勇者アレス――最後の戦い
アレスとグレイブがともに渾身の力で剣を振るう。
交わる刃。飛び散る雷と闇。衝撃で空気が震え、大地が軋む。
拮抗する力と力がぶつかり合う中、アレスとグレイブが互いに血を吐いた。
タリクに癒されたとはいえ、グランナレフ城を荒野へ変えた破滅の魔法を真正面から受けたアレスの身体は、短時間の回復で補えるものではない。回復は、戦いに耐えうる最低限にとどまり、肉体は立ち上がるだけで悲鳴を上げている。
対するグレイブの身体もまた同様に満身創痍だった。アンデッドとしての再生の力はほとんど失われ、死力を尽くした魔法戦で魔力のほとんどを使い果たした。もはや立っているのが不思議なほど傷ついた身体はすでに細かな亀裂がいくつも走り、崩壊の兆しが見えていた。
しかし――
――共鳴するバアルの雷
アレスの身体に雷の力が宿り、大地が爆ぜる。
それは自身に雷の力を宿し、身体能力を向上させる技。だが、それは同時に己自身をも傷つける諸刃の剣でもあった。
すでに体は限界にもかかわらず、アレスは躊躇いもなく技を発動させる。
アレスが剣を振るう。あらん限りの力を振り絞った一撃をグレイブの黒剣が迎え撃つ。
だが――
グレイブの黒剣が砕け散り、アレスの剣がグレイブの身を浅く刻む。
グレイブの刻まれた胸から血が吹き出る。
しかし、グレイブはなおも戦意をその目に宿し、怯むことなく闇の力を宿した拳を振りぬいた。
アレスの胴体に拳が突き刺さり、耐えきれずアレスの身体が吹き飛ぶ。
宙で身をひねりながら地を踏みしめて立ち上がるアレス。
しかし、その身体には死の呪いが刻まれ、アレスの身体を蝕んだ。
グレイブもまた神剣バアルに切られた胸から亀裂が走る。流れ出る血が乾いた大地を浸していく。
だが、彼らは止まらない。どれほどの傷を負おうとも意識途切れるその時まで、戦い続ける。
互いに大地を蹴り、急接近する。
走りながら、アレスが剣を切り上げるように振るう。
剣先から走った雷撃がグレイブを狙って飛んでいく。
グレイブが闇から黒剣を抜き出して、その雷撃を切り払う。お返しとグレイブが同じ闇を放って、アレスを飲み込もうとする。
だが、アレスもまたその闇を雷撃で打ち払う。
互いに剣の間合いに入り、すさまじい気迫で剣を振るう。
激しい剣と剣のぶつかり合い。何度も打ち合い、火花を散らし、そして互いの身を削りあう。
雷と闇がいくども弾けて、空気を裂き、大地を抉る。
しかし、アレスとグレイブは一歩も下がらない。
アレスが剣を振り下ろす、グレイブが剣を切り上げる。
そしてぶつかり――互いの剣が宙に舞い上がった。
その直後、アレスとグレイブが互いに迷いなく拳を叩き込む。雷と闇の拳が交差して、互いの頬を正確に捉える。
お互いの身体が吹き飛び、地面を転がっていく。
意識を失いそうになるほどの激痛。しかし、アレスは気力を振り絞って、大地を掴み、足を踏みしめてゆっくりと立ち上がる。
同じくして、グレイブも立ち上がった。血の気の失せた死相。ひび割れた肉体。ただ、その眼光だけは変わらず鋭い。
アレスが地面に刺さっていた神剣バアルを抜く。
神剣バアルがアレスの意志に応えるように輝きを放つ。
アレスはゆっくりとグレイブ下へと歩み寄る。
グレイブもまた黒剣を抜き放って、アレスの下へと歩み寄る。
互いの一歩一歩が刻まれ、そのたびに雷と闇の力が高まりあう。
極限まで力が高められたと同時に二人は同時に足を止めた。
ゆっくりと剣を振りかぶって、互いに構えをとる。
震える大地。ひりつく空気。
神剣バアルが雷を纏ってこれ以上ない輝きを放つ。
グレイブの足元から闇が沸き上がる。負の力が地の底より現れて、グレイブの身体を伝って剣に絡みつく。
アレスは剣を大きく振り上げる。
グレイブもまた剣を八双に構えた。
そして、神剣バアルが輝きを増し、アレスが一気に剣を振り下ろす。
――打ち砕く断罪の一撃
アレスの全身全霊を懸けた全力の一振り。その一撃は雷鳴を伴って、天より落ちる神の雷となって、グレイブを襲う。
しかし、グレイブもまた剣を振るう。地の底から闇を救い上げるように切り上げ、濃密な闇とともにその神剣と雷を迎え撃つ。
奈落より湧き出て渦巻く闇。極光とともに落ちる雷。
闇が雷を食らい、雷が闇を貫かんと互いにせめぎあう。
渾身の力を放つアレス。すでに限界を超えた戦いに意識が飛びそうになる。失われていく力、闇に飲まれそうになる雷。
しかし――ふいに背中に熱を感じた。
それが――アレスに託した仲間たちの熱い想いであり、アレスたちに祈った人々の平和への願いだと知って。
――――
アレスが吠え、剣に力を籠める。バアルがその想いと共鳴するように輝きを放つ。
しかし、闇もまた雷に負けまいと吠えるように勢いを増し、急激に膨れ上がる。
そして――




