闇の城、ただ一人の王
陽光届かぬ闇の中に取り残された城――グランナレフ城。
かつて数百年の繁栄を誇ったその地に、今や人の気配は一人を除いて残されていない。
生物のいないグランナレフ城に残されたただ一人の人間――黒淵は、何の感慨もなく城内を歩いていた。
アンデッドの姿はどこにもない。勇者との戦いが終わって以降、この城は彼だけのものとなった。
硬質な足音が、冷えた石の回廊に乾いた音を残す。
その足が、やがてバルコニーへと辿り着く。
星のない闇に染まった夜空を一瞥したのち、黒淵は足元へと視線を落とした。
闇の中から、ひとつの人影が現れる。
影の騎士。死した騎士の怨念が実体化した影――闇にしか生きられぬアンデッド。
このバルコニーは、黒淵がアンデッドの立ち入りを許した唯一の場所だった。
『ご報告申し上げたき儀がございます』
シャドーナイトが恭しく膝を折り、低く告げる。
黒淵が目で続きを促すと、影は短く答えた。
『ユーゲル様が――敗れました』
しばしの沈黙。
黒淵は「そうか」と、興味もなさげに呟いた。
「……負けたか」
その事実を、あらためて自らに言い聞かせるように、もう一度口にする。
バルコニーの手すりに触れながら、なおも呟いた。
「即席のアンデッドに即席のアイテム。失って困るものは何一つない」
もとより、これはただの時間稼ぎ。
この瞬間に干渉されぬよう仕組んだ、陽動にすぎない。
――だが。
ふと、かつての勇者たちの姿が脳裏をよぎる――絶望の中で人々を救い、仲間とともに歓喜の笑顔を交わす勇者たち。あまりにも眩しき光景。そして――
……。
短く息を吐いて、現実に立ち返る。小さく手を上げて影を下がらせると、黒淵は光なき城の奥へと、再び姿を消した。




