Ex.DoubleExistence
唐突ではあるが、森の城はかなり複雑な作りになっている。
その難解さは作りを理解し目的の場所までいくことが新任使用人の山場といわれるほどで、新人がはいると毎回毎回遭難者を出すのが定例行事だった。
ので。
「迷いましどぅゅっ!?」
遅刻咬ましたスライムは粛清メイドによってそのまま壁の染みになった。
「遅い遅い遅すぎます。情報持ち帰るのに丼だけの時間がかかっているというのですかこの愚図。」
「ハッ、貴様の様な暖かみの何もない突っ込みなど俺にとってご褒美になどなりえなぐびゃ」
「ねぇジャスミン。壁スライムで塗りたくるのやめてくれない?」
躾は必要です、と朗々と宣言するジャスミンに若干渋い顔をしながらもどちらかというとその顔が呆れ気味なのはリアルタイムでシバキ倒されているスライム執事の勤務態度にあった。
皇国で勇者召喚の宣告がなされてから早5ヶ月、そして
勇者が召喚されてすでに早1ヶ月。
「なんでこんな遅くなったのか説明してもらいましょうねー」
壁からべチャリと落ちたジャッキーをにこにこと見下ろすセスの眼光には愉悦の光はなく部屋の隅に転がる黒いアレの死骸を見るような視線を落とす。
普段やさしくにこにこしているセスではあるが仕事のできない部下に対しては……相手の子のみのすべてを把握した上でもっとも効果のある粛清方法をとる。
ジャッキーに対してもそれは例外ではなく……
「はぁはぁはぁはぁ」
「いやぁです、きもいですー!」
踏まれながらもあえぎながらも報告を続けるジャッキーはさすがと言うかなんと言うか腐っても諜報部であったが、そのもたらされる情報の悉くがアレイスタの手足目耳となる子鬼共によってとっくにもたらされていたばかりの情報で、それでも再確認のように報告を続けた。
げしげしと蹴っても尚、足の裏で恍惚の表情を浮かべるジャッキーにさすがにどんびいた混沌姫は穢れ物から逃れるようにユートの背後に回る。
元々セクシャルに関する部分には人一倍免疫のないのだ。
うっすらと桃色に染まった目と潤んだ瞳が言外に彼女の羞恥を訴える。
「?」
いつもはこのリアクションで執務室一の可愛いもの好きが騒ぎ出すのだが今回に限ってそんな気色がない。
「エリザ?」
ユートが騒ぎ出す元のエリザベートを見やると、そこに微笑みながら可愛さを叫ぶエリザベートはなく
「主様、姫様。お下がりを……」
ただ目の前の驚異に眼光鋭く緊張する魔王がいた。
「どうしてそればっかりの情報得て戻ってくるまでにこんな時間がかかるのですか愚図愚図!そんな情報全部しってますよこの、このっ!」
「っぐっ、じゃあみんなもう知ってるんですねー、怒られなくてすんだな。ラッキー」
最後の一発を見舞われ満足げに立ち上がるジャッキーは襟元正すと何かほっとしたようにいうと手を前に出し
どろりと。
その体積に合わない量のゲル状の彼の一部を切り離すと。
「主様ー。これ、“勇者"。お土産です。」
ゲルの隙間から見えるこの世界には通常存在し得ない黒髪を指差しいい放った。
「本当に何やってやがりますかこの愚図愚図愚図ーっ!」
「はぁぁぁぁぁぁっん」




