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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第1章 最後の戦いにして序章
7/50

転生者、黒淵深志――見知らぬ仮面

 衝撃の告白に、アレスたちは言葉を失った。

 これまでの旅路で、そんな素振りは一度も見せなかった男――その静かすぎる暴露は、まるで現実から乖離していた。

「改めて俺の名は『黒淵深志(くろぶちしんじ)』。能力は……見ての通りというべきか死霊術。それが俺の正体だ」

 けだるそうに息を吐き、淡々と続けた。

「今まで黙っていたことは――素直に謝りたい。ただうっかり正体を明かすとさすがにこの世界でまともに生きていけないからな。悪気があったわけじゃなかったんだ」

 だがその口調は、感情を置き去りにしたような冷たさに満ちている。

 その言葉のどれひとつにも熱はなく、まるで台本を読んでいるかのようだった。

 アレスは思わず息を呑む。

 混乱の渦が心を占め、反応の言葉が喉に貼りつく。

 その刹那――

 ヒースが動いた。

 戦士の本能が、わずかな猶予を許さなかった。

 愛剣『風切』を抜き放ち、音を裂く速さで黒淵へ斬りかかる。

 しかし――黒淵はどこからともなく黒剣を抜き、ヒースの一撃をあっさりと受け止めた。

 黒淵が口元を歪めて称賛する。

「いい判断だ」

「お前が時間を稼いでいることは見え見えだったからな」

「さすが、ヒース。よく気づいたな」

「はっ!生意気な口を利くようになったな、グレイブ!もともとお前の気持ち悪い口調は好きじゃなかったが、今の方がさらに嫌いだ」

 そう言い放つと、ヒースは短く息を吐いて、素早く後方へ跳躍する。

 アレスの声が飛ぶ。

「ヒース!」

 だがヒースは振り返らず、一喝した。

「迷うな!たとえどれほどの理由があったとしても、王をアンデッドに堕とす奴がまともなわけがあるか!」

 力強い言葉にアレスの眼から迷いが晴れた。その気持ちはほかの仲間たちにもすぐ伝播した。

 黒淵はその様子を見届けるように、ため息をひとつ漏らしながら呟いた。

「ひどい言いようだ。だが、確かに否定はできないな」

 その言葉と同時に、黒淵の指先が魔力を編み上げ、短い詠唱が告げられる。

「――闇の棺桶やみのかんおけ

 空間が一瞬にして闇色に染まる。

 冷気ではない、根源的な寒さがあたりを包み込み、息が詰まるような圧迫感が満ちる。

 魔法による結界。空間そのものが封じ込められ、逃げそびれた人々が扉の前で絶望の声を上げた。

 半狂乱で泣き叫ぶが、すぐにその声はやんだ。結界の余波が人々の体を蝕み、喉を押さえて声もなく苦痛にもだえる。

「……タリク!」

 アレスの声に、タリクは苦しむ人々の下へと駆ける。

 すぐさま神術を発動し、癒しの光を振りまくが――それは、まるで霧に火を灯そうとするようなものだった。

 人々の顔色はみるみる悪化していく。呼吸は浅く、皮膚は青白く、魂ごと腐蝕されるような痛みだけが残る。

「……だめです」

 タリクは首を振った。

「この空間そのものにかかった呪いが毒のように人の体を蝕んでいます。根本から断ち切るには――術者を倒すしかありません」

 その術者は、どこまでも無感動に言葉を継ぐ。

「大方察しはついているだろうが逃げ道は封鎖させてもらった。まあ、簡易的だがないよりましだろう」

「……よく言う。短い詠唱一つでこれだけのことをやってのければ十分化け物だよ」

「光栄だな。なら、おとなしくしてくれ。抵抗しなければそう痛いようにはしな――」

「緋焔の奔流スカーレット・フレア‼」

 アリシアの声が鋭く場を切り裂く。灼熱の炎が魔力と怒りを帯びて黒淵へと奔る。

 だがその瞬間、足元から無数のアンデッドが沸き上がり、その身をもって召喚者の盾となる。焦げた肉と骨が黒い灰となって舞い落ちる。炎の余熱が燻る中、黒淵は屍の残骸を踏みつけながら、心にもなさそうに皮肉を言う。

「容赦ないな、アリシア」

「召喚・熾天使サモン・セラフィム――聖鎖のセイクリッド・バインド‼」

 反撃の余地を与えぬまま、続けてタリクの声が響き渡る。

 六枚の羽根を持つ天使が顕現し、空間から突如現れた神聖な鎖が黒淵の四肢を捕らえる。

 魔に連なるものなら触れただけで激痛に苦しむ天の鎖。

 だが、黒淵の反応はわずかに眉を顰めただけだった。

 そして一言、短く告げる。

「朽ち果てろ《くちはてろ》」

 詠唱ですらない、魔法の行使によって最上級の神聖な鎖は一瞬のうちに朽ち果てて、黒淵は解放される。天使の姿もまた、淡く揺れながら虚空へと消えていった。

 それでも戦いの意志は止まらない。

 ヒースが二振りの剣を閃かせ、刃の嵐を黒淵へと浴びせる。

 二閃、三閃、速さと重さが交錯する剣撃――

 しかし、黒淵はそのすべてを見切るかのように躱し、受け流し、時に剣を合わせて受け止める。

 その動きに無駄はなく、あまりに滑らかだった。

「くっ……!術士のくせによく防ぐ!なんでもありか!」

「単に努力の結果だ。生きる術としてな。なにせ、この世界は何かと物騒だ」

 その瞬間、ヒースの脇に落ちる影が揺らぎ、音もなく骸骨の躯――スケルトンが現れ、鋭く剣を振り下ろす。

「くおっ!」

 咄嗟に身を捻ったヒースは間一髪で躱すが、肩に浅く裂傷を負う。

 血しぶきが飛び、アレスが声を張り上げた。

「グレイブ‼」

 アレスの剣が閃き、スケルトンを斬り伏せる。

 焼け崩れる骸骨を踏み越え、アレスが黒淵に肉薄する。

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