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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第4章 全てを懸けた最後の戦い
40/50

届く刃

 グレイブの一撃に打ち勝ったヒース。

 だが、気力を使い果たした身体は支えを失い、膝をついた。

 それでも――こぼれるような笑みが自然と浮かぶ。勝利の手応えが、確かにそこにあった。

 だが、まだ終わってはいない。アンデッドであるグレイブにとって、あの一撃は致命ではない。

「アリシア」

「はい!行きます!」

 アリシアが鋭く応じ、即座に魔法を構築する。

「神秘の炎爆ミスティック・フレア・バースト」」

 無数の神秘の炎が生まれ、倒れ伏すグレイブへと一斉に放たれた。

 直撃。

 眩い爆炎が儀式場を覆い尽くす。

 ――終わったか。

 アレスたちがそう思った、その瞬間。

「ふふふふふふふふ……」

 爆炎の奥から、不気味な笑い声が響いた。ゆらりと影が立ち上がり、天を仰いで笑い声を放つ。

「ははははははははっ‼」

 爆炎が晴れ、再生しつつあるグレイブの姿が現れる。かつてないほど高らかに笑いながら。

「確かにお前の勝利だ、ヒース!」

「っ……!」

 グレイブの感情の高まりに呼応するように、闇の波動が周囲へ広がる。風圧となって吹き荒れ、神聖な炎すら瞬く間に飲み込まれた。

 闇は欠けた身体を補い、あっという間に元通りにする。

「そう。俺の負けだ!真正面から挑み、そして敗れた。完全な力の差の前に俺は切り伏せられたんだ!」

 敗北を語りながら、グレイブは心底愉快そうに肩を揺らす。その不気味な独白が、静まり返った儀式場に響き渡る。

「――どこかで俺はお前たちを下に見ていたのかもしれない。竜王の加護をもらい、転生者殺しの力を得ようとも、無限に湧き出るアンデッドと俺の再生力の前に力を使い果たして終わるのだろうと。俺を殺しきる前に、なすすべなく地に倒れるのだと。だが、しかし、それは俺の思い過ごしだった。俺の驕りでしかなかった。だから――」

 グレイブは高らかに叫んだ。

「全力だ!お前たちを俺の全身全霊をかけて滅ぼす!お前たちに敬意を表して!」

 宣言と同時に、グレイブはすさまじい速度で駆け抜ける。

 狙いはヒース。だが、ヒースは今、戦える状態ではない。

炎嵐ファイア・ストーム!」

 アリシアが炎の弾幕を放つ。

 しかし、グレイブは身にまとった闇と黒剣で容易く弾き返した。

「灰の弾丸グレイ・ショット

 灰色の闇が凝縮し、無数の弾丸となってアリシアへ襲いかかる。

 アリシアは顔を歪めながら炎を生み出し、弾丸とぶつけて相殺した。

 それでも、グレイブの足は止まらない。

 黒剣が、力なく構えるヒースへ振り下ろされる――その瞬間、影が飛び出した。

「アレス!」

 傷を癒したアレスの登場に、ヒースが叫ぶ。

 グレイブは笑みを深めた。

「もういいのか?」

「ああ!十分すぎるくらい休ませてもらった!」

 再び剣が激しく交差する。

 アレスとグレイブが戦う中、ヒースの下にタリクが近づいて言った。

「ヒースさん、今治療します。こちらに」

 見れば、ヒースの身体には黒い斑点が浮かび上がっていた。死の呪いだ。生物の生命力を奪い、犯し、そして最後には死に至らしめる強力な呪いが、先の衝突の余波で受けたのだった。

「……悪いな、タリク。今、俺が抜けるわけにはいかねえ。戦いながら治してくれ」

「そんな無茶な……。あなたの今の身体は――って言っても無理ですね。わかりました」

 タリクが肩をすくめ、癒しの術を施す。ヒースの身体が神聖な光に包まれ、わずかに顔色が戻った。

「ありがとう。ずいぶん楽になった」

「行きましょう。ここが踏ん張りどころです」

「ああ!」

 グレイブの攻撃をアレスがはじき、距離を取る。

 四人がグレイブを遠巻きに取り囲み、それぞれの武器を向けた。

 誰も動かない。

 緊張が張り詰め、初動の瞬間を伺う。

 ――動いたのは、グレイブだった。

「闇よ、満たせ《やみよ、みたせ》――」

 その言葉と同時に、漆黒の闇が手の内から溢れ出す。床一面に広がり、儀式場を再び闇の世界へ染め上げようとする。

 同時に、四人が弾かれたように動き出した。

「聖光の祈り《ホーリー・ライト》‼」

 タリクの神術が聖なる光を強め、闇を押し返す。

 その援護を受け、アレスとヒースがグレイブへ殺到した。

「《エルバアル》!」

 雷撃が槍のように伸び、グレイブを貫かんと迫る。

 グレイブはわずかな動きで躱し、その後をヒースの二刀が追う。

 床に広がった闇が鋭利な刃となり、ヒースの身体を狙う。

 ヒースが身を翻して避けたところへ、アリシアの炎が襲いかかる。

 グレイブは闇を生み出して相殺し、その合間を縫って迫るアレスと剣をぶつけた。

 剣と魔法。聖なる光と闇が激しく入り乱れる中、グレイブは手の内に貯めた闇を周囲へ振りまいた。

 水滴のような細かい粒が空気中を漂い、アレスたちを包み込む。

 警戒心が一気に高まる。

「爆ぜろ《はぜろ》!」

 対策を立てる間もなく、闇が爆発した。

 ――だが、アレスたちはすぐに爆煙の中から姿を現す。

 完全に不意を突かれた。そう思っていたが、とっさにタリクが施した結界が爆発から守っていた。

 しかし、それすら読んでいたグレイブはすでに動いていた。

 視界の悪さを利用し、アリシアへ迫る。

 アリシアは仲間と離れた位置に立ってしまったことを悔やむ。

 だが、一瞬で気持ちを切り替え、自衛の魔法を放つ。

「緋焔の奔流スカーレット・フレア‼」

 至近距離から放たれた灼熱の炎が、一直線にグレイブへ飛ぶ――直撃。

 灼熱の炎がグレイブを焼く。

 だが、その業火の中から伸びた手がアリシアの腕を掴んだ。

「……!」

 身も凍るような死の気配に、アリシアの顔が真っ青になる。

 その硬直は致命的だった。

 グレイブの拳がアリシアの胴を貫く。

「……っくあっ!」

 声にならない苦痛とともに、アリシアの身体が崩れ落ちる。

 接触した瞬間、死の呪いが急速に身体を蝕んでいく。

 確かな手応えに、グレイブはとどめを刺そうと逆手に持ち替えた黒剣を振り上げたその時――その目が驚愕に見開かれた。

「霜の聖域フロスト・ヴェイル……!」

 倒れながらも、アリシアはなお戦意を失っていなかった。

 即席で発動したため本来の威力には遠いが、それでも氷はグレイブの足を拘束することに成功した。

十分すぎるほどの成果だった。

「グレイブっ‼」

 その声にグレイブが振り返る。

 雷光をまとった神剣バアルを振り下ろすアレスの姿があった。

 アリシアの氷を砕きながら、グレイブは剣を構えようとする。

 だが――間に合わない。

 バアルの刃がグレイブの胸を浅く通り過ぎた。その傷跡を雷撃が走り抜け、グレイブの身体を焼く。

「……!」

 ついにバアルの刃が届いた。

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