聖鎖の縛
しかし、浅い。グレイブは嘲るように笑った。
「なんだ。こんなもの――」
か、と言いかけたその瞬間。
グレイブの身体が不自然に跳ね上がり、直後、大量の血を吐いた。
「……!」
――その神剣には転生者の身体に刻まれた術理を破壊する『転生者殺し』の力が備わっている。
驚くアレスたちを前に、グレイブは口元の血を拭い、壮絶な笑みを浮かべる。
「――なるほど。確かにこいつは効く……!」
その様子に、アレスたちは確信を深めた。
「やはり、アレスの剣が有効みたいだな!」
「そのようです!」
ヒースの言葉に、アリシアを回復させながらタリクが応じた。
戦いはさらに激しさを増していく。
アレスの剣が閃くたび、グレイブの闇が弾け、ヒースの二刀が交差するたび、火花が散った。
アレスを中心に攻防が組み立てられ、ヒースは鋭い斬撃で隙を作り、アリシアは炎で退路を断ち、タリクの光が全員の背を押す。
対するグレイブも、不死身の肉体と多彩な技で応じる。
しかし――その再生は、先ほどまでのような勢いを失っていた。
斬られた箇所の闇が薄く、塞がるはずの傷がわずかに残る。アレスの刃が掠めるたび、グレイブの動きは確実に鈍っていく。
激しい攻防の中、グレイブは劣勢にあって不敵に笑いながら言った。
「――流れを変える必要があるな」
そうグレイブは呟くと掌から闇を生み出した。
「混沌の卵殻」
ぼとり、と落ちた闇が手毬ほどの球となり、脈動し、震え――
「目覚めろ。呪詛の九頭蛇」
闇の球が裂け、無数の蛇の頭が飛び出した。
牙を剥き、呪詛を滴らせながらアレスたちへ襲いかかる。
アレスは雷を放ち、ヒースは頭を切り落とし、アリシアは灼熱の炎で焼き払い、タリクは祈りで聖なる光柱を顕現させようとする――
その瞬間、グレイブがタリクへ向かって走った。
――やはりタリクからだ。
グレイブは内心で呟く。
この戦いの要はタリク。
治癒と聖光――アンデッドにとって最大の脅威。
タリクの神術が脅威になりうることは始めから分かっていた。
だが、止める機会はなかった。タリクに攻撃が届かぬよう、アレスたちは常に身を挺して戦っていたからだ。
今もそうだ。グレイブの攻撃を通らせないよう細心の注意を払っている。
ならば――こじ開ける。
アレスとヒースが立ちふさがる。決死の形相で、絶対に通さない意志を剣に込める。
だが――切り捨てられたグレイブは、影のように霧散した。
意表を突かれ、驚くアレスたち。それがグレイブを象った闇の影だったと気づいた時にはもう遅い。
本体はすでにアレスたちをおいてタリクへ向かって疾走していた。
アリシアが炎を飛ばすが間に合わない。
聖光を帯びていない炎は、グレイブを穿ってもすぐに再生される。
タリクの前に辿り着く。
タリクは杖を掲げるが、即席の結界では防ぎきれない。
結界ごと斬り伏せれば終わり――グレイブはそう確信していた。
――しかし。
タリクの口元に浮かんだ笑みが、その確信を否定する。
「――かかりましたね、グレイブさん」
「……⁈」
意味を理解するより早く、タリクが術を発動させた。
「光の封牢!」
天より降り注ぐ光柱が、グレイブを取り囲むように並び立つ。
輝かしい聖光が闇を焼き、グレイブから漏れ出た呪詛が触れたそばから消滅していく。
死地に入ったと悟ったグレイブが逃れようと走り出すが――
「聖鎖の縛‼」
神聖な鎖がグレイブの片足を捉える。捉えられた足を忌々し気に睨むグレイブ。
そのグレイブが動き出す前に、鎖は残る手足をも縛り上げ、光柱へと縫い付ける。
「詰みだ。グレイブ」
アレスが剣を突きつけ、静かに告げたのだった。




