表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

護り人(4)

 三条の湯の山小屋の主人は、空木を記憶していた。

 主人は空木の問い合わせに、理由を訊くことはなかった。そして、宿泊者の名前は教えられないが、と断った上で、十月二十日金曜日の宿泊者の内訳を教えてくれた。男女四人ずつ八名のグループ、ご夫婦が一組、単独行が一人、合計十一人が宿泊していたと教えてくれた。

 空木は単独行の宿泊者の名前を知りたかった。

「ご主人、理由は言えないのですが、その単独行の宿泊者の名前は、甲賀という珍しい名前ではありませんか」

「……答える訳にはいきませんが、そんな名前の方が泊まっていたように思います。これで良いですね」

「年末の忙しいところ、ありがとうございました」

空木は礼を言って電話を終えた。


 電話を終えた空木は、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

 三条の湯の山小屋に泊った甲賀は、翌朝山小屋を発ち、縦走路との合流分岐となる北天のタルに向かった筈だが、何時(いつ)、佐原浩の手袋を手に入れたのか。何よりも、何故、同行を断った佐原の後を追うような行動をとったのか考えた。

 十月二十一日土曜日、自分と佐原浩の財布から一万円札を抜き取った雨宮という若者は、分岐地点の北天のタルで食事休憩をとっている間に、佐原浩たちと浜崎恵奈たちに追い越されたと供述していた筈だが、単独行の男に追い越されたとは言っていなかったようだ。ということは、転落死亡した佐原のザックの財布から雨宮が一万円札を抜き取った後、そして空木と小谷原が到着するまでの間に、転落現場に到着し、手袋を手に入れたことになる。雨宮は人の気配を感じて慌てて現場を立ち去ったのではないか。転落している佐原を発見した甲賀は、現場まで下りて手袋の片方を持ち去ったか、落ちていた片方の手袋を持ち去ったか分からないが、佐原を救助しようとはしなかった。

 それにしても、甲賀は何故、あの山に行こうとしたのだろうか。

 空木は、手元の手帳を捲り、ホープ製薬の立川営業所の所長の大和が話していた、(浜崎達也からの告発文書)と書かれたページに目を止めた。告発文を送った人間は、浜崎恵奈の亡父の達也を知っている人物、かつ恵奈の職場で起こっているハラスメントを知っていた人物、それは甲賀しかいない。甲賀が告発文書を送った目的は何か。それは恵奈を(まも)るためではないか。恵奈たちが、北山からの嫌がらせを受けた時、恵奈のマンションで甲賀は北山と遭遇した。それも恵奈を護るためだった。つまり、あの山に行ったのも、彼女を護るためだったのではないか。佐原浩の山行予定を恵奈に伝えた後、十月二十日が近付くにつれて、恵奈の身が心配になり、急遽、奥多摩駅から三条の湯に宿泊することにしたに違いない、と空木は想像した。

 甲賀は、世話になった浜崎達也の娘である恵奈の『(まも)り人』になろうとしていたのだ、と空木は思った。守護霊とは、甲賀自身のことだと。


 空木は、スマホを手に取った。

 浜崎恵奈は直ぐに出た。

「浜崎さん、手袋を置いたのは、あなたの守護霊に間違いありませんよ」

「……空木さんまでそんなこと言って……、でも、空木さんがそう言うならそれで構いません。そう思うことにします」

 恵奈は全てを承知しているように空木には思えた。

 空木と恵奈は、「良いお年を」と年末らしい挨拶を交わした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ