取引されるというが結局の所その環境は著しく悪く雇われて数年で役にたたなくなる、その生息数も少なくいずれは淘汰される種族とされていた。
それゆえこの国に来たとも言えるのだが。
「主様!それは酷く過ぎた沙汰ではないでしょうか!」
ユートの執務室…私室とは別で公務等に使われるそこに招かれた彼女らは一族共々国を出る覚悟があるかという彼の言葉に一時絶句した。
確かに仕事ができないものはいずれ何かしらの処分が下されることは妥当だろう、それは理想の国とよばれるここでも恐らく同様。
一切仕事も役割も果たさないものを次から次へと匿い続けていればいずれそれが平穏を侵す不満の種になることは明白だからだ。
それはわかっていたが、慈悲深き者と言われ一度懐に入れたものに滅法甘いと言われるユートからその言葉を聞いたことがジャスミンにとっては衝撃で、そしてそれを招いてしまった己の不手際を深く後悔していた。
隣に座るリリーは俯きカタカタと震えている、言葉を解釈するならば事実上の追放宣言とも言える。
顔を蒼白に染め上げた彼女は目を見開き浅い呼吸を繰り返している。
今彼女の心は己の不甲斐なさ故に一族を窮地に追い込んだことで一杯だろう、その半分から銀耳に染まる耳が今や彼女の頭の重くしている。
そんな彼女を慈しむような目で見つめユートは再度覚悟があるかと言った。
ジャスミンの記憶の中でもユートが非情に振る舞う事がなかったわけではない。
しかしそれは主に彼に助けを求める者を害すどうしようもない悪に対する者であって子のように身内を切って捨てるような事はなかった。
それゆえその落差にジャスミンは驚愕し、また彼女の言うことに一切取り合わないユートが何を考えているのかわからず混乱していた。
「わ、わたしの不手際については、深く、謝罪いたします。で、すので。一族には、どうか御沙汰、及ばされませんよう、深く、ふっ、かく…」
「そんな落ち込まないで。確かに一族巻き込むけど確りやってけると思っての事で……」
そのの変容に少し焦ったのかユートは彼女の横にしゃがみこみ背中をさする。
その優しさがリリーにとってはそれは自らの一族を唯一庇護する者から最後の優しさに思えて……視界が歪む。
彼女にとってはまさに最後の頼みの綱が切れる、一族断絶の危機である。
嗚呼、そこに救いは
「……ユート。煩い。」
.....あったらしい。
うちひしがれる者、不手際を強く自責し模索する者、意図していなかった結末に焦る者。
さまざまな負の感情が混在するまさに混沌としたこの場所に、後にリリーに天女様と呼ばれ語り継がれる、午睡を中断されて少しご機嫌ななめで寝ぼけ眼な専門家《混沌姫》が降臨した




