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第五話 護り人(1)

 十二月初旬、都内より気温が低い多摩地区の最低気温は、氷点下を記録し始めた。

 テレビニュースで、横谷仁志が、北山伸夫殺害容疑で逮捕されたことを報じているのを見た空木は、やはりそうだったのかと思うのと同時に、殺害に至った動機を知りたかった。

 ニュースでは、個人的な揉め事が原因だと伝えていたが、その揉め事とは何だったのか知りたかった。それは、探偵として北山伸夫のあの日の行動を追い、そして一瞬とは言え、北山伸夫殺害の容疑者として、聴取を受けた人間としての権利のように思えたからだった。

 大月中央署の刑事である関に直接電話をして訊きたいが、それは探偵とは言え一般人の空木が、訊ける立場ではない。ここは、高校の同級生の国分寺署の刑事、石山田に無理を承知で頼むことにした空木は、石山田の携帯に電話をした。

 石山田は、国分寺署としても、北山を被疑者死亡で起訴することになる。その北山が、どんな理由で殺害されたのかは、知りたいところでもあるので、近いうちに大月中央署に訊いておくようにする、と応じてくれた。

 暫くすると、ホープ製薬の石黒勇樹から空木の携帯に電話が入った。石黒の電話は、北山から嫌がらせを受けた四人を代表しての電話だった。

 石黒は、礼を言うとともに「まさか横谷支店長が北山さんを殺したとは思ってもみませんでした」と続けた。

 横谷と北山の間には、何があったのか、という空木の問いに、石黒は、支店内の噂だとして、支店長の横谷が、北山から脅されていたらしい、何で脅されていたのかは分からない、と答えた。


 数日後、石山田から空木の携帯に連絡が入った。

 空木は、石山田が大月中央署から聞いた、横谷の北山殺害の動機を知ることが出来た。

「飲酒運転の身代わりをさせた弱みを握られた横谷が、本社から『なんとかしろ』と言われたことで、殺害を計画したということなのか。とんでもない動機だな」

「全くだ。それで『なんとかしろ』と言った本社の人間にも聴取に行ったらしい」

「その言葉の意味が何だったのか、何を意図して言ったのか、殺人教唆(きょうさ)はなかったかを確認しに行ったということか」

「そうだったようだが、まあ、当然だけど、殺せとは全く言っていないし、まさか殺害するとは思ってもみなかった、ということだったそうだ」

「それはそうだろうな。……ところでその本社の人間というのは、誰だったんだろう」

「人事部長だそうだ」

「人事部長……、人事部長って、組織上の形の上とは言え、北山の上司の筈だけど、どんな意図で『なんとかしろ』なんて横谷に言ったのかな」

「横谷は、北山とは大阪からの付き合いで、親しい筈だから、犯罪となるような嫌がらせを止めさせてくれ、という意味だったらしい」

「ということは、横谷は北山の一連の嫌がらせを知っていたということなのか」

「そうみたいだな」

 確か、北山の後任所長の大和は、北山の嫌がらせ行為を、同期入社の内部統制部の部長に話した、と言っていた。そこから人事部長に伝わり、横谷に伝わったと考えるのが自然だろう。ということは、人事部長は旧ホープ製薬出身なのだろう、と空木は想像した。旧ホープ製薬出身の人事部長にとって、北山の嫌がらせが犯罪として表沙汰になることは、避けたかったことだろう。人事部長の『なんとかしろ』は切羽詰まっていたのかも知れない。

「巌ちゃん、今一番ホッとしているのは、その人事部長かも知れないな」

「え、それはどういうことだ」

「会社のメンツと、自己保身のためには、北山がいなくなって良かったと思っているってことさ」

「俺には何のことかさっぱり分からん」

 空木は、いずれ説明すると言って電話を切った。

 


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