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レジェンド  作者: KOUHEI
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(Legend) 砦のノヴィン

手の込んだ衣服を斬新に袖と丈を短く切って腰帯で締め上げた

活動的な女エイムの後を付いて石積み壁の通路を四つ横切り、

漆喰で塗り固められた円柱が支える大きな祭壇の広間にレツは通された。


エイムはなんども立ち止まっては物珍しそうに眺めるレツが気にいらない。


「荷物を置きな。そんなものを持って入られちゃ困るんだよ。あんちゃん。その着物はなんだね。良くもまぁ。そんなずたずたぼろぼろの服で親方に会おうってか。せめて髪の毛ぐらい何とかしろ」


堪忍袋の緒が切れたエイムは立ち止まりふり向きざまにたまっていた言葉を吐き出した。


伝説の谷を、泉を越えてきた若造の髪の毛は

塵除けの布が破れてひらひらゆれ、

まとめ上げた髪紐の房飾りも最初の糸の状態に戻りまだらに変色して元の織り柄も分からない。


「わかった」

怒っている女に素直にレツは従う。確かに女や砦の住人とは格段に違って汚い。


パンパンと埃を払うと小石と砂がばらばらと落ちてエイムの顔がもっとゆがみ唇が震えている。

おまけに埃でエイムの鼻までもむずむずする。


「なんだい。この匂いは。アンちゃんは妙な匂いをいっぱいつけているね。こにはね、匂いで騙される女はいないんだよ。まったく幽霊のがまともな服を着ているよ」


困った顔でレツはぶつくさ言う女を見た。こんな所に正装して来いという女の考えがわからない。


エイムの手にはいつ持ったのか長い棒がある。

広間の入り口付近の土間からは、上がるなと言って棒を振り回して命令している。


広間全体が見渡せる入り口付近の土間で女は棒で座れとレツの肩を叩くが

レツは突っ立って、美しい布が開けられた奥から出てくる人物を待っている。


幾重にも積み上げられ石は漆喰で塗り固めレツの予想を裏切って都の風情を漂わせている。

漆喰の壁は森と美しい湖が描かれて心を和ませる。

奥の垂れ布には古い物語の織られ祭壇の左右に下がっている。

豪華な祭壇には宝玉で出来た花や木細工物の香炉には薄く煙が昇ってよい香りを部屋中に広がっている。


祭壇横の薄布が引き上げられ恰幅の良い男が祭祀の衣装を羽織って現われた。


思わずレツは声を上げた、

「おお、エンケの守人であらせられるな。これはこれは初にお目にかかる我はレツと申す。見事な衣装であるな。このようなところで守人に会うとは信じられぬ」


五間(9m)余りある守人との距離を一気に縮めて守人の前にレツは座り込む。


「下がりな。なにをふざけたこと」

止まれという前に近づいたレツに驚きながら

エイムの持っていた長枝が土間に叩きつけられ半分に折れる。


エンケの守人ジンジャーことノヴィンは黙ってレツの無礼を許し

片手を挙げてエイムの言動を注意した。


男の顔の正面でレツは足を止めて、

「許されよ。この砦の主とあらば得と御尊顔を拝みたかった。引き戻るゆえ許されよ」

エンケの守人を近くで観察したレツは晴れやかにエイムの忠告を守って

一段下の土間に胡坐を組み、エンケの守人の言葉を待った。


「そこまで下がらずとも良いが。おぬしは道中が長かったからのう・・まぁ良い、尋ねたい。レツと申されたな。どうやってアナスシンの森を抜けたのか。谷を渡るには日数がかかったとは思うが、行く年ほどかけてここえ来られたか。途中で食料を使い切ったようだが、ここで逗留して黄珀の谷越えをするには荷が少ないように思う。国は何処だ。アバソロか宗教心の厚いパルソフォ国か」


軽い失望を覚え口の端に諦めの笑いが浮かんでは消える。

伝説の英雄にしては若造は痩せて貧相である。


「守人よ、エンケの言葉が載るクノショ伝は知っておろう。エンケの言葉を信じて歩んだのだ。我の国は小さい。そこもとの耳にまで届いているとは思えぬが。尋ねられたので答えよう。トルサリノ・ヴァネラ・ベラスと申す。知らぬようだな。それで良い。我は国を春に出てきた。この土地は夏を迎えようとしている。この季節を逃すと又次の夏を待たねばならないでな。長逗留をするつもりは無い。出来れば明日にでも黄珀の谷に向かうつもりである」

快活に答える。


「道は・・どうやって見つけられた」

どうしても聞きたいことはこの一語に尽きる。

千人の兵士を連れて行ってもアナスシンの森から抜け出られない。たぶんドランカの谷も越えられないだろうとノヴィンは思っている。


「道標を辿ってきたのだ。先人者のあなた方が見つけられたのだから、我にも見つけられぬはずが無かろう。道は岩に刻まれておる、大地に刻まれれておる。木々にも花々にも。それが答えである。後数日たてば二人の旅人が参る。良ければ彼等にも労わりを持って接して欲しい。エンケの守人よ頼みがある。我のこの玉をそなたに渡すゆえ、馬を預かってもらえぬか。我は是が非とも馬を国につれて帰りたい」

と穏やかにレツ。

「あんたさんは・・・黄珀の谷を渡って戻ってこれる・・とおっしゃっているんですかい?」

昔の言葉使いが思わず出る。


懐からレツは袋を取り出してノヴィンの前に放り投げた。

「そうだが。玉五つでは足りぬか。良ければカマドも貸してもらえるとありがたい。何、我の持ち物をちょっと焼いておきたいのだ」


袋の中身を取り出してちょっと内心驚きノヴィンは垂れ布の後ろで見ているエイムや

他の衆に見せるように玉を指でつまみ上げると、垂れ布の向こう側でため息が出ている。


「一寸はあるよ。五つもあるって」

とたれ布の後ろで驚いた子供の声。


「よござんすよ。馬を預かりましょう。今は夏ですじゃ。草は芽吹いています。食べるには困らないでしょう。厩もあります。小僧を一人馬番につけましょう。それでようございやすか」


馬は世話を焼かずとも売り払えるし、

汚い兄ちゃんの懐からは大国の王が持つような玉が五つも出てきてノヴィンを喜ばせる。

カマドを使わせ、一泊止めても山ほどお釣りが出る(お釣りなど払うつもりは無いが)

ノヴィンの許しが出るとそそくさにレツは土間を離れた。


レツが居なくなるとエイムが垂れ布の影から腕組をして現われ、

「親方。何を考えてなさる。あの汚い若造がエンケだと思っていなさるので。ありゃ道で迷い込んできただけの奴ですぜ。言い伝えどおりの人間じゃない。馬だって良く見れば年老いてみっともない。神馬とは似ても似つかない。次の勇者を待ちましょう。ここに来たいって言うやつらは五万と居るんだその中に本物が居ますよ」と真面目な顔で言う。期待は裏切られている。


「エルム、お前の言うとおりさ。ここを見つけて送り出した勇者はまだ旅路の途中さ」

「グゼニナとギルニンの兄弟だって道標が見えるといっている。彼等の旅立ちを手伝ってやらねばならんからな」

と思い出したように言う。屈強な若い王子達は信心深い。


「一月後にはここの夏も終りになる。わしらも旅支度を整えねばの」

「次のお国はグゼニナ国とギルニン国ですかい。パルソォ国の王子はまだ幼い。あの子は見込みがありそうですね親方」次の旅は大国だと喜んでいる。大きな街には珍しい物がたくさん集まる。

「わしもそう思う」

人の影があると聞いた時には思わず頭が真っ白になったが

高鳴る胸で会話を交わしたものの完全に拍子抜けしている。



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