帰るまでだぞ?
それからどのくらい経っただろうか。イマイチ・・・というか全く状況が分かってない若者が二人―――
僕と後輩だ。そして目の前にはごまぞう君ともったんが明るい顔で立っている。手を繋いで・・・
「あっ、俺たち付き合うようになったから。ね」
ごまぞう君は堂々と言い切り、繋いでいる手を僕たちに見せつける。
「うん、そういうことだから。なんか待たせちゃってごめんねー。ね」
もったんも幸せそうな顔で、心は籠ってないないであろう謝罪をする。
「いや、それはいいけどさ。何で最後に確認し合うの?それすごくむかつく」
その何気ない相槌にさえイラッとしてしまうのは、僕の器が小さいせいだろうか。いや、そうでないことを願わんとするばかりだ。というかこの状況でイライラしない人がいたのなら、是非ともお目にかかりたい。しかし当初の目的は達成できたということで、ここは喜ぶべきか。
「ってか待たせちゃってじゃないわよ!あなたたちをくっつけるのに私がどれだけ苦労したと思ってるのよ。その苦労を全部おじゃんにしといて結局二人だけで話まとめちゃうなんて・・・」
後輩はいっそ清々しい程に開き直る。
「止めろよ!もったんは何も悪くないんだ!!責めるのなら僕を」
ごまぞう君は一歩前に出て、その容姿からは想像もできないような男前な台詞を一丁前に言い張る。
「いいえ、彼は何もしてないわ!さぁ叱るなら私を!!どんな罵詈罵倒にも耐えてみせるわ」
もったんも足並み揃えてごまぞう君を擁護する。
「えっと・・・取り敢えずあなたたちの惚気に私を混ぜないでくれる?無性に腹立つから」
後輩の腹立つ宣言にまたもや二人の庇い合いが始まるが結局は、
「いやいや、俺の方がもったんのこと好きだし!」
「違うわ!私の方がごまぞう君のこと思ってるもん」
惚気合いの泥仕合へともつれ込む。
「・・・うん、ほんと何だこれ」
目の前で繰り広げられる甘々な喧嘩に呆れてぐうの音も出ない。
「なんか・・・やってられないです」
呆れることさえ放棄した後輩は半笑いである。
「あー・・・、僕はもう帰るわ。あと、抱きしめ合うのそろそろ止めたら?回りの視線が痛いんだけど」
惚気合いがどう発展したのか、もう5分近く二人は強く抱きしめ合っていた。
「私も帰ります! じゃああとは二人でごゆっくり・・・」
後輩もこの甘々地獄が堪えられないのか、顔色が悪い。
「そっか。じゃーな、二人共!なんかごめんなー!」
なんかで謝ってくれんな。僕は心の中で愚痴り、最寄り駅の方へと歩き出す。
「あ、先輩。私もついていきます」
後輩が小走りでついて来たのを黙認すると、するりと自然に手を絡めてきた。
「何しとる。もう終わったんだからカップルぶらんでも良かろう」
後輩は引っ叩かれたようになるが、気にしない。元々そういう約束だ。
「えー、いけずぅ。あの・・・いっそほんとになっちゃいます?カップル・・・」
ぼそぼそと何か唱えているが、僕の知るところではない。それよりも今は、
「このあと晩飯食べに行くんだけど、一緒行くか?」
日が傾き、街灯も灯り始める時間、さっきから腹の虫が鳴りっぱなしで正直辛い。それに、今なら大胆になれそうな・・・って大胆になって何をする? 誘いに横縞な気持ちが含まれていることに今更ながら気付く。もしかして本当に―――
ここから先は頭痛の種になりかねないので、考えなかったこととする。
「良いですね、行きましょう!私、良い店知ってますよ」
あっなかなかやるな。正直に感心するとまた調子に乗りそうなので、心の中にしまう。そしてそっと後輩の手に触れる。
「帰るまではカップルのままでいてやる。良いな?」
はい、と後輩は満面の笑みを浮かべ、手を握り返す。こういう素直なところは可愛いのにな、と普段は見ることのできない後輩を楽しむ。ある程度歩くと、駅の近くにある懐石料理屋に到着したのだが・・・
「閉まってますね。定休日でしょうか・・・」
中の電気はついてなく、ドアの鍵も閉まっている。
「どうしましょうか・・・」
考える後輩をよそに、いい加減寒いし、帰りたいなとネガティブな思いが頭の中を独占し始めた。
「そうだなぁ・・・ 僕の家で何か適当に食うか?俺もそこそこ作れるし、酒もある程度ならあるぞ」
後輩は緊張したようなおもむきになるが、その目は輝きを放っていた。面白いなーと思いつつ、再び手を固く結び二人で我が家へと帰宅することとなった。
やばい、詰まった・・・ 誰か動いてくれ――!!