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IdeaLand  作者: 中川のたり
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IdeaLand

深淵の大森林

深淵の洞と呼ばれたそこはある日、一夜にして豊かな緑を称える大森林と化した。

かつては一国をも上回る広大な大地に魔獣が多く生息する洞穴が無数に点在し、

冒険者の侵入を頑なに阻んだその地。

その過酷な環境から地獄の洞とも呼ばれたそこが。

ほんの一夜で草木生い茂る森へと変貌した。


学者は魔王が逝ったことが原因であるなどと推論しているが原因はいまだもって不明。

三つの国の北に位置するその大森林に幾つかの国から調査団が派遣されたが

そのどれもがろくな情報も得れずに帰還した。

曰く彼の森には特殊な結界が張り巡らされ迂闊に動くと毒沼や断崖絶壁に転移されてしまうという。

その転移先とタイミングも規則性がなく

さらに深い霧に覆われたそこには入り口付近に上級の魔物が数多く生息し危険度が計り知れないという。

調査兵団が去った後、一攫千金の夢を見た多くの冒険者や力試しに入った傭兵が意気揚々に森へ入っていき

這う這うの体で逃げ帰ってくるのがしばらく近隣の村人の笑い草だった。


なにしろこの大森林の出現で一番喜んだのはその村人たちである。

最初こそ恐れ戦いていた上級の魔物は村には一切入ってこない。

それどころか無謀にも森に入った若者が気性の荒さで有名な大魔熊に遭遇して叫び声をあげたところで、

ちらりと一瞥しそれこそ目障りだと言わんばかりにふんと鼻を鳴らし去っていったという話だ。

近隣の国が手をもて余している内に村々は上手な付き合いを確立していった。

村の人々は大森林の大いなる恵みを分けてもらう際、礼を尽くして森へ入る。

最初こそ魔物に恐れ戦いていた彼らだったがある干ばつの年、やむを得ず農民だけで森に入った。

農具を手に戦々恐々として水を探す彼らの目の前を大魔熊が通りすぎる、

横を剣兎が跳ね回る、

木人が歩き回り、

穴狼が子供を連れて行進する。


その全てが一瞬にして彼らを殲滅できるような強い魔物であるにも関わらず、

魔物はその全てが彼らを一瞥しただけで森の深くへと帰っていく。

そしてたどり着いた森の泉で村人は見た。

端が辛うじて見える程の大きさの泉の回りに数多の魔物が水を求めて来ている様を。

そこには強者弱者の区別なく、お互いがお互い譲り合って森の恵みを享受していた。

彼らはその時ふと悟ったのだ、

ここは慈母の森であり、感謝と畏怖を忘れないものは等しく恵みを享受できるのだと。

しかし感謝や畏怖を覚えないものには森は憤怒の形相を見せる。

兵団や傭兵は当然の罰を受けたのだと村人の中では認識している。



厳しくも優しい、そんな森の奥深く

深淵の大森林のさらに深淵に

森の主様の住まう城があるという話がある。



たどり着いたものが本当にいるのかはわからない、

しかしそこには森の全てを司る主様がいらっしゃるのだと。

主様の治めるその土地では人と魔。

そしてそのどちらでもないもの達が穏やかに暮らしているのだと、そう言い伝えられている。


そう、それは世界にはじかれた者が心穏やかに過ごせる土地、


彼の姫が救ったなんでも懐に抱え込んでしまう主様が作った想像の場所、


なんとも慈悲深き主様とどこまでも彼に甘い混沌の姫が治める理想の領地、


不幸を受け入れ、幸を願ったものが住まう優しい場所、




そう、その国の名は



理想の国《IdeaLand》

IdeaLand これにて完結です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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