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異世界転生レクイエム  作者: 山下贋作
第2章 光の森、精霊界にて
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精霊王の怒り、狂信者ユーゲルとの開戦

 精霊王イリスは静かに膝を屈め、トレントの灰を掬い上げた。

 その灰は風に舞うことなく、彼女の掌の上で静かに留まり、まるで精霊の意志がまだそこに宿っているかのようだった。

 イリスは目を閉じ、短く、しかし深い黙祷を捧げる。

 やがて目を開き、灰をそっと大地へ還す。

 その瞬間、彼女の瞳に宿るのは――静謐なる怒り。

 氷のように冷たく、刃のように鋭く、魂の奥底から湧き上がる感情が、彼女の気配を一変させる。

 その怒りは冷気となって顕現し、空気は震え、風は渦を巻き、空を裂く。

 それはもはや一個の感情ではなく、大自然そのものが怒りを表したかのような、原初の力の奔流だった。

 だが、イリスの怒りに晒されながらも、リッチーは口元を歪めて嗤う。

『ずいぶんと遅いお出ましだ、精霊王イリス』

 その声は嘲笑に満ち、死者の冷気を帯びていた。

 続けて、灰を見下ろすように言う。

『その灰は無礼なトレントのなれ果てよ。まったく、愚かな精霊だ。抵抗せずおとなしく従っていればこうならずに済んだものを』

 その言葉が終わるより早く、風が唸りを上げる。

 鋭利な風の刃がイリスの怒りを帯びてリッチーへと奔った。

 だがリッチーも即座に闇の結界を展開し、黒い膜が風刃を弾く。

「黙りなさい!」

 イリスの声は雷鳴のように響き、空気を震わせる。

『ははは。そう怒るな。我とて本意ではなかったのだ』

 リッチーは肩をすくめるように言い、なおも余裕を崩さない。

 その時、遠方から足音が近づき、アレスたちが戦場に到着する。

「何という邪悪な気配……!」

 タリクが険しい表情で杖を握りしめる。

 勇者たちの姿を認めたリッチーが歓喜に満ちた笑みを浮かべた。

『おお!人間の勇者どもか……!』

 両腕を大きく広げ、まるで舞台の幕が上がったかのように声を響かせる。

『よくぞ来た。のこのこと姿を現すとはおかげで手間が省けるというものだ。このまま逃げられてはどうしようかと案じていたのだが――ああ、我が王よ!私にこのような場を設けていただき、なんと感謝申し上げればよいか……!何たる栄誉!何という光栄の極み!』

 恍惚とした様子で天を仰ぐリッチーに、ヒースが小さく毒づいた。

「奴の言う王ってのはグレイブのことか。もう王様気取りとは……あのリッチーといい、趣味の悪いことだ」

 アレスが一歩前に出て、剣の切っ先をリッチーに向ける。

 その眼差しは冷静でありながら、怒りの火を秘めていた。

「答えてくれ、君の王は俺たちに何と言った」

 リッチーは口元を歪めて答えた。

『捕らえよ。生死は問わぬ、とのことだ』

「そうか……!」

 アレスの声が低く響き、一瞬走った苦みを飲み込んで剣を構える。

 仲間たちもそれに呼応し、戦闘態勢を整える。

「イリス。俺たちが前に出る。援護を頼む」

「はい、なんとしてもこのリッチーを滅ぼしましょう!」

 イリスが頷き、冷気が再び場を満たす。

 その気配に煽られるように、リッチーが高らかに叫んだ。

『なんと身の程知らぬ不遜な言葉よ!だが、それでこそ勇者!我が王が一目置かれる者どもよ!』

 そして、声を張り上げる。

『我が名はユーゲル‼偉大なる死の王の忠実な配下であり、怠惰に生を貪る貴様らに滅びをもたらす者である‼』

 その瞬間、空気が震え、死と風が交錯する。

 戦いの幕が上がった。

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