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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第2章 光の森、精霊界にて
15/50

闇の使徒との戦い

 ユーゲルの魔力が急速に膨れ上がり、漏れ出た闇の力が空気を濁らせる。

 魔法を練り上げる暇など与えまいと、アレスとヒースが剣を抜き、疾風のごとく突撃する。

「はああああああああああああああっ‼」

 二人の斬撃が、ほぼ同時にユーゲルへと届こうとしたその刹那――

 ユーゲルはにやりと嗤い、魔法を行使した。

『召喚・中位死霊・血穢騎士サモン・アンデッド・ブラッドナイト!』

 杖から闇が奔流のように広がり、赤黒く汚れた鎧を纏う騎士が現れる。

 その姿は死と穢れの象徴。赤く錆びた盾がヒースの剣をがっちりと受け止め、続いて、左手の巨大なフランベルジェがアレスの剣を迎え撃つ。

 金属が軋み、火花が散る。

 拮抗は一瞬。ブラッドナイトが濁った咆哮を上げ、二人の攻撃を力任せに弾き返す。

 のけぞるアレス――その隙を見逃さず、兜の隙間から覗くブラッドナイトの眼が妖しく光る。

『オオオオオオオオオオォッ‼』

 再び雄叫びを上げたブラッドナイトが、アレスに向けて、巨大な剣をすさまじい勢いで振り下ろす――まさに致命の一撃。

 だが、ブラッドナイトの健闘もそこまでだった。

 ヒースの神速の一閃が、闇を裂くように足を切り落とし、続く二撃目で、体勢を崩したブラッドナイトの首を鮮やかに跳ね飛ばす。

 それで終わりだった。ブラッドナイトは崩れ落ち、闇に溶けるように消えた。

 間髪入れず、距離を取っていたユーゲルを追って、アレスが再び駆け出す。

 しかし、ユーゲルも予想済みだったのか微塵の動揺も見せず再び術を紡ぐ。

『召喚・上位死霊・奈落の屍竜サモン・アンデッド・アビスドラゴン!』

 地面が震え、ユーゲルの足元から禍々しい瘴気が噴き上がる。

「くっ……!」

 前衛のアレスたちは足を止め、咄嗟に顔を覆う。瘴気の乗った凄まじい風圧が彼らを押し返し、アレスとヒースは一時的な後退を余儀なくされた。

 直後、黒い雷が空間を裂くように幾度も弾ける。瘴気は渦を巻き、膨れ上がり、そして天を貫くような巨大な雷鳴が轟く。

 やがて、瘴気の中心から影が浮かび上がる。

 低く、地の底から響くような唸り声とともに、ゆっくりとその姿が露となった。

 それは――巨大なドラゴン。

 だが、その体は骨と腐肉がむき出しで、見る者の理性を狂わすほどの異形。腐臭が瘴気とともに漂い、空気そのものが死に染まる。

 それは死の化身、奈落より這い出た屍竜。怨念に染まった紅の瞳が、眼下のアレスたちを見下ろす。

 そして、咆哮――

 大地が震え、空が軋むほどの咆哮が、周囲を呑み込む。

 しかし、その竜の咆哮を受けてなお、アレスたちは剣を構え、微塵も怯まない。

 屍竜が苛立ったように唸り声をあげて、顎を大きく開く。

 ――『竜の息吹ドラゴンブレス』。

 その巨大な口から禍々しい瘴気を纏った黒炎を吐き出す。

 その炎は生気を奪い大地を瞬く間に朽ち果てさせる――死そのもののブレス。

 それがアレスたちを襲う。

「精霊王の聖域ドミニオン・サンクチュアリ!」

 イリスの声が響き、瞬間、聖なる光が一帯を包み込む。

 その光は穢れを拒み、死の炎を一瞬にして浄化させた。浄化された黒炎は、色を失いやがて光の中で音もなく消えていく。

 そして、聖域の輝きは屍竜の身にも及び、アンデッドに堕ちた肉体を淡く焼く。竜が苦悶の唸りを漏らし、巨体がよろめく。

 生じた大きな隙――すかさず、タリクが神術を紡ぐ。

「光の封牢ルクス・カルケル‼」

「炎神の鉄槌イグニス・エル・ハンマー‼」

 天より降り注ぐ光の柱が幾重にも現れ、屍竜の動きを封じる。

 続いてアリシアが詠唱を終え、天空から巨大な炎の業火が降り注ぐ。それは太陽のごとく真紅に燃え上がり、屍竜を丸ごと呑み込むほど巨大だった。

 屍竜が炎を見上げる――だが、逃れる術はない。

 そして、直撃。

『――■■■■■■■■■■‼』

 咆哮とも悲鳴ともつかぬその声が、天を裂いた。

 轟音とともにすべてを焼き尽くす炎がその巨体を一瞬で包み、瞬く間に燃え上がる。炎から浮かび上がる影が、苦しみを訴えるようにもがいた。

 しかし――

『ふふふ、ははは、ははははははは‼』

 業火の中から響く、ユーゲルの狂気に満ちた笑い声。

 同時に、闇の波動が奔り、光の檻も激しい灼熱の炎も、一瞬にしてかき消された。

 現れた空白の時間。そこに疾風のごとく走る影が一人。

「――っ‼」

 静寂を裂くように、アレスが走る。狙うは、屍竜の足元に佇むユーゲル――その本体。

『甘い‼』

 ユーゲルが杖を振り上げると同時に、死角から竜の尾が閃き、アレスを薙ぎ払う。

「ぐっ……‼」

 とっさに剣で受け止めるも、衝撃は凄まじく、後方へ吹き飛ばされる。

 空中で身を捻り、態勢を立て直すアレス。その瞳は、次の隙を逃すまいと、鋭く光る。

 代わって、ヒースが前へと飛び出す。

 その瞬間、ユーゲルが杖の石突を地に打ち鳴らし、低く魔法を唱え始めた――。

『煉獄のヘルフレイム・サイクロン!』 

 黒い炎が地を這い、渦を巻いて天へと昇る。だが、ヒースは怯まない。手にした二刀が風を裂き、炎の嵐を切り裂いた。

断風タチカゼ‼」

 竜巻が両断され、黒炎は消滅する。まるで障害などなかったかのように、ヒースは前を走り続けた。

だが、ユーゲルの口元には凶悪な笑みが浮かんでいた。

「……⁈」

 違和感が警鐘を鳴らす。しかし、その時にはもう遅かった。

 黒く汚れた大地が、いたるところから赤く脈打つように発光する。

 それは――竜巻を迷彩として、しかけた邪悪な死霊の罠。

「しまっ――」

『爆ぜろ――闇の爆発シャドウバースト

 闇の爆炎が地を裂き、ヒースを襲う。精霊王の加護によって致命傷は免れたものの、しかし、爆風に呑まれた身体は少なからぬ傷を負い、吹き飛ばされて宙を舞う。

 だが、それは終わりではなかった。

 ユーゲルが確信の笑みとともに、杖を再び打ち鳴らす。

『一人目だ――!』

「なっ……!」

 ヒースの意識の外から、突如として襲いかかる影。

 空中では回避も防御も叶わない。

 そして――

 ヒースの身体を背中から大鎌が深々と貫いた。

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