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IdeaLand  作者: 中川のたり
12/23

Ex.数奇な運命

ぱたん ぱたん ぱたん

窓ガラスに雨粒がぶつかる音が室内に響く、雨音が響くのではなく彼の静かな湖畔のような心に響いているのだとすぐに気づいた。

いつもは騒がしい執務室も夜になると静寂に包まれ意識を集中させなくてもその広さと夜のプレッシャーに圧倒される。

雨の日はいつもそうだった、調子がくるってくるってしかたがなかった。

「……困ったな。」

雨の日は、苦手だった。



絡み付くような湿気と耳に響く雨音。

雨は浄罪だ、すべてを流し許してくれる。

ただ浄罪には罪の意識と自覚が必要で……真っ暗な部屋の隅で膝を抱えて俯く彼はこうして一人苦しみに耐えていた。

許されることは許されず。許されないことが許される。

罪は罪でなく、罪でない事が罪。

そのツミから彼は目を背け続け苦しみ続け苛めつづけられることで彼以外の者が救われる。

まさに人柱、大衆の幸せの為の生け贄。

その命を神に捧げることで神の怒りを静めるのがその役割だが、彼は一体なんのため誰にその無力で儚い身を捧げなければならなかったのか。

一度処刑された彼は失うはずの生を拾い生と死の狭間で不明瞭なものとして存在する。

それに意識を向けてしまうことが彼にとっては最大の恐怖で、しかし無意識に出した結論は彼の最大の幸福であった。

結果だけ見れば幸福、過程を挟むと幸福がうってかわって地獄への入り口に変わってしまう。

彼はそれが怖かった。

地獄に落ちることが、ではなく、確かにそれも恐怖ではあるが、なにより彼が恐れたことは周囲の……彼にとって大事な人が地獄を見ることだった。

ぱたた ぱたた ぱたたたたっ

雨足が強くなる、自然と城の高いところにあるこの部屋のガラスは風を受けてかたかたと振動する。

カタカタ ぱたた かたぱたた

雨足は弱まることなく、指向性を与えられたかのように彼はただ己の内面に目を向け続けるしかなかった。

次々と浮かんでは消えていく思考、過去、現在、未来のこと。

目を向けたくない、目を向ければ考えてしまう。

見たくないこと見なければならないこと、考えたくないこと考えなければならないこと、知りたくないこと知らなければならないこと、気を付けたくないもの気を付けなければならないもの、やりたくないことやらなければならないこと。

考えればやってしまう、それが最善だとわかっているから。

そしてなんだかんだいったところで終わりにはいつもそれをまるごと受け入れてしまうだけの器が彼にはあった。

諦めともいじけともにつかない、そうゆうものであると割りきってしまう度量と私感のなさ。

ヒトであって人に非ず、菩薩にあって菩薩に非ず。

菩薩であろうと足掻く愚かで優しい慈悲と偽善の入り混ざった只人。

なればこそ、彼は求めてしまう。

偽善の果て、皆の幸福。

考えれば考えるほど、それが最善であると嫌でもわかる。

無私の心、奉仕の心、献身の心、元からあったそれをこの世界の神によって増幅強化された一種の呪い。

世界の為、特定の者のため、大義の為に働かされる神の奴隷人形。

それが彼、勇者ユートだった。


窓から光が差し込み。


降り続いた


雨がやむ。


世界は明ける。

暗く陰鬱な世界に窓から神々しく清廉な光が差し込み、彼を照らす。

そのはこの世のすべての苦しみから解き放たれたように朗らかで……彼はその世界の祝福を

『ーーーーーッ』

世界が闇に閉ざされた。

「だめよ?ユート。世界なんかには渡さない、ずっと私のものよ、ユート。」

陰鬱な闇ではなく、どこまでも黒く、厚く、濃密なそれ。

真暗で強引ではあるがなぜか暖かみがある穏やかなそれに包まれてユートは意識を手放した。




腕に抱かれてやや児のように眠る彼の温もりと人であるには穏やかにゆっくりと脈打つ鼓動をじっと感じる。

確実に、麻薬のように中毒性を持って天井へ引っ張りあげる力が先程の彼を襲っていた。

与えられた役割と果たせと、その本分を忘れるなと。

彼の心根……根元と言い換えることもできるそれを利用して発せられるそれは強制力を強く持って彼の魂を蹂躙する。

恐らくは彼女の留守を狙うというより普段彼女がいることで抑えられる強制力は日に日にその力を増していく。

その増加の原因が彼女の背後で鎖にがんじがらめになっていながらも平然とする美少女が原因であるのは明白。

「その殿方はどこか悪いのですか?……あら、いい殿方。」

「手ェだしたら擂り潰すわよ、糞魔王。」

「あら、レディがそんなはしたない言葉遣いを「黙りなさいこの売女」んっうっ」

すぐにでも喰ってしまいたい衝動を押さえてルナは今一度腕の中の温もりを感じる。

彼を救う手立てはたった、要件も揃いつつある。

(もうすこし、我慢しなさいよ?あなたは私の愛しいユートなのだから)

確かな意思をその目に湛えて彼をもう一度、その闇がごとく強く穏やかに抱き締めた。

「うんっむっう《目の前で美女といい殿方がだきしめあってて私は鎖で緊縛プレイ……やだこれ燃えてしまいます》」

「仕様もないことに短縮言語使わないで、馬鹿魔王」

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