Ex.勇者の資格
「分割する必要あったのかしら」
「ごちゃっとするかもしれないから、わけた。とか。」
「それって要するに纏め下手ってことよね?」
複雑な事情とは大抵が結末を一言で表すとその本旨にそぐわない内容になる。
難解な過程と結果を正しく理解してはじめてその本旨になったのだと認めることができるのであって、ましてや途中経過の一点をとって見るなどしたらいったい何がそうなったのか検討をつけることを判別するのは困難を極める。
例えば。
「まーま?」
「……お願い、お願いだから離してちょうだい。皆も何で見てるのよっ。ユート、この子ユートなんとかしてっ」
拉致ったはずの今代勇者がどうしてルナにひしと抱きつき母と呼び慕っているか、とか。
話をしばらく巻き戻す。
いつもの倍以上激しいストンピングというご褒美(彼限定)を受けたジャッキーはその後幸せそうに失神。
ジャッキーが折檻を受けている間、呼ばれたメイドにより大急ぎで体についた変態成分を洗い流された勇者はソファーの上ですやすやと安らかに眠っていた。
その顔は勇者として前線に駆り出されるには余りにもあどけなく、幼く……
「で、この子供が勇者だっていうの?」
ルナがそのほっぺをつつきながら訝しげに言った言葉通り、顔が云々の前に勇者はどう見ても部隊の前線で指揮をとったり己が先頭に立って魔物を駆逐するなどできない、家で母親について回り外で遊ぶのが仕事の年頃の子供であった。
「あのお馬鹿が失神する前に吐いた情報によるとそうなりますねー、どうなんです?魔王的になんか感じ入るものがあったりするんですか?」
「……たぶん、間違いはありません。本能といいますか……こう。主様以上に心に訴えてくるなにかがあります。」
この感覚を言葉にするなら……そう、ショタラブ!と拳を握り目を輝かせるエリザベートだが勇者が横たわるソファーからきっちり安全な距離をとっている辺り勇者であるというのは確かなのだろう。
勇者と魔王は惹かれ合い反発しあう、お互いを打ち倒し滅ぼさねばならぬという強迫観念により惹かれ会い、また同じくお互いがお互いの天敵であるという強い排除の性質からお互い反発し合い、殺し会う。
こんな遥かの昔から延々と繰り返されてきた歴史と事実か導かれることを考えればエリザの言は信憑するに足りるが。
「エリザ。それは本当なんだね……。この子が勇者で、間違いはないんだね?」
エリザベートがしかと頷くのを見て、ユートは目を一度ゆっくり伏せる。
考えるのは勇者と言うこの世界の神に等しいもものを召喚するための条件、いくら魔力という代償を払おうともこの世界の只人の身であれば神の領域に手を差し入れ高次元の者を引きずり落として来ることなどはできるわけがない。
彼ら、この世界に存在するものが神に等しい勇者に干渉するために必要な条件はいくつか存在する。
そしてその中には召喚側が用意する条件の他に、召喚される側の者が持ちうる資格が必要なのである。
ユートやこの子供そしてかつてのすべての勇者が備えた条件、資格とも言うべきそれこそが
「君も不幸を背負ってきたんだね」
不幸
長すぎる時の向こう、半眼に開かれた彼の目の奥に溢れんばかりの慈しみを含んで。
ユートは優しく、優しく幼すぎる勇者の髪を撫でた。




