白い羽が運ぶ未来
月日は流れ――グレイブとの最後の戦いから半年後。
ネクロヤオルの王城では、荘厳な鐘の音が響き渡り、新たな王の即位式が執り行われていた。
その王の名は――。
「まさか、お前が王になるとはな」
式典の合間、長い廊下を歩くアレスにヒースが皮肉めいた声をかける。
アレスは肩をすくめ、苦笑した。
「自分でもそう思うよ。それにさっきから肩が凝って仕方ない。緊張しっぱなしだ」
煌びやかな徽章を縫い付けた衣装。真紅のマント。黄金の冠。
普段のアレスとは似ても似つかない、堂々たる王の姿だった。
「もう少しでこの式典も終わりですよ!頑張ってください、アレスさん!」
アリシアが弾む声で言う。
「ほら、王冠が少しずれています。ちゃんと被ってください!」
「……これ重いんだよなぁ……。王様ってみんなこんな感じだったのかな……」
「しっかりしろ。様にならんぞ、まったく……!」
「馴染むのはバアルだけだな」
アレスは腰の神剣に手を添える。
バアルは最後の戦いで力を失い、今はただ静かな輝きだけを残していた。
そこへタリクが現れ、軽く手を振る。
「お疲れのようですが、そろそろ続きを始めますよ、アレスさん」
「ああ、すぐ行く」
アレスが応じると、タリクはにこやかに言った。
「多少目を瞑るのはいいですが、くれぐれも変なことは言わないでくださいね。神術で眠気は覚ませても、失言は取り消せませんから」
「ははは、優しいな。やっぱり、持つべきは友だ」
そう言って、アレスは仲間たちと颯爽と移動を始める。
その途中、ヒースがふいに口を開いた。
「さっきお前は、王になるのは柄じゃないみたいなことを言ったが」
「ああ、言ったな」
「なら、王をやめるか?」
ヒースの問いに、僅かに目を見開いたアレスは静かに「いや」と首を振る。
「確かになりゆきだ。でも――」
そう言ってアレスは微笑む。
「頑張るよ。そう決めたんだ」
式典を終え、アレスはバルコニーへと歩み出る。
眼下には、王の誕生を祝う人々の歓声が波のように広がっていた。
アレスは両手で白い鳩を抱き上げ、そっと空へ放つ。
羽ばたいた鳩たちは、光を受けて白銀に輝きながら、どこまでも高く舞い上がっていく。
仲間たちはその姿を見上げ、互いに微笑み合った。
鳩は世界を巡る。
海を越え、森を抜け、山脈を越え――
活気に満ちた町々、平和を喜ぶ人々、透き通る青空、穏やかに揺れる草原を見下ろしながら。
精霊界では、イリスとフェリリアが復興の手を止め、飛びゆく鳩を目で追っていた。
天空の園では、鳩が雲海の上昇気流に乗ると、はるか上空に浮かぶ天空の園が姿を現した。
その縁に立つ竜王スキアとミレーゼは、地上を巡る鳩を静かに見守っていた。
――やがて、一羽の鳩が人里離れた花畑へと降り立つ。
色とりどりの花々に囲まれたその中心に、ひっそりと墓が建てられている。鳩はその傍らに羽を休めた。
その墓石には、この世界にはない文字で名前が刻まれていた。
――白井綾香、と。
その前には、誰かがそっと置いた木彫りのお守り。名前の下には、短い墓碑銘が刻まれていた。
――安らかに眠れ。
春の風が花畑を揺らし、鳩の羽をそっと撫でる。鳩は風に乗るように再び空へ舞い上がった。
一枚の白い羽が、墓の前にふわりと落ちる。
そして次の風が吹くと、羽は軽やかに舞い上がり、空へと流れていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
これで完結になります。
いかがだったでしょうか。人によっては、あうあわないあるかと思いますが、率直な感想を聞かせてもらえれば嬉しいです。
もしこの作品がよかった、と思われましたら高評価、リアクションいただければ幸いです。
零細なので、これからの励みと自信になります。
(先んじて高評価くださった方ありがとうございます!0ポイント回避できたうえに、最高評価でとても嬉しかったです!)
完結ではありますが、この後、長々としたあとがき(設定やCopilot、ここで書けなかった思いの丈について等)とおまけ(関連した話。今のところ短めを3話ほど)を書いていこうと思います。まだ現時点書けていないので、不定期ですが、休日に更新予定です。
よろしくお願いいたします。




