こんな物件いかがっすか
僕は今、一人で住む新居を探す為、中学校時代の後輩がやっている不動産屋に来ている。ついこの前まで暮らしていたアパートは、「元」彼女がビッチだと発覚してからなんだか住みづらくなり、家賃もばかにならない為、引っ越す羽目となった。その「元」彼女はというと、10日間で3人の男とホテルに入ってゆくところを目撃されており、僕の記憶の中から抹殺することが、脳内裁判で可決された。
「先輩、テレビのリモコン取って下さい。そこの黒いやつです」
後輩は、社長椅子に深く腰掛け、客である僕に対し、茶の一杯も出さずにのんびりとくつろいでいる。僕は机の上にある幾つかのリモコンの中から唯一黒いものを取り、机越しに渡そうと腰を浮かすと、パイプ椅子が軽く悲鳴を上げる。
「はい・・・って何パシってんだよ」
僕は後輩の頭をリモコンではたく。
「いったいなぁ、何するんですか。たんこぶでもできたらお嫁に行けなくなるじゃないですか」
後輩は悪びれる様子もなく、適当にチャンネルを回す。
「それより先輩何でいるんですか、暇なんですね。私を見習って下さい」
自分が犯した無礼は棚に上げて僕を暇人扱いする辺り、出会ってから全く変わってない。
「何でいるって、ここは何する所だよ。部屋探しに決まってんだろ。それにお前よりは忙しいわ。彼女にフラれた後のやるせなさからくる労働力舐めんなよ」
あぁ、ついいらないことを口走ってしまった。こいつにだけは言うまいと思っていたのに・・・ 情報を引き出すのが上手いのはさすが我が後輩といったところか。
「あの彼女さんとは結局別れちゃったんですね、良かったです」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、馬鹿にしたような視線で僕を舐める。
「良かねーよ。で、あの部屋は独り暮らしにはかなり広いから、また違う部屋を紹介してくれんかい。あとそのにやけ顔今すぐやめろ。キモいぞ」
「キモいとはまた失礼なことを仰る。えぇどーせ、」
後輩はここで言葉を切ったっきり喋らなくなった。
「どーせなんだ。このまま一生処女ですよー、か?」
19歳相手に何をムキにになっているのだと、僕は自分の心を落ち着かせるべく一度深呼吸をし、呼吸を整える。
「いえ、別に続きはありません。どーせ、で終わりです。ついでに私、処女じゃありません」
えっ 一度落ち着きを取り戻した僕の心だったが、今の発言で、また高鳴る鼓動は速くなっていく。
「ま、まさかや、ややヤったのかい?」
何故こんなにも動揺しているのか、いささか謎であるが、僕の反応は彼女の満足に値するものだったらしく、柔らかな笑顔が弾けた。
「冗談ですよ、先輩。でももてるのは事実です」
今の笑顔は先程の不気味な笑みとは違い、美しい。彼女はこのような顔も出来るのだな、と長い付き合いの中で、新たな発見である。
「そういえばお部屋を探しに来たんでしたね、すっかり忘れてました」
あぁそうだ。僕は部屋探しの為にここまで来たんだった。後輩が処女だろうが、非処女だろうとどうでも・・・はよくないが、今は関係ないことだ。後輩は部屋の奥の方からファイルホルダーを取り出し、パラパラと捲る。
「そうですね、この部屋なんてどうでしょう。駅からも近いですし」
後輩が指した物件には「1LDK、最寄駅まで徒歩3分、日当たり良好、オートロック」
と書いてある。
「家賃は・・・16万かぁ、高いな。出来れば9万以内がいいんだけど」
僕の提案に後輩は眉をひそめる。
「大体このくらいがこの辺りの相場なんですけどね。でしたら・・・こんな物件はいかがですか。ルームシェアにはなるんですが、3LDKで家賃8万3000円です」
ルームシェアか、全く考えになかったな。今まで独り暮らしをしたことのない僕にとっては、間接的ではあっても同じ家に誰か居た方が、安心できるかもしれないな。少し話を聞いてみるか。
「ルームシェアって、同じ家に住む人のことは分かるかい?」
後輩はファイルを数ページ滑らせ、目を細くさせる。
「あ、ありました。元グラビアアイドルの人みたいですね」
おっブラビア!? 僕の興味は一気にそのルームメイトへと向けられる。
「へぇそっか。え、3サイズなんて分かったり、する?」
僕はあくまで平然を装い、何となくな感じで聞いてみる。
「3サイズは…載ってないですけど、最盛期のバストならHカップらしいです」
えっと、A,B,C,D,E,F,G,H・・・おぉHカップか! 益々いいな。
「その人の顔の感じなんて分かるわけない・・・よね?」
あくまで、あくまで平然を装いながらも、心の中では火山が噴火寸前だ。
ん、今最盛期って聞こえたような・・・ ちょっとちっちゃくなっちゃったのかな?
「先輩、下心見え見えですよ。まあいいですけど。可愛・・・かったみたいですよ」
可愛かったって、何で過去形なんだ?もしかして・・・
「その人って今何歳?」
どうかこの胸騒ぎは勘違いであってくれ!! もう目の前にはバラ色の人生が待ってるんだ。今更・・・
「えっとですね、今年で86歳です」
はい終了ー。心のマグマの皆様、お疲れ様でした。帰りは安全運転でお願いしゃーっす
「老人の介護含みで8万3000円は安いと思うんですけどねー」
まぁそうなんだろうけど、一度ピチピチのギャルを期待してしまったらそりゃ帰りたくもなるわ。
―――美し過ぎるカードゲーム
「先輩、わがままですね」
白い目が再び、僕を舐める。
♪~♪~♪~
僕らはいつだって
「お?」
おっ、このCMは・・・
♪~♪~
変わらずネバーギブ
「「アップアップアップ」」
・ ・ ・
しまった、ハモってしまった。一生の恥だ・・・
「あっハモっちゃいましたね。えへぇ」
えへぇ、じゃねぇよ。チクショーちょっと可愛いじゃねぇか。
「気が合いますね。結婚しましょう」
「なんで!?」
考えるより先に声が出てしまった。本日何度目かの問題発言は、またしても僕の思考をフリーズさせてしまった。
「なんでって、先輩のことが好きだからですよ」
「えっ」
はい、またしてもフリーズ。どんだけ低スペックなの・・・
「早く先輩のしゃぶりたいです!」
後輩は柔らかな笑顔を弾かせたが、その笑顔は、確かな怒りを呼んだ。
「っざっけんなー」
頭に血が上った僕は思いに任せて後輩を引っ叩く。
「い、いたっ痛いですよぉ。うぇ~ん」
ついに後輩は泣きだしてしまった。だが、僕の怒りはなかなか収まらない。何か、自分の気持ちを踏みにじられたような気持ちだ。それでもこうして後輩に泣かれると、とてもいけないことをしてしまったというようになってしまうのは何故だろう・・・
「あぁ・・・悪かった」
ヴゥーーッヴゥーーッ
携帯でも鳴っているのだろうか、微かにバイブが振動する音が聞こえる。
「おい、どこかでバイブが鳴ってないか?」
後輩が泣き止むのを待って聞いてみる。
「あっよく気付きましたね」
さっきまで泣いていたとは思えない程、ケロッとした声で後輩は答えた。
「おい、気付いてんならなんで出ないんだよ」
まだ軽くイライラした言い方になってしまったことを若干後悔するが、後輩は気にしていないようだったので、少し安心する。
「出ない?何言ってるんですか先輩は。バイブならここに」
そう言うと後輩は何故か机に上がり、スカートを捲る。
「お、おい止めろ。パンツが見えるぞ」
その行為があまりにも堂々としていた為、顔をそらすタイミングを失い、後輩の白パンを・・・否、白パンの中で蠢く黒い「何か」をばっちりと見てしまった。
「それは・・・」
これで一ヶ月はオカズに困らない、と思ったことは墓場まで持って行くことにする。
「いや、実は先輩からこっちに来るって連絡があってから急いでつけたんですよ。色気づくかなぁと思って。先輩、そっちの方が興奮するでしょ、どうですか?」
いったいどこにつっこめば・・・ そして不本意ながら、勃ってるし。
「お前、大丈夫か?」
後輩は四つん這いの態でピクピク震えている。
「腰が、砕けそう・・・」
そのまま後輩はパタリと倒れ、動かなくなった。あーぁ、ダメだこりゃ
こっからどーしたもんか…