表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

挨拶状(3)

 石黒勇樹からの急な面会依頼を受けた空木(うつぎ)(けん)(すけ)は、石黒から事のあらましを聞き、協力することを引き受けた。ただし、被害を受けた四人の総意が一致しているのか、直接話をして確認することが前提だと伝えた。そして、石黒勇樹が、警察に被害届けを出すことも条件として加えた。

 翌日の早朝、ホープ製薬の立川営業所に足を運んだ空木は、石黒勇樹と浜崎恵奈以外の三人と挨拶をし、名刺を交換した。そして、改めて四人が受けた嫌がらせの、日時も含めた詳細を訊いた。

 空木は、石黒の推測同様、嫌がらせは前所長の北山の仕業だろうと推測したが、口には出さなかった。

 北山による部下へのパワハラ、セクハラの内部通報を受けたホープ製薬の内部統制部は、立川営業所の所員からの聞き取りを行い、懲罰委員会に諮ることを決めた。委員会の結果、北山は人事部長付課長に降格異動が決定した。この話を大和から聞いた空木は、処分に至る社内決定のスピードは、驚く速さだと思った。農薬混入事件が起こった営業所の所長とは言えども速いと。

 降格処分を受けた北山は、内部通報した人間が、誰なのか突き止めたかったのだろうが、分からなかった。それで、勝手に想像して嫌がらせを始めた。つまり、<ご挨拶>と印刷されて四人に送られて来た葉書きは、嫌がらせの始まりを告げる<布告状>だったのだろう。最終目的が何なのかは分からない。精神的に追い詰めて退職に向けさせるのか、家族を巻き込んで家庭不和を起こすためなのか、まさかとは思うが、精神的に病んで自死するまで続けるつもりなのか。

 空木は、被害を受けた四人の話を手帳に書き留めた。


 福永弥生 11/4(土)ビラ6:30 11/18(土)電話:国分寺市並木、マンション

 澤木圭一 11/4(土)タイヤ夜 11/19(日)出前:立川市幸町、一戸建て

 浜崎恵奈 11/4(土)電話 11/18(土)送り付け:立川市栄町、マンション

 石黒勇樹 11/5(日)出前 11/19(日)ビラ夜:小金井市前原、マンション


 書き留めた四人への嫌がらせのメモに目を落としたまま、空木は「犯人は、嫌がらせの組み合わせを楽しんでいるようですね。単独なのか、共犯がいるのか分かりませんが、単独でも十分やれる犯行です。はっきりしていることは、皆さんの住居環境と地理をよく知っている人物のようですね」と切り出した。

「やっぱり北山さんです」福永弥生だった。

「皆さんも、北山さんの犯行ではないかと思っていると、考えて良いのですか」

空木の問いに、石黒を始め四人は頷いて同意を示した。

「大和さんはいかがですか?」

「……残念なことですが、私も北山さんの犯行の可能性が高いと思っています。ただ、確証がないので、警察に訴えることは、躊躇(ためら)います」

「皆さんの総意は、北山さんの犯行だという確実な証拠を掴むこと、ということですね」

 四人は黙って頷いた。

「そのためには、北山さんの部屋を家宅捜索して証拠を見つけ出すのが良いのですが、それは警察でないと出来ません。私たちが出来ることは、現場を押えることです」

「私たちですか……」石黒が確かめるように小声で繰り返した。

小声なのは、不安の表れだろうと空木は受け取った。

「私一人では、北山さんの行動を追いつつ、皆さん四人の家、マンションを監視するのは不可能です。皆さんの協力が必要です。犯人は、ここまで五種類の嫌がらせを、対象を替えながらしていますが、ビラは、直接マンションに行って貼っています。これからも誹謗中傷のビラを貼ると思います。そこを押えて証拠とするんです」

「押さえるんですか……」石黒だ。

「写真を撮るだけでも十分です」

「澤木さんの家では、車と自転車のタイヤを、ナイフのような物で切られましたが……」

今度は大和が、澤木に顔を向けながら、四人の不安を代弁するかのように不安げに訊いた。

「私は、車をパンクさせられました。みんなの車も同じ嫌がらせをされるのではないかと思いますが……」

「確かにその可能性もありますが、……これは私の想像ですが、犯人は皆さんの車の車種もナンバーも、マンションの駐車場所も知らないのだと思います。ところが、澤木さんの場合は一戸建てのために、そこにある車をターゲットにすることが出来たんだと思います。だからと言って安心は出来ませんが……」

「車の車種やナンバーが知られない限り大丈夫ということですか。澤木さんはまた被害に遭うかも知れない?」福永弥生が、心配そうに澤木に顔を向けた。

「警察からも勧められて、防犯カメラを取り付けたのですが、心配です」

「澤木さんに限っては、ビラと車の両方の嫌がらせへの注意が必要かも知れませんが、これも私の想像ですが、犯人は同じ種類の嫌がらせは、暫くしてこないのではないかと思います」

「では、ビラですか……」澤木が呟き俯いた。

「取り敢えずこの週末は、嫌がらせのビラに注意してください。これは浜崎さんも同じです。福永さんも石黒さんも自宅マンションに不審者が現れないとも限りませんが、まだ、誹謗中傷のビラの被害に遭っていない澤木さんと、浜崎さんは特に注意してください」

「……私、この週末は友達と伊豆の天城山(あまぎさん)に泊りで山登りに行くつもりなんですが、どうしたらいいでしょう」

 浜崎恵奈の口調は、遠慮がちではあったが、予定を変えるつもりはないと言っているように、空木には聞こえた。友達というのは、多分、雲取山で出会った、空木の万永製薬の後輩の東村というMRだろうとも想像した。天城山も雲取山同様、深田久弥の日本百名山に選ばれている山だったが、空木はまだ登ったことはなかた。

「犯人がビラを貼るとしたら、今までのパターンでは土曜の夜でしょう。犯人を見ることは出来ないかも知れませんが、ビラが貼られているかどうかの確認は私がしますから、どうぞ山に行って来て下さい」

「今週は、協力出来なくてすみません」

 恵奈はちょこんと頭を下げた。

「あの……、実は私も主人と温泉に旅行に行くんです」福永弥生は、申し訳なさそうに空木を見て、「それで、弟に週末に来てもらおうかと……」語尾が濁った。

「そうしてもらえれば助かります」空木は、弥生に微笑んで答えてから、

「澤木さんと石黒さんは大丈夫ですか?」と二人に顔を向けて訊いた。

二人は、「大丈夫です」と応じた。

「それで、私は北山さんの週末の行動を追うつもりですが、会ったことがないので顔が分かりません。どなたか、写真があればいただきたいのですが……」

「…………」

誰も応じることがない中で、大和が四人を見廻して、

「私が一緒に行きましょう。北山さんを教えますよ」と協力を申し出た。

「それは助かります。宜しくお願いします。それから、もう一つ北山さんの車の車種が分かれば教えてください」

「北山さんは、車は持っていなかった筈ですが……」澤木が首を傾げて言うと、

「車は、大阪の家族のいる留守宅に置いてあって、東京には持ってきてなかったみたいですよ。こっちでは会社の車を使って買い物とかしていたと思います」福永弥生が補足した。

「会社の車ということは、今は乗っていないということですか?」

「人事部長付課長で内勤業務ですから、営業車両に乗ることはないです」大和は淡々と、そしてキッパリと言い切った。

「そういうことですと、北山さんが犯人だとしたら、レンタカーでも使ったのかも知れませんね。これまでの犯行では、犯人は澤木さんの自宅、福永さんのマンション、石黒さんのマンションに夜六時半以降に行っていますが、車を使っている筈ですから」

 そして空木は、今週末の土曜日の午後三時以降に的を絞った計画を、五人に説明した。

 それは、まず空木が、大和の協力の元、北山の住む中野区本町二丁目のマンションに行き、行動を監視する。北山が動き始めたら、石黒、福永、澤木、浜崎の四人に連絡する。北山が、車での移動でなければ空木は後を追う。レンタカーであれば、追跡は諦めて、浜崎恵奈のマンションに向かう。四人、若しくは代理人は、北山らしき不審者が自宅、マンション付近に現れたら、写真に収める。ビラを貼っている場面を撮れればベストだが、とにかくカメラに収める。もしもその不審者が、北山だと確信した時は、声を掛け、状況によっては警察に通報する。という段取りを説明した。

「しかし空木さん、北山さんが大阪へ帰省していることはありませんか。今週は飛び石連休ですが……」大和が顎に手を当て、珍しく不安そうに首を傾げた。

「北山さんは、所長の時は年に三、四回ぐらいしか帰省していませんでしたが……」と石黒が澤木に確認するかのように顔を向けると、澤木は「そうですね」と頷いた。

「そのことは、私に考えがありますから、木曜日の祝日に、北山さんが帰省しているかどうか、皆さんに連絡することにします」

  打ち合わせを終えて、空木たちがミーティングルームを出ると、それを待っていたかのように、二人の社員が立ち上がって、大和に近寄った。二人は、大和に何かを耳打ちすると、三人で再びミーティングルームに入って行った。時刻は、八時半を回ったところだった。


 その日、事務所兼自宅に戻った空木は、国分寺署の刑事課係長の石山(いしやま)()(いわお)に確認のための連絡をした。

 誹謗中傷のビラを貼られた福永弥生と石黒勇樹は、警察に名誉棄損の被害届を出していた。その管轄警察署は同じ国分寺署だった。空木には、刑事課が担当すべき案件なのかは分からなかったが、高校の同級生の石山田に、その案件がどういう捜査状況にあるか聞いておきたかった。

 暫くすると石山田から折返しの連絡が入った。

「最初の案件、福永弥生が被害者の件は、生活安全課が担当したけど、石黒勇樹の二件目が発生して、刑事課との共同案件という位置づけになった。捜査は主に生活安全課がやっているけど、進んではいないだろう。巡回の強化という対応はしている」

 石山田からの答えは、空木の予想通りだった。

石山田は、その案件がどうかしたのか訊いた。空木は、その犯人を見つけて欲しいという依頼を受けたことを話すとともに、四人が同時に嫌がらせを受けていることも付け加えた。

「その嫌がらせをしている人間が同一人物という推理なのか」

「あくまでも推理で、今のところは何の証拠も無いんだが、尻尾を掴んだらガサ入れしてくれるかい」

「分かった。その時は連絡してくれよ。それまでは生安課には言わないでおくよ」

 電話を切った空木は、馴染みの『平寿司』に足を運ぶことにした。

 北山という空木が会ったことがない男は、どんな男なのだろう。嫌がらせの犯人だとしたら、失敗を、自分の不幸を全て他人の所為にする人間のような気がする。そんな人間が何故、人を指導する立場に立てたのか不思議だった。


 祝日の夕刻、空木は、ベージュのチノパンに、えんじ色のブルゾンを上着にし、ショルダーバッグを肩からタスキ掛けにして出かけた。出かけた先は、中野区本町二丁目の北山のマンションだった。

 空木は部屋番号を確認し、ドアの前に立ち、インターフォンを押した。返事が無かった。「……居ないのか」もう一度押した後、ドアを叩いて「東経新聞です」と呼びかけた。するとインターフォンからはっきりと声が聞こえた「新聞は要らない」と。

「居た!」と呟いた空木は、「よし」と呟いた。

北山は、飛び石連休を使って大阪に帰省することはないことが、確認出来た。空木は、五人にメール送信した「北山さんは東京にいます」と。


 十一月二十五日土曜日の午後三時、空木は大和とともに、北山の入っているマンションに近い路上に停めた大和の車の中で、北山が動き出すのを待った。

「北山さんは、嫌がらせに動くと思いますか」

運転席の大和は、マンションの入口に視線を向けたまま、空木に話しかけた。

「石黒さんからの連絡で、午前中から携帯電話に番号非通知の無言電話がかかってきているそうです。それが北山さんの仕業なら必ず動くと思います」

「嫌がらせを始めたということですか」

 空木がここに来るまでの間に、空木のスマホに、石黒勇樹から無言電話が何回もかかってきているというメールが入っていた。そのメールを見た瞬間空木は、北山は今夜必ず動くと確信した。

「空木さん、北山さんを内部通報したのは、うちの営業所の青木というMRでした」

 大和の突然の話に、空木は戸惑いを隠せなかったが、

「青木さん………ですか」ゆっくり繰り返すことで落ち着こうとした。

「空木さんは会ったことが無い社員です。空木さんと打ち合わせをした、あの後、ミーティングルームで私と話したいと言って、話してくれました。澤木さんたちが、嫌がらせを受けていることを薄々知って、青木と山田は、北山さんがやっているのではないか、だとしたら、自分たちが通報したことがきっかけではないか、といたたまれなくなったと言って打ち明けてくれました。それで青木が通報することを決心した理由ですが……」大和は自ら話を遮って、

「北山さんが出てきました。あれが北山伸夫です」大和は指差した。

 大和が指差したその男は、黒のハーフコートを羽織り、黒い書類カバンを下げていた。男は、丸ノ内線の中野坂上駅の方向へ歩き出した。

「大和さん、ありがとうございました。ここからは私一人で追います。顔を知られていないのは好都合です」

 空木は車から降りた。

「空木さん、さっきの話は空木さんにしか話していませんので、承知しておいて下さい」

 大和のその言葉を、背中で聞いた空木は、「分かりました」と振り返らずに片手を挙げた。

 時刻は、午後四時を回ったところだった。

 北山は、必ず車を使う。中野坂上駅の近くにはレンタカー会社があった。駅から北山のマンションに行く途中で、大手の会社ではないが、東京都内に多くの店を出しているレンタカー会社の看板を見たことを、空木は憶えていた。

 空木は北山の後ろ姿をカメラに収め、さらにレンタカー会社に入る姿を撮ろうとカメラを構えた。が、北山はそのレンタカー会社の前を通り過ぎ、中野坂上駅への地下入口へ入った。どこへ行くのか、自分の住まいの近くのレンタカー会社では、足が付くことを恐れ、別の駅近くのレンタカーを使うつもりなのかも知れない。丸ノ内線から中央線の乗換駅の荻窪、中央線なら三鷹、国分寺、立川駅、いくらでもレンタカー会社の店はある。

 空木は取り敢えず、石黒たちに『北山さんは、地下鉄に乗って移動を開始』と一斉にメールを送信した

 北山は空木の予想に反して、東京メトロ丸ノ内線ではなく都営大江戸線の改札を抜け、新宿行のホームに降り立った。北山は、一体どこで借りるつもりなのか、新宿のレンタカー会社か、それとも予想に反して、今日はやるつもりはないのだろうか。まさかだが、嫌がらせの犯人は北山ではないのだろうか。空木のこれまでの確信は、不安に変わった。

 北山は、一駅先の西新宿五丁目駅で下車した。改札を抜けた北山は、清水橋交差点方面と書かれたA2出口の階段を上って地上に出た。顔を知られていない空木は、地下鉄車内では直ぐ近くに座ったが、ここからは、一定の距離を空けて後ろ姿を追った。

 北山は、交番の前を通り、大きな交差点を渡った。渡った先の住所表示を見ると、新宿区から渋谷区に入ったようだった。舗道を二百メートルほど西に歩いた、左手のマンションに北山は入って行った。マンションの名前は、住所表示が渋谷にも拘らず、『ウエストコート西新宿』とあった。空木の危惧した結果になりそうな予感が走った。

 空木は、時間を見た。四時半を回り、薄暮の色に街が変わっていった。北山がこのマンションからいつ出てくるのか、分からないが、もう暫く待つことにした空木は、どこで待つか辺りを見廻した。来た道を戻ったり、少し先まで歩いたりしていたその時、北山が五十代と思しき男と一緒にマンションから出てきて、空木とすれ違った。思わず「あっ」と小さく声が出た空木だったが、北山には聞こえなかったようだった。

 空木は、少し離れて二人の後を歩いた。どこへ行くのか。飲みに行くには早すぎるが、移動に一時間以上かかる場所なら不思議はない、と推測していると、二人は左に曲がった。空木が小走りに後を追うと、二人は立体駐車場に入って行った。

「二人で、車で食事に行くのか……」万事休す、と空木が呟いた時、一台の車が出庫し薄暮の中走り去った。大阪ナンバーのシルバーの乗用車だった。

「ここまでか」と空木が呟くと、その呟きが聞こえたのか、男が不思議そうな顔をして、空木に一瞥(いちべつ)して通り過ぎた。北山と駐車場に一緒に入って行った男の様に見えた。空木はその男の後を追った。その男はやはり『ウエストコート西新宿』に入って行った。

「……北山は車を借りたんだ」空木は思わず声を上げた。周囲を見廻したが、幸いにも通行人はいなかった。

 空木は、石黒たち四人と大和に一斉にメールを送信した。「北山さんは車で動いた。車はシルバーで大阪ナンバー」と。時刻は四時四十五分を示していた。

 この時季四時半には陽は沈む。この時間に移動すれば、十一月四日に福永弥生のマンションにビラを貼った時刻の六時半過ぎには、真っ暗な、国分寺ないし立川に到着する筈だ。福永弥生のマンションの防犯カメラに、写っていたバケットハットとマスクの男は、やはり北山の可能性がある。空木の不安は、再び確信に変わった。

 空木はまた時計を見た。ここから立川駅まで移動し、浜崎恵奈のマンションを探して監視することになる。時間にさほど余裕はない。


 空木が、立川駅から浜崎恵奈のマンションのある栄町付近でタクシーを降りたのは、六時少し前だったが、陽が暮れた中、マンションを探すのは容易ではなかった。いつの間にか隣町の幸町に入り込んでしまった時、スマホがメールの着信を知らせた。澤木圭一からのメールだった。そのメールには、『カッターナイフの刃が入った封筒が、ポストに入れられました。防犯カメラに、黒い帽子のマスクをした男が映っていました』とあった。

「北山だ」空木は呟いた。いつの間にか北山を呼び捨てにしていた。そして、澤木の住所を手帳で確かめた。立川市幸町だった。「北山は近くだ」空木は、思わず辺りを見廻した。

 歩いてきた道を引き返すと、一台の車が空木を追い越した。大阪ナンバーの車だった。

「北山だ」空木は、その車が走って行った方向へ速足で急いだが、車は見えなくなった。

 十分ほど歩くと、道の左端に一台の車が停車していた。大阪ナンバーのシルバーの車だった。空木は、その車をカメラに収めた。そして、周囲を見廻し、北山らしき人影を探し、浜崎恵奈のマンションを探した。この付近は何回も探したところだった。

 五、六分たっただろうか、停車している車の先の細い道から、一人の男が走って出て来た。男は、黒いバケットハットとマスクをして、大阪ナンバーの車に慌てて乗ると、かなりのスピードで走り去った。北山に違いないと、空木は確信したが、カメラに収めることは出来なかった。

 北山らしき男が、出て来た道に空木が小走りに向かうと、そこからもう一人の男が出て来た。その男は空木に一瞥(いちべつ)すると、立川駅の方向に歩き出した。

 北山らしき男と、もう一人の男が出て来た狭い道に入って行った。二十メートルほど入った右手に、浜崎恵奈のマンションがあった。やっと見つかったが、時間が掛かり過ぎた。予め探しに来ておくべきだったと悔やんだ。マンションは三階建ての細長い建物だったが、手前の大きなビルの陰に入った形で、夜間の遠目には見つけられなかった。

 北山は、この場所を知っていて迷わずに、澤木の家からここに来たのだろう。そしてここに来た目的は、誹謗中傷のビラを貼ることだ。空木は、マンションの中、周囲を確認したが、貼り紙は一枚もなかった。「どういうことだろう」空木は呟いた。

 空木は、天城山に登山旅行に行っている浜崎恵奈に、『異常はありません』とメールを送信した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ