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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第4章 全てを懸けた最後の戦い
34/50

死の底へ

 イリス達と別れたアレスたちは城の中に入り、そのまま奥へと進んでいった。

 広大な城内でありながら、どこへ向かうべきか迷う必要はなかった。

 問わずとも分かる――これ以上ないほど禍々しい気配が、ただ一方向から濃密に漂っていたからだ。

 城内にはアンデッドの姿は一体もない。外では激しい戦いが続いているというのに、城内だけは不気味なほど静まり返っている。

 響くのはアレスたちの足音だけ。誰一人として声を発さない。この場を満たす異様な緊張感が言葉を発することすら躊躇わせた。

 外に蠢く無数のアンデッドよりも、はるかに濃い死がこの城の奥底に潜んでいる。

 気がつけば、アレスたちは地下へと続く階段を降りていた。

 一度も来たことのない道。入り組んだ通路を、ただひたすら強まる死の気配を頼りに進む。

 やがて、一本の広い地下通路に行きついた。

 足を踏み入れた瞬間、青白い光が壁面に一斉に灯り、通路全体を照らし出す。

 アレスたちは互いに静かに頷き合った。

 ――この先に彼がいる。

 そう確信できるほど、気配は濃く、重く、冷たい。

 しばらく進むと、重厚な扉が姿を現した。

 その存在だけで、胸の奥がざわつく。

 ――その時だった。

『起きろ』

 どこからともなく声が響いた。

 次の瞬間、地の底から闇が噴き上がるように広がり、凶悪な気配とともに浮かび出た影が形を作る。

 現れたのは三体のアンデッド。

 一体目――

 ぼろぼろの黒いローブを纏い、禍々しい魔力を内包する呪夜の君主カース・ナイトロード

 赤黒く濁った杖先の宝玉は死の呪いで満ち、血の気のない仮面のような顔は死神を思わせる白さをしている。

 かつて気高き貴族であった名残は、もはや形だけ。その身に宿る呪いは人の形をした魔へと変貌させたのだと強く思わせた。

 姿を現すと同時に、まき散らされた呪いが地面を黒く染め上げ、存在だけで周囲を呪いで満たしていく。

 二体目――

 カース・ナイトロードを守るように立つ、恐怖を纏う絶死の騎士ドレッド・デスナイト

 大柄な体格にふさわしい巨大な盾と、闇夜のように漆黒のクレイモア。

 古の名工が鍛えたと思われるその刃はぞっとするほど美しく、かつて忠誠を捧げた主の名すら忘れた英 雄の亡骸は、望まぬ命令に従って前へと立つ。

 虚ろな眼窩、骨と皮ばかりの身体――それでもなお漂う強者の風格。強力な死の力と相まって、生者の本能に根源的な恐怖を呼び起こす。

 三体目――

 その二体の三倍はあろうかという巨躯を誇り、人ひとりなど足元で潰せるほどの圧倒的な体格――血に狂う屍巨人ブラッドレイジ・タイタンゾンビ

 全身が腐り爛れながらも、過剰に供給された死の力によって筋肉が異常に肥大している。

 知性も理性もとうに失い、ただ生者の血を狂ったように求め、無秩序に暴力を振るう堕ちた狂戦士が怒りの息を吐く。

 何もかもを踏み潰す巨躯から放たれる一撃は、どれもが致命傷になりうるもの。汚れた血に染まった巨大な棍棒を軽々と振り上げ、アレスたちを威圧した。

 三体のアンデッドは門番のようにアレスたちの前に立ちはだかり、咆哮を上げる。

『『『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼』』』

 精霊界で戦ったリッチー《ユーゲル》とは比較にならないほどの威圧感。具現化された絶対の死がアレスたちへ殺意を向ける。

 そして、戦闘が始まった。

 最初に動き始めたのはタイタンゾンビだった。振り上げた巨大な棍棒を、アレスたち目掛けてすさまじい勢いで一気に振り下ろす。

 続いて、ナイトロードが呪いの濁流を放ち、デスナイトが盾を掲げて突進する。

 対するアレスたちは迷いなく一斉に駆けた。

 ――と同時に勝敗は一瞬で決まった。

 アリシアの炎がナイトロードの呪いを上回る熱量で焼き尽くし、ヒースはデスナイトの攻撃をかい潜りながら二刀でその身体を切り裂き、タイタンゾンビの棍棒が落ちるより早く、アレスの雷を纏った神剣バアルが巨体を一刀両断にした。

 一瞬のうちに、地響きとともに崩れ落ちるアンデッドたち。

 だが――彼らはアンデッド。

 生者なら命を失う一撃でも、身体が動く限り終わりではない。

 欠けた手足でもがきながら三体が立ち上がろうとする。

 しかし、すでに決着はついていた。

 タリクが静かに祈りを捧げる。

 優しい光がアンデッドたちを包み込み、先の一撃で弱り切った三体を跡形もなく浄化していった。

 門番を苦もなく倒したアレスたちの表情に、喜びはない。

 むしろ、より強く決意を固めながら、奥にそびえる巨大な扉へと歩み寄る。

 そこに誰がいるか――言葉にせずとも分かっていた。

 静かに覚悟を決め、アレスたちは扉へ手をかける。

 ゆっくりと開かれたその先に――

 グレイブがいた。

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