裁きの光槍、闇を貫く
「タリク!」
アレスの声に、タリクが即座に応じる。
視線が交錯し、言葉が交わされる。
「行けるか?」
「はい。任せてください。――イリス様、少しの間守りを頼みます」
イリスが静かな決意をその瞳に宿して頷く。それで方針は決まった。
タリクが詠唱を開始する。神聖な光が彼の周囲に集まり、空気が澄み渡るように変化する。
『何をしようと無駄だ‼やれ、アンデッド‼アビスドラゴン‼』
ユーゲルが叫ぶ。闇からアンデッドが湧き出し、アビスドラゴンが咆哮を上げる。
アンデッドの群れをアリシアの炎が唸りを上げて迎え撃ち、吹き飛ばす。しかし、敵の攻勢はまだ続く。アビスドラゴンがその巨大な口からブレスを吐いた。
アレスが息を大きく吸い、剣を振りかぶる。
「《エル・バアル》‼」
振り下ろしと同時に、剣から雷撃が迸る。
雷と黒炎がぶつかり、衝撃が空間を揺らす。ブレスは相殺され、道が開ける。
ヒースが駆け、そのあとにアレスが続く。
『■■■■■■■■■■‼』
眼下を走る二人に、ドラゴンが唸りを上げる。煩わしげに巨大な足を振り下ろすが、当たらない。
アレスとヒースは素早く動き、攻撃を掻い潜りながら二手に分かれて撹乱する。
一瞬、どちらを狙うか迷うドラゴン。その隙を突いて、ヒースが跳躍する。
「でかい図体が仇となったな」
ヒースがにやりと笑い、二刀を上段に構える。
凄まじい気迫に空気が震えるようだった。二本の剣から妖気が漏れ、ゆらりと黒に染まっていく。
同時に刃がきらめき、巨躯のドラゴンへと力強く振り下ろされる。
「黒鬼・冥葬斬‼」
強烈な漆黒の斬撃がドラゴンの背中を深々と抉る。ドラゴンが天に向かって悲鳴を上げ、体勢を崩す。
「そら、もう一撃来るぞ」
ヒースの声と同時に、彼は空へ跳ぶ。彼の示す先――地上にはアレスがいた。
神剣を手に、雷を纏い、ドラゴンの胴を狙って技を放つ。
「怒りの雷槍‼」
アレスの突き上げた剣先から迸る鋭い雷撃。それがドラゴンの身体を一気に貫く。
『■■■■■■■■■■‼』
頑丈なドラゴン体をものともせず貫いた雷撃は、勢いよく天に昇る。
ドラゴンが身もだえし、咆哮を上げる中、雷鳴がとどろき、空に光が満ちる。
再び竜の背に降り立ったヒースは笑っていた。
「さすがに頑丈だな。――折角だ、タトゥーでも掘ってやろうか」
そう嘯きながら、ヒースは縦横無尽に駆け回り、刃でドラゴンの身体を切り刻んでいく。
『ちょこまかと……!もろとも吹き飛ばしてくれる‼煉獄の嵐!』
ユーゲルの怒声とともに、闇と炎が混ざり合った巨大な嵐が巻き起こる。
ドラゴンを巻き込み、渦を描いてアレスとヒースを飲み込もうと迫る。
「聖壁‼」
イリスの声が響き、聖なる光が盾となって嵐を遮る。
だが――
『小賢しい‼その程度の守りが何になる‼』
ユーゲルが闇の宝玉を掲げる。
その宝玉が怪しく脈動し、闇の力がさらに膨れ上がる。
嵐は勢いを増し、聖壁を突き破った。
「くっ……‼」
防御を失ったヒースが吹き飛ばされ、地上に叩きつけられる。
受け身を取って衝撃を殺すが、傷は浅くない。
「無事か?」
駆け寄るアレスも傷だらけだった。ヒースは片頬を吊り上げて笑う。
「構うな。大した傷じゃない」
その言葉の裏に、痛みを押し殺す気迫が滲む。
ユーゲルが再び魔法を唱える。
『黒焔‼』
闇の炎が唸りを上げて襲いかかる。
『氷の盾‼』
アリシアの魔法がそれを受け止め、凍てつく壁が炎を遮る。
「癒しの聖風‼」
イリスの詠唱が空気を変える。聖なる風が舞い、光粒が傷を撫でるように癒していく。
仲間たちの息が整い、再び立ち上がる。
「行くぞ‼」
アレスの声に、ヒースが応じる。
二人は再び突撃し、疾風のような動きでドラゴンを翻弄する。
闇の力で再生するドラゴンに対し、着実に傷を刻み込んでいく。
『ちぃっ‼しつこい者どもだ‼このままではらちが明かん‼アビスドラゴン‼後衛を先にやれ‼』
苛立ちを隠せないユーゲルが叫ぶ。
ドラゴンに命じ、後衛――イリスとアリシアを狙わせようとする。
だが――それは、遅きに失した。
「今だ‼」
「「はああああああああああああああああああっ‼」」
アレスの号令に合わせ、ヒースが息を揃える。
二人の刃が、ドラゴンの右前足へと閃光のごとく振り下ろされる。
『■■■■■■■■■■‼』
これまでの攻撃で傷ついていた右前足は、悲鳴とともに断ち切られ、地を揺らして巨体が前のめりに崩れる。
「霜の聖域‼」
アリシアの詠唱が空気を凍らせ、氷の結界がドラゴンを包み込もうとする。
『次から次へと、無駄な抵抗を……‼ 何度言えばわかる‼ 貴様らがいくら足掻こうが、私には届かぬ‼』
ユーゲルが闇の波動を放ち、魔法を打ち消そうとしたその瞬間――
彼は、異質な気配に気づく。
『……あれは……‼』
天より降り注ぐ、おぞましいほどに神聖な力。
それは、祈りの果てに生まれた審判の光。
タリクが静かに目を開き、ひとことだけ告げる。
「行きます」
そして――神術が解き放たれる。
「聖唱神判・裁きの光槍‼」
天が震え、大気が裂ける。
神の裁きが光の槍の槍となって現われ、闇を貫く。
『ぐっ……‼』
ユーゲルの骸骨の顔がわずかに震える。それは、この戦いで初めて見せた驚愕の表情だった。
そして――光が、容赦なく呑み込んだ。
断末魔が空を裂き、ドラゴンの咆哮が天に消える。
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼』
その一撃は、神罰の具現。
光がすべてを飲み込み、ドラゴンの巨体は跡形もなく消滅した。




