博打好きの聖職者の約束
冒険の途中、変異種の魔物の攻撃で受けた毒によりヒースは意識を失い倒れてしまった。
治療を求めて立ち寄った村にいたのがタリクだった。
しかし、村一番の治療の腕を持つ聖職者はなんと酒場で賭博を行っていた。
『え?私ですか?ははは、面目ないです。今少し――まあ、それなりに?酔っていまして……すみません。何言っているか全然頭に入ってきません!』
命に係わることだと無理やりタリクを引っ張り出して治療をさせ、ヒースは何とか一命を取り留めた。
翌朝、意識を取り戻したヒースとともにアレスたちがタリクを訪ねると、湖の麓で、年老いた大亀の治療を行っていた。大亀は湖の主だという。かつて人の言葉を介すことができ、魔物から村人を守り続けてきた存在だとタリクは語った。
しかし、年老いた大亀はもう言葉を話す力もなく、ただ病や老いで弱っていく日々だった。魔物の勢力圏も近く、村も危険な状態で、安全な地域に移動する案が出ているが、タリクは残ると語る。
『それが約束です。きたるその日まで私はここに残るでしょう』
時折、迷惑そうな顔もされましたが、と苦笑いする。
かつて命を救われた恩を返す。彼自身から持ち出した一方的な約束のため、彼は百年もの間、辺境で亀を守り続けていた。
『時間に焦る必要がないのは長命種の特権です。――少々寂しいこともありますが』
そうしたある日、巨大な黒い二本角をはやしたオーガが鉄壁を誇る大亀の甲羅を狙って襲来した。圧倒的な耐久力とその腕力にアレスたちが戦い苦戦を強いられる中、大亀がふいに意識を取り戻し、大亀の作り出した結界によってオーガを弱体化させた。
何とかオーガを討伐した後、力を使い果たした大亀は『村を守れてよかった』と呟き、最後に、タリクに『長い間、ありがとう』と言い残して、眠るように静かにこの世を去った。
大亀の葬儀を盛大に行った後、聖職者としてより多くの人々を守るためタリクは村を去ることに決めた。朗らかな顔で、『しばらくご一緒しても?』とアレスたちの仲間に加わることになった。
村を出てしばらく、村の方から歌が聞こえてきた。それは、守り神の大亀を讃える歌。タリクは振り返って、涙を滲ませた。
『見てください。これがあなたの守った景色です』
――今はもういない亀に向け、心の中でそう語った。




