開戦
宣言とともにアレスたちは一斉に駆けた。
もとよりすでに間合いの中。踏み出した瞬間には、剣が届く距離にいる。
対するグレイブは、光を持たない漆黒の剣を地面から引き抜くように召喚し、無造作に構えた。
バアルと漆黒の剣が激突する。
光と闇がぶつかった中心から爆ぜる衝撃。
儀式場全体が震え、地面には亀裂が走り、風圧で魔道具が吹き飛んだ。
まっすぐに睨みつけるアレス。
どこまでも冷たく見下ろすグレイブ。
すさまじい力の衝突の中で、二人の刃は奇跡的な均衡を保っていた。
――そこへ、ヒースが低い姿勢で滑り込む。
影のような速さでグレイブの側面へ回り込み、足元を刈り取るように剣を振りかぶる。
しかし、その動きをグレイブは視界の端で捉えていた。
空いている左手の指がわずかに動く。
同時に、足元の闇が蠢き、鋭い棘を生やしてヒースを貫かんと伸び上がる。
「……っ!」
ヒースは跳躍してかわす。
否――跳んだ勢いをそのまま利用し、空中からグレイブの首を狙って二刀を振り下ろした。
「はあぁっ‼」
愛剣『風切』と魔剣『鬼哭丸』。
二本の刃が横薙ぎに閃く。
だが、刃は空を切った。
グレイブはわずかにのけぞり、刃先は頬をかすめるだけに終わる。
冷たい瞳がヒースを捉え、左の掌が向けられた。
しかし――
「聖光の柱‼」
タリクの神術が割り込む。
グレイブの足元にまばゆい魔法陣が展開し、聖なる光柱が勢いよく立ち上がる。
アンデッドであるグレイブにとって致命的な光。まともに受けるわけにもいかず、グレイブは後方へ跳び退く。
だが、その退路を狙ってアリシアが魔法を放つ。
「穿て!炎帝の槍‼」
杖先から放たれた炎の槍が一直線に飛ぶ。視界を裂くほどの速さでグレイブの身体を貫かんと迫る。
それを――グレイブは平然とした顔で漆黒の剣の一振りで両断した。
しかし、アリシアの攻撃は終わらない。
「緋焔の奔流‼」
紅蓮の炎が杖先に渦巻く。その炎が注がれる魔力により、赤赤と輝き、そして一気に膨れ上がる。
「炎嵐‼」
放たれた紅蓮の炎が視界いっぱいに広がり、あらゆる方向から襲いかかる。
全てを焼き尽くす炎の弾幕。
グレイブは後退しつつ、地面から闇を競り上げて迎え撃つ。
しかし――紅蓮の炎は容易く闇を貫いた。
かわそうとするも、炎は意志を持つかのように執拗に追いすがる。
眉をひそめたグレイブが低く呟く。
「……闇壁」
分厚い黒い壁を手の挙動によって生み出し、炎を受け止める。
だが、アリシアの炎の力は凄まじく、闇の壁に亀裂が走る。
すべてを防ぎきった瞬間、壁は砕け散った。
その破片の向こうから――アレスとヒースが同時に飛びかかる。
「「はああああああああああああっ‼」」
背後ではタリクが次の神術の詠唱を続け、アリシアも移動しながら魔力を練り上げている。
グレイブを前に一歩も引かない強い意志。反撃の隙を与えない、魔王を倒した完璧な連携。
「……いい連携だな。だが――」
アレスとヒースの刃が迫る瞬間、グレイブは静かに言った。
「それだけじゃあ俺には届かない」
突如、異質な寒気がアレスたちを襲う。
警戒――しかし、その警戒すら追いつかない。
不敵な笑みを浮かべるグレイブ。
そのグレイブを中心に闇が膨れ上がり、一気に空間を満たした。
儀式場を満たした青白い輝きはすべて闇に飲まれ、アレスたちの胸に奇妙な不快感が押し寄せる。
渦巻く闇の中、地面に無数の黒い渦が生まれる。
突如現れた異物の存在に、アレスたちの目が釘付けになる。
「召喚――」
ぞわりとした恐怖が肌を撫でた。
「黒死の茨」




