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LOVELY WHO  作者: はるやん
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分かってくれればいいんです。

僕は今、夢を見ている。いや、何故分かるのだと、そう問い質されれば答えにくいのだが、とにかく夢を見ている。それは、とても幸せな夢だ。僕が誰か顔はぼやけて見えないが、多分美人な女性とイチャついているのだ。そんな幸せな夢に他人が入ってくることなど出来る筈がない、の、だ・・・


「せんぱーい、遊びましょう!」

玄関の方で、声がする。その声は透明感がありながらも、どこか芯が通っており、聞いていて心地が良い。同時に聞いたことのある声でもあり、その持ち主のことを考えると、不愉快になることこの上ない。

僕は夢を見ていた筈だ。どんな夢だったかはっきりとは思い出せないが、幸せな夢だったということはうっすらと覚えている。そんな幸せな夢の途中で、あいつなんかに起こされたということが、更に僕を不愉快にさせる。休日くらいゆっくりと寝かせてほしいものだ。近くにあった時計で現在の時刻を確認すれば、朝の7時半である。何もこんな時間に来なくても良いのではないか。心の不愉快は、怒りへと変わる。

僕は後輩の誘いを無視し、頭の先まで布団を被る。昨日引っ越しの作業が終わった僕は、心身共に疲れきっており、睡眠を欲している。後輩の相手をしていると疲れるだけであり、今の僕には害でしかない。

しかし何故引っ越したばかりの、それこそまだ誰にも住所を教えてもないこの家に後輩が辿り着けたかというと、ここは元々不動産屋を営む後輩から紹介してもらったマンションの一室だからであり、決してストーカー紛いな好意にあっているというわけではない。が、ここの共用玄関はオートロックの筈である。僕の部屋のある6階までどうやって上がって来たというのだ。まさか本当にストーキングされているとでもいうのか。背筋がぞくりとする。

「せんぱーい、まだ寝てるんですかー?開けますよー」

やはりストーカー行為にあっていたようだ。後輩はいつの間にか合鍵まで作っていた。解錠音が二回し、玄関ドアが開く。僕は寝たフリで後輩を迎え撃つ。廊下を歩く音がし、ガチャリと寝室のドアが開けられる。後輩はベットの隣まで来て、掛け布団を捲る。

「やっぱり寝てる。今朝もお元気そうで」

後輩は僕の「あれ」を軽くポンと叩く。おい、何しとるんだ。

「寝顔も可愛いですね」

語尾にはハートマークが付きそうな甘い声で可愛いだなんて囁かれると、その気がなくても勘違いしてしまう。後輩は顔の近くまで自分の顔を寄せ、まじまじと僕の顔を見られているような、そんな視線を感じる。そして、僕のほっぺたに軽くキスを落とした。えっなんで? 僕は突然の行いに言葉を失う。自分のボキャブラリーの無さに失望しつつ・・・

もう一度頬にキスをすると、次は口へと落とす、だけでなく、舌まで絡めてくる。実際入って来たのは一瞬だったが、あまりに驚いてつい目を開けてしまった。

「あ、起きましたか。おはようございます」

後輩は平然と朝の挨拶を交わす。

「お、おい。何でお前がここにいるんだ」

僕は小さくあくびをし、襲いくる眠気と格闘する。

「そりゃあ、この部屋は私が紹介したんですからいてもおかしくないじゃないですか」

とんちんかんな受け答えに若干の眩暈を感じつつ、状況を整理させようと、覚醒したばかりの脳に鞭を打ってフル回転させる。まず聞くべきは、何故ここまであがってこれたのか、だな。

「ここのマンションはオートロックだったように記憶していたが、今朝は壊れているのかな?」

僕はもう一度大きなあくびをし、首筋から背中にかけての筋肉を伸ばしてみる。寝ている間にこわばった身体がほぐれて、気持ちいい。

「いえ、正常に動いていましたよ。問題無しです」

僕のあくびに釣られたのか、後輩も大きく口を開き、眠たげな顔で目を擦る。元々顔のパーツが整っているせいなのか、そういう何でもない仕草にいちいち箔がつく。後輩がモテるわけが少し分かった気がする。

「じゃあ何でお前は今、僕の部屋に上がり込んでいるんだ?鍵を渡したつもりはないぞ」

ベットから降りて、カーテンを一気に開ける。すると、朝日が容赦なく部屋にふりこみ、あまりの眩しさに目を薄くする。

「何でってこのマンション、私のおとうさんの持ち物ですもん。鍵の一本や二本、ちょろいもんですよ」

何がちょろいのかは分からないが、ここがこいつの家の持ち物だったなんて初耳だ。

「そのおかげでこんないいところに低家賃で住めてるんですから、文句はないですよね」

なんでもこの部屋は元々月20万で貸していたらしいが、後輩が親と直談判した結果、8万で借りられるようにしてくれていたらしい。

「そうだったのか、悪いな。でも、ほんとに良いのか?」

その話を聞いた僕は、後輩に感謝すると同時に申し訳ない気持ちになった。家賃の差額を後輩が持ったりはしていないだろうか。

「全然大丈夫ですよ。将来うちに婿養子に来る予定だと言ったら一発でした」

そうか、それは良かった・・・

「…って良かねーよ!何が婿養子だよ。ざっけんな!!」

あまりに一方的な婚約報告に唖然としつつ、沸々と湧きあがる怒りを思いのままにぶつける。

「本当に意味分からん。何でお前ん家に嫁がないかんとや、ゴラァッ」

さすがに後輩もひよったみたいで、ばつの悪そうな上目遣いで僕を見つめる。そんな目で見つめられると矛を収める以外、選択肢はなくなり、嫌々気持ちを落ち着かせる。

「すまん、言い過ぎた。でも婚約なんてした憶えはないぞ?」

僕はワレモノを扱うような口調で、優しく催促する。

「で、でも、おとうさんを納得させるには、そのくらい言わないと、ダメかなって、」

涙目で声も震えていたが、そうまで言わないと良しとは言ってくれなかったということを訴えかけようとすることは伝わる。そこまで僕のためにしてくれたのかと、改めて後輩に感謝はする。

「分かってくれればいいんです」

後輩はニコリと柔らかな笑顔を弾かせた。泣き顔もなかなか可愛かったが、やはり笑っている顔の方が似合う。

「ところで、ほんと何しにきたんだ?」

ここまで来るのにどんだけ時間かかってんだと思いながら、本題に入る。

「あっ、すっかり忘れてました。私と付き合って下さい!」




・・・・・・えっ?

何言っとるんだ、おい。

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