護り人(2)
年も押し詰まった十二月三十日、空木のスマホが携帯の着信を知らせた。画面には、浜崎恵奈と表示されていた。
浜崎恵奈にとっては、思いもよらないことが、立て続けに起こった波乱の年の終わりということだろう。その恵奈から、年末の挨拶の電話ではないかと想像した。
「空木さんにお伝えしておきたいことがあって電話しました」
予想した言葉と、何か違うと感じた空木は、
「……どうしたんですか」と応じる他なかった。
「今日、母と一緒に父のお墓のお掃除とお参りに行ったんです」
「お父さんのお墓……、京都に帰省したんですね」
「はい、昨日実家に帰って来ました。それで、嵯峨野の常寂光寺の父のお墓に行ったんですが、お墓の前に黒いフリース生地の手袋が置いてあったんです」
「……その手袋がどうかしたんですか」
空木には、恵奈が何を伝えたいのか、今の話だけでは理解できなかった。
「どう説明したら良いか………その黒い手袋は、登山服メーカーのロゴマークが入ったものなんですけど、片手だけが置かれていたんです」
「片手だけですか……もう片方はどこかに飛んで行ったとか……」
「そうかも知れませんが、何故片方だけなのか、というか、そもそも何故登山用手袋が置かれているのか不思議で、考えたんですが、佐原さんが亡くなった事の報告の意味で、誰かが置いていったのと違うんかな、と思ったんです」
「……お父さんは、確か北アルプスで佐原さんが落とした手袋が原因で、滑落死したとお聞きしましたが、その手袋をお父さんの墓前に置いたということですか」
「そうです……」
「だとしたら、それはそれで良いんじゃないですか。……誰が置いたのかの予想もつくでしょう。……それとも誰が置いたのか分からないということですか」
「結論はそういうことなんですが……」
「お父さんの滑落の原因を知っていて、お寺とお墓の場所も知っている人は限られていると思いますが」
「そうなんです。それで、甲賀さんしかいないと思って、今日電話したんですが、自分ではないって言われて、それは守護霊の仕業かも知れないって言うんです」
「守護霊ですか………」
「私と父の守護霊が、佐原さんの手袋を墓前に供えたんだろうって言うんです」
「………」
「空木さんにも信じられませんよね。私も信じられない話ですけど、甲賀さん以外には、手袋を父のお墓に置くことが出来る人には心当たりが無い以上は、そういうことにするしかないかな、と思ってはいるんです……」
「でも、本当は誰が置いたのか知りたいということですか」
「………」
「それは、私には絶対に分かりません」
「そうですよね」
「………」
空木は、ふと疑問が湧き上がった。甲賀は恵奈に『佐原の手袋』と言ったようだが、それはただ単に、恵奈の父親の滑落死の原因が佐原の手袋だったという意味でいったものなのか、それとも佐原が亡くなった時、手袋をしていたことを知っていての話だったのか……。空木はあることを思い出した。
「浜崎さん、その手袋は手元にあるんですか」
「はい、あります」
「その手袋の写真をメールで送ってくれませんか。手袋の両面を撮って送ってください。ちょっと調べてみたいことがあるんです」
「調べるんですか……」
「ええ、守護霊がしたことかどうか、調べてみたいんです」




