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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第4章 全てを懸けた最後の戦い
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不死の王の執念

 光の鎖に縛り上げられたグレイブの前へ、アレスたちは静かに歩み寄った。

 アレスは剣を突きつけたまま、見上げるように言葉を落とす。

「これで――終わりだ、グレイブ」

 降り注ぐ光がアンデッドであるグレイブの身を容赦なく焦がす。逃れる術はない。光の鎖はグレイブの身体を幾重にも巻き付いて、自由を許さない。身じろぎすればするほど、きつくグレイブの身体を締め上げる。

 アンデッドの存在を許さない聖域。そこに身を置くことはアンデッドにとって、生き地獄に近い苦行であるはずだ。しかし、その状況下にあってなお彼は不敵さを失わなかった。

「拘束か。意外だな。俺をどうするつもりだ」

「切る」

 アレスが短く言いきると、グレイブは愉快そうに笑い声をあげた。

「そうか。ならよかった。ここで封印すると言われればどう反応すべきか迷うところだった」

「……」

 アレスは一瞬だけ目を伏せる。だがすぐに顔を上げ、剣を構え直した。

 グレイブにとっては絶対絶命。あとは死があるのみだった。

 なのに、その瞳は揺るがない。

 それは三百年を生きた不死の王の矜持か、それともグレイブ自身の魂の強さか。

 何かは分からない。ただ、まっすぐな目でアレスたちに相対する。

 だが、アレスは迷わない。

 グレイブを生かせば、人類はアンデッドに襲われ続けるだろう。グレイブが“異世界転生”を止めるその日まで。

 ――そう彼が決意したから。

 だから、殺す。殺さなければならなかった。

 アレスの気持ちは関係ない。そうしなければ、もう止まりえないのだ。

「……」

 短い決意を終え、アレスが剣を振り下ろす。

 転生者殺しの力が、グレイブの身体を切り裂く――その瞬間。

 バアルの刃が、弾かれた。

「……っ!」

 刃が触れる直前、突如として闇が弾け、アレスの攻撃を阻んだのだ。

 アレスたちは反射的に一歩退き、警戒を強める。

「悪いな。だが――」

 グレイブは笑みを漏らす。

 光の中にあって、どこまでも暗く陰に籠った笑みを。

「まだ死ぬわけにはいかないんだ」

 醜く足掻く不死の王の執念をその目に宿して。

 次の瞬間、闇がグレイブの内側から噴き上がる。瘴気が渦を巻き、呪いの濁流が押し寄せる。

 タリクの光が浄化するそばから、さらに濃い闇が湧き出してアレスたちを飲み込もうとする。

「タリク‼」

 ヒースが飛び退きながら叫ぶ。

「だめです!抑えきれません‼退避を!」

 アレスたちは素早くグレイブから距離を取る。

 闇の奔流が空間を満たし、聖なる鎖が軋む音が響く。

 見ると、グレイブが右腕を無理やり引き上げていた。

 鎖は呪いに侵され黒く染まり、しかしタリクの光が必死に押し返して輝きを取り戻す。

「ふふ……眩しいな……俺の腐った身を焼き尽くすほどに……だが――」

 眩し気に目を細め、鎖に縛られながら、グレイブはなおも天に向かって手を伸ばす。

 鎖が肉体に食い込み、聖なる光がグレイブの身体を浄化し、崩壊させていく。しかし、グレイブは抗うことをやめない。

「終われないんだ。成し遂げるまでは……!」

 伸ばした手が光に焼かれ、焦げた指が朽ちていく。吹き出る黒い血が床に落ち、闇と混ざり合って広がっていく。

 それでも、グレイブは止まらなかった。

「ああああああああああああああっ……‼」

 絶叫とともに闇が爆ぜ、膨れ上がる。

 鎖が引き絞られる。だが、その力が強ければ強いほどグレイブの肉体が締め上げられる。それでもグレイブは力強くもがく。鎖が限界まで引き絞られ――光の鎖が引きちぎれた。

 タリクの結界が砕け散り、光の粒子が闇の中で舞い散って消えていく。

 しかし、際限なく広がった闇も同時に勢いを失い、徐々に薄れていった。

 やがて残ったのは、身体の半分が崩れ落ちたグレイブだった。

 焼けただれ、ひび割れ、半壊した体。みなぎっていた闇は今や燻るように地面に滞り、ただ揺らめくだけ。

 息を切らし、弱々しく地面に手をつくグレイブ。

 驚異の再生力もほとんど失われ、欠けた右腕も破れた皮膚も、くすんだまま。

 ただ――アレスを見上げるその目だけは、死に瀕した者のものではなかった。

 異様な光を宿した瞳。

 憎悪ではない。強い意志を宿した目力に、アレスたちは思わず息を呑む。

 だが、すでに死に体。

 強力な拘束を破ったとはいえ、弱り切ったその姿を脅威と見る者はいない。

「何が……君を、そこまで……」

「……アレス」

 気遣いつつも戒めるようにヒースが呟く。

 アレスは静かに答えた。

「わかっている。これで、今度こそ――終わらせる」

 その時だった。

 突如、アレスたちの身体が弾き飛ばされる。

 原因不明の不可視の力に驚く暇もなく、続いて足元の魔法陣が青白く輝き急速に活性化し始めた。

「……っ⁈」

「なんだ⁉なにが起こっている⁉」

 戸惑うアレスたち。

 弱り切ったはずのグレイブが、待ち望んだものを迎えるように笑みを漏らす。

「来たか……」

 グレイブが巨大な魔法陣へ手を当てた。

 腕を伝い落ちた血が陣に染み込み、薄紅の光が奔る。

 空中に浮かぶ補助陣までもが呼応し、それぞれ異なる色で脈動を始めた。

 続いて、大地が揺れた。

 儀式場に流れる異質な力が行き場を見失ったかのように乱れ狂い、空間が歪んだ錯覚を覚える。

 アレスは振り向いた。

 異常事態が起きていることは明白だった。その中心にいるのは紛れもなくグレイブ。

 ほんの一瞬前までは力を使い果たし、息も絶え絶えだったはずだ。

 だが今、魔法陣の内側に満ちる力が、失われた力を補うように彼へと流れ込み、荒れ狂う奔流が血肉を駆け巡るように、彼の身体は再び力を取り戻していった。

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