光の森、精霊界
暖かな光が弾け、柔らかな余韻を残してアレスたちを精霊界へと導いた。
そこは、現世の理とは異なる、静謐と祝福の入り混じる世界――。
葉の隙間から漏れ落ちる陽光は、金糸のように宙を舞い、空気に揺蕩う微精霊たちがその輝きを纏うように戯れている。
湖面では光が美しく乱反射し、さざめきのひとつひとつが歌声にも似た響きを奏でていた。
だが、その穏やかな空間に不安の影が落ちていた。人の姿をした妖精たち、言葉を持つ獣のような精霊たち、そして根を歩ませる古木の賢者が集い、精霊王の安否を気遣ってざわめいていた。
「イリス様!」
「精霊王が帰ってこない!」
「大丈夫?大丈夫?」
焦燥と不安が混じり合う声が森を満たす。だが――
その瞬間、柔らかな光を伴って精霊王イリスが帰還すると、歓喜の声をあげた。
「よかった!」
「王が帰ってきた!」
その喜びの声は次第に不安へと変わっていった。
「黒いのがいっぱい!いっぱい!」
「怖い!冷たい!悪い奴がいっぱい増えてる!」
「どうなる?どうする?」
口々に語られるのは、グランナレフ城の異変――闇の侵攻のことだった。
イリスは静かに微笑み、手を上げて「ありがとう」と告げると、精霊たちに無事を示すようにゆっくりと頷いた。
その穏やかな仕草ひとつで、精霊たちの騒ぎはすっと静まり、風の流れさえ柔らかくなった。
「その件について、これから勇者の方々と大切なお話をします。すみませんが、少しだけ待っていてください――フェリリア」
「はい」
呼ばれた妖精の少女が木漏れ日の中から姿を現す。指先から紡がれた柔光がふわりと空へ舞い、大樹の枝がどこからともなく伸びてくる。
それはまるで森そのものが意思を持って動いているかのようだった。
アレスたちは枝に導かれ、静かなる奥地へと進んでいく――そして、やがて彼らは開けた地へと辿り着いた。
「ありがとう、フェリリア」
「ご無事で何よりです、イリス様。皆、イリス様の身を案じておりました」
透き通る風を思わせる声で、精霊王を前にフェリリアは跪き、深い敬意を示す。
イリスは優しく頷きながらフェリリアの額へ手をかざす――それは魔力を介した精霊特有の意思伝達だった。
優しい光がフェリリアの身を包み込むと、彼女の瞳が驚きに見開かれる。
「まさか、そのようなことが……!」
「世界は再び、いえ今まで以上の混沌に陥りそうな状況です。ひとまず今伝えたことを皆に知らせてくれますか?」
「わかりました」
と言って、フェリリアは草木の合間へと滑るように入って姿を消した。




