路地裏の少女
本作は、以前発表した短編小説を連載化したものです。
短編版を既にお読みいただいた方も、今回初めてお読みになる方も、どうぞお楽しみください。
新たな始まりにご一緒いただき、ありがとうございます。
リドリアの王都は、英雄たちが崇拝される場所だった。
彼らは王国の守護者であり、
民衆の救世主だった。
子供たちは憧れの眼差しで彼らの名を唱え、いつか彼らのようになりたいと夢見ていた。
中央広場には彼らの像が立ち、
吟遊詩人たちは彼らの武勇伝を歌い、
貴族たちは宴に彼らを招いた。
そして、飢えや恐怖に苛まれながらも、人々は彼らを希望の象徴として見続けた。
少なくとも、世間にはそう映っていた。
しかし、光り輝く大通りや優雅な建物、酒が惜しみなく振る舞われる壮麗な広間とはかけ離れた場所に、王国にはもう一つの側面が存在していた。
汚れた側面。
腐敗した側面。
多くの人が知っていたが、誰も口にしようとはしなかった真実。
その夜、市場の近くの路地はほとんど人影がなかった。
店はすべて閉まっていた。
柱に吊るされた松明が、汚れた壁と湿った石畳に弱々しい光を投げかけていた。
食べ物、ワイン、汗の匂いがまだ空気中に漂い、隅に積み上げられたゴミの悪臭と混じり合っていた。
三人が路地を歩いていた。
年月の重みで顔がこわばった老人。
疲れ切った表情の女。
そして、誰かに言葉を聞かれるのを恐れているかのように、神経質に左右を見回しながら歩く男。
「またか…」老人は歯を食いしばって呟いた。「紅の英雄がまた一軒の家を貸し切って宴会を開いたらしいぞ。」
女は眉をひそめた。
「宴会?また?」
「ああ」老人は苦々しく吐き捨てた。「酒、女、賭博…きっと一銭も払ってないだろうな。」
男はたちまち身構えた。
「もっと静かに話せ。」 「もっと静かにしろって?」女は怒りを抑えきれずに言い返した。「いつまでひそひそ話をするつもりなの? みんな彼の行いを知っているわ。」
男は女の腕を取った。
「だって彼はまだ英雄なんだ。わかるか? 英雄だ。もし誰かに聞かれたら、問題は彼ではなく、我々に降りかかる。」
女は無力そうに目をそらした。
英雄。
かつては守護を意味した言葉。
名誉。
犠牲。
しかし、あの王国では、一部の者にとってそれは完璧な盾となっていた。
彼らは酒に溺れ、
商売を破綻させ、
人を辱め、
売春宿に押し入り、女を連れ去り、少しでも睨みつけた者を殴りつけた。
そして「英雄」という称号さえあれば、ほとんど誰も彼らに手出しできなかった。
王国は象徴を必要としていたからこそ、彼らを守ったのだ。
ギルドは彼らの名声が冒険者と金を引き寄せるからこそ、彼らを庇った。
教会は沈黙を守った。英雄たちが堕落していたことを認めれば、人々の信仰が崩壊してしまうからだ。
すべては美しい言葉の裏に隠されていた。
王国のため。
人々の平和のため。
人々の希望のため。
しかし、真実は依然としてそこにあり、闇の中で息づいていた。
「マーレンの娘が2週間前にいなくなったんです」と女は震える声で低い声で言った。「近所の人はみんな、誰が彼女を連れ去ったのか知っています」
老人は怒りに目を閉じた。
「そして誰も何も言わない」
「誰も何もできないからだ」と男は答えた。「それが真実だ」
老人は拳を握りしめた。
「北の村のことも聞いた。山賊の仕業だと言っていたが…生存者が一人いた。たった一人だ。そして彼は炎の中に赤い鎧を見たと証言した」
男は顔色を失った。
「もう十分だ。」
「いや、まだ足りない!」老人は唸った。「奴らは俺たちを殴り、わずかな財産を奪い、娘たちを誘拐し、村を焼き払う……その上、奴らを英雄扱いしなければならないなんて。」
路地は静まり返った。
三人とも答えられなかった。
心の奥底では、皆それが真実だと分かっていたからだ。
王国は英雄を罰しないだろう。
ギルドは最も有名な人物を裏切らないだろう。
教会は選ばれし者たちの名誉を傷つけないだろう。
そして民衆は……ただうなだれるしかなかった。
「誰か奴らを止めてくれればいいのに」女はついに弱々しい声で言った。「せめて一度だけでも。」
男は苦笑いを漏らした。
「誰が?誰が奴らに逆らえるというんだ?」
その時、それは起こった。
女性はよそ見をしていたため、壁際の何かに躓いた。
「あぁ…!」
男は彼女が転ぶ前に支え、三人は下を見た。
そこには、石壁にもたれかかっている少女がいた。
一見すると、ただの物乞いのように見えた。
マントは破れて擦り切れていた。
靴はすり減っていた。
黒い髪が乱れて顔にかかっていた。
両手には小さな木製の椀を持っていた。
空っぽだった。
女性は目を見開いた。
「本当にごめんなさい…全然気づきませんでした。」
少女はゆっくりと顔を上げた。
顔は痩せこけていて青白かった。
黒い瞳には怒りも恐怖も感じられなかった。
ただ静かだった。
不思議なほど静かだった。
「大丈夫です…」少女は弱々しい声で答えた。「ここにいたのが悪かったんです。」
男は安堵のため息をつき、ポケットに手を入れた。
彼は銅貨を取り出し、それをボウルに落とした。
鋭い音が路地に響き渡った。
「ほら」と彼は言った。「大した額じゃないが、少なくとも温かいものが食べられるだろう。」
少女はそれを見つめた。
静かにコインを受け取った。
それから彼女は軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
女は悲しげに彼女を見た。
「彼女はまだとても若い…」
老人は苦笑いを漏らした。
「この王国では、英雄であれば王様のように暮らせる。だが、弱者であれば…誰も見向きもしない。」
三人は歩き続けた。
彼らは彼女を通り過ぎ、通りを進み、次第に市場の影と遠くの明かりの中に消えていった。
角を曲がる前に、女は再び独り言のように言った。
「本当に、彼らを止められる人がいたらいいのに…」
男は首を横に振った。
「そんな人はいない。」
路地裏の少女は、その言葉を黙って聞いていた。
彼女は指で銅貨をなぞった。
松明の光に少しだけかざし、無表情に見つめた。
そして彼女はつぶやいた。
「あるわ」
誰も彼女の声を聞き取れなかった。
夜風が通りを吹き抜け、彼女のぼろぼろのマントの裾をかすかに揺らした。
少女は立ち上がった。
その瞬間、無力な乞食の姿は跡形もなく消え去った。
彼女は背筋を伸ばした。
瞳は冷たく光った。
彼女の存在感は変わった。
もはや、世間に見捨てられたか弱い子供の姿ではなかった。
彼女は何か別のものに似ていた。
夜に属する何か。
彼女はマントの下に手を伸ばし、小さな折り畳まれた巻物を取り出した。
彼女は静かにそれを広げた。
そこには、数行の几帳面な文章が書かれていた。
対象:紅の英雄、ヴァルド・クロム
推定レベル:78
罪状:村の虐殺、民間人への暴力、複数の女性の誘拐
注記:ギルドと教会による隠蔽工作が確認されている
少女は表情を変えずにその内容を読み上げた。
「また…」と彼女は呟いた。
驚きも、憤りも、怒りも感じさせなかった。
ただ、疲れたような声だった。
まるで何度も同じ光景を見てきたかのように。
遠く離れた、街の裕福な地区では、音楽が鳴り響いていた。
貴族たちは笑い声をあげ、
グラスをカチンと鳴らし、
英雄たちはいつものように称えられていた。
一方、路地裏では、同じ伝説の影の下で、悲しみ、恐怖、そして怒りがますます募っていた。
少女は羊皮紙を折りたたみ、しまい込んだ。
彼女は貴族街の方を見た。
そこは、豪華絢爛な邸宅と護衛に囲まれた場所で、紅の英雄はまたもや享楽にふけっていた。
彼はきっと笑っていただろう。
きっと酒を飲んでいただろう。
そして、いつものように、何ものも自分を傷つけることはできないと信じていたのだろう。
少女はマントを整えた。
「さあ、仕事の時間よ。」
彼女の声には、もはや以前のような弱々しさはなかった。
王国では、彼女は知られていたとしても、取るに足らない放浪者としか見なされていなかった。
誰も見向きもしない、哀れな乞食。
街の汚れの中に紛れる、ただの影。
しかし、最も暗い片隅、貴族の館には決して届かない囁きの中に、別の名前が存在していた。
ほとんど誰も口にすることさえできない名前。
英雄の処刑人。
英雄が一線を越えた時。
英雄が怪物と化した時。
王国も、ギルドも、教会も、見て見ぬふりを選んだ時…
彼女は現れた。
裁くためではない。
議論するためでもない。
許すためでもない。
ただ、狩るために。
少女は歩き始めた。
彼女の姿は路地の闇に次第に消え、マントと剣を身にまとった怪物たちを未だに崇拝する街の灯りへと向かっていった。
そして遠く離れた、笑い声と酒と音楽に満ちた屋敷で、一人の英雄が祝宴を続けていた。その夜、彼がもはや狩人ではないことに気づかずに。
なぜなら、誰かが既に近づいていたからだ。
そして、その人物は…
彼女だった。
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