ExtraEnd
神様をね、落とすんだ。
少女はとても楽しそうに笑った。 その表情はとても無邪気で、まるではじめてお使いを達成したようで。 誉めて誉めてと言わんばかりに語る。
神様はつよいから、助けてもらうの。 おにいちゃんいってたんだから、 強いのは弱いのを助けるんだって。 神様、強いから助けてもらおうってお祈りして。 でも、来てくれなかったの。
少女の顔が陰る。 しかしそれも一瞬で、年相応にぱっと表情を変えて
だから、引きずり落としてきたの。 あっちの世界でいじめられた神様をね、 コッチオイデッテ、ヒキズリオロシタの。
年相応の無垢な笑顔で残酷な事実をいい放つ。
これははじめて召喚した巫女の言葉。 皇国の歴史の始まりとも言える最初の勇者召喚を成し遂げた白亜の巫女が死ぬ間際に 残した言葉。 以後、この話を知っているのは歴代の王と召喚の巫女だけである。 「ユート…………。」 表向きは。
「不幸、ですか?」 エリザベートが小首をかしげて訪ねると目を伏せ頭をなで続けるユートに代わりルー ナがおもむろに口を開いた。 「ここから少し複雑な話になるのだけれどね、勇者を召喚するのには召喚する側は勿 論のこと。召喚される側にも条件が必要なのよ。」 「条件、ですか?」 さらにわからないといった様子のエリザベート、他の面々もそれは同じようで次に ルーナが口を開くのを今か今かと待っている。 一度は口を閉じかけたがその重い期待に答えるように、ゆっくりと話始めた。
「……素質と言い換えてもいいかもしれないわ。勇者という神に近しい力を持つもの が、そのあるべき元の世界から引きずり落とされるだけの素質。 それが、不幸。勇者というのは神の楽園に嫌われ、人間に連れ去られた堕天使なの よ。」
ルナはいとおしげにユートを見つめ、ユートはこれを微笑み受けとると、ふと動きを 見せる手元に目を移す。
「勇者はね、不幸を背負って元の世界から解離しかけた……深い絶望と死の事実によっ て輪廻転生の輪に入らない者でなければならない、それが勇者の素質。だからこの子 もね、不幸を背負ってきたんだよ。」 長いまつげを震わせ、少年は眠りの海から少しずつ浮遊する少年は一体どんな生活を 送ってきたのだろうか。その人生の何十分の一しか生きていないこの短すぎるこの年 で、どんな地獄をすごしどれだけ泣いてどれだけの…… 「ほら、おきるわよ。」 うっすらと開かれるまぶたからは人族にあるまじき金色の瞳がのぞく、やはりこの子 供は勇者なのだと皆が再認する。
それは、切なく、確固とした現実。
だからこそ、世界に嫌われこの世界に落とされた君だから、だから僕は君を、この僕 の世界は君が幸せになれるように助けよう。
「おはよう。僕はユート、きみの名前を教えてもらえるかな?」
この世界は、君を愛するだろう。




