七 移動手段
朝食後は巫女服に挑戦することになった。ユキに手伝ってもらって何とか着てみたが、すんごく似合っていない。やはり、この健康的な小麦色の肌が、似合っていない原因だと思う。
「神子様、すごくお似合いになられます。」
ユキは、分かりやすくヨイショしてくれた。しかし詳しくきいてみると、先代の神子がこっちの世界に現れた時には、かなり黒く焼けていたので、色黒での巫女服に免疫があるようだ。先代の神子の世話も、ユキの担当だったようで、いろいろと話も聞いているという。
「先代の神子様は、こちらに来られる前は、”ぎゃる”というお仕事をされていたとお聞きしました。その”ぎゃる”の中でも、黒の”ぎゃる”を務めておられたようです。」
なるほど、先代は黒ギャルだったんだ。
「こちらに来られた当時は、非常に黒い肌の色をされておりました。なんでも神の国では、肌を黒く焼くための箱があり、その箱の中でじっくりと肌を焼かれていたと仰っていました。でも先代の神子様も、時がたつにつれ肌の色は白くなってきたので、元々は色白だったようです。色白の神子様も非常にお綺麗でしたが、肌が黒い神子様も素敵でした。神子様は先代とは雰囲気が違いますが、短い髪と肌の色が巫女服に、とてもお似合いでございます。」
なんとなく、同じ時代の女の子だと思っていたけど、黒ギャルだったとはね。少なくとも、この世界で何とか生活を続けていけるように、いろいろと準備をしてくれていたみたいで、とても助かる。ありがとう、先代。
私の(自称)小麦色の肌にも免疫があるようなので、ここはやっぱり、白粉は無しでいこう。この白粉はかなり白いので、塗ると歌舞伎役者というか何というか、私の年代には合わない見た目になりそうだ。先代はギャルなら、きっと私達の年代にあうファンデーションを、開発してくれているに違いないと思い、ユキに聞いてみると、やはりもう少し肌色に近い白粉もあるらしい。
さすがだね。まあ、でも当分化粧は無しでいこうかな。
「神子様、お迎えに参上しました。昨日、ご挨拶した嗣家の弟、徳井川嗣基と申します。本日は、まずわが姉、櫻花と面談頂きたく、お時間を頂戴いたします。よろしくお願いいたします」
昨日のイケメン武士を幼くした感じかな。年の頃は私と同じ十代半ばに見える。
「こちらこそ、本日は宜しくお願い致します」
「それでは、城にご案内いたします」という嗣基くんの後を城に向かって歩き始めた。くん呼びがしっくりくるので、心の中では嗣基くんと呼ぶことに決定した。
私と一緒に城に向かうのは、嗣基くん、大宮司、イケオジ神主三人組、ユキで、七人で向かうことになった。社務所を出て境内を歩いていくと、境内のあっちこっちで、昨日に引き続いて祭りの準備を行っており、活気に満ちていた。祭りの準備をしている空気感、すごくいいよね。なんかわくわくしてくる。
準備をしている人たちを横目に見ながら歩いていると、こちらに気が付いた作業者が手を止めて、「おはようございます。神子様」と、挨拶をしてくれる。既に私の事は、みんなが知っているらしい。私が着ている巫女服も、他の巫女服より、少し高級な感じがするので、着ている服でも神子だと分かるのだろうか。
遠くで作業をしている人も、わざわざ近くまできて挨拶をしてくれるので、少しむず痒い感じがする。ちょっと照れるよね。まあ慣れるしかなさそうだけど。
境内を抜けると、大きな鳥居があって、そこから階段が下に向かっている。その階段をおりると、また鳥居があり両側に狛犬があった。でもなんか違和感があったので、近くでよく見てみると、犬ではなく狐のようだ。この神社のご神体は、狐と聞いているので、その関連なのだろう。
下の鳥居を抜けると、大きな道が左右に伸びており、その道は石畳で整備されている。神佛横断道と書いてあるので、そういう名前なのだろう。この道だけ見ると、ヨーロッパの街の雰囲気が漂っている。やっぱりこっちの方が、異世界感が満載だよね。
この道沿いには、この神社と、今から向かう領土を守っているお城、さらにその先には寺があって、その三つの建屋を繋いでいるのが、神佛横断道のようだ。ここからだと、城の入り口の大きな門が見えるが、お寺の入り口までは見えない。なかなかの距離の石畳となっていて、両サイドはレンガを積んだ塀が続いている。
この道は、多くの人が行き来しており、みんな歩きだ。ユキに聞いてみると、この世界の移動手段は、歩きが一般的なようだ。術で飛べないかなって期待したけど、残念ながら飛行術は限られた人しかできないし、長時間の飛行は無理なようだ。歩き以外では、馬や馬車での移動が一般的で、海はちゃんとした大きな船で移動する。さすがに電車はないか。
私たちは、城の門に向けて歩きだしたのだが、結構な人が移動している。多くはないが、馬車や馬に乗って移動している人もいる。ここは町から離れた山の上なのに、不思議な感じがする。民家らしき住居は見当たらないし、なんでこんなに人がいるのだろう?
町から来たのだったら、どのように来たのかな?と疑問が湧いてきたが、その疑問は歩いている途中で解決した。神社とお城の中間あたりに、大きな建物があり、そこから人が溢れ出てきていたのだ。その建物に入っていく人もいるので、その建物の周辺は特に混雑している。
「この建物は何ですか?」と嗣基くんに尋ねてみると、「吾輩が説明するより、ご覧になった方が早いでしょう」と、嗣基くんがその建物へ案内してくれることになった。建屋に入ると、左右に屋台のような店がいくつかあり、そこで朝食を取っている人が大勢いて賑わっている。嗣基くんは、お店の真ん中の通路を、どんどん奥に進んでいくので付いていくと、駅のホームのような場所に出た。
「神子様、落ちないように気をつけながら、下の方を覗いてみて下さい」というので、おっかなびっくり下を見てみると、ここから町に向かって真っすぐ、レールのようなものとロープが二本が繋がっていた。そのレールに乗って、屋根がついた小さな小屋のような建屋が、麓からこちらに向かって登ってきている。屋根の両隅がロープが掛かっていて、そのロープが動力になっているようだ。
その動く小屋は、ここまで登ってきたら、ここに横付けした状態で止まった。さっき駅のホームのようだと思ったが、実際には駅のホームそのものだった。小屋の扉が開くと、そこから何人もの人が出てきて、代わりに待っていた人が乗り込んでいく。小屋は車両になっていて、中をのぞくと、畳で出来た椅子がいくつもある。さっき乗っていった人が、その椅子に次から次に座っていく。
「これは、数代前・・・五代ほど前の神子さまでしょうか。その神子様のご指示で作ったもので、”ごんどら”という乗り物です。麓にある町にも同じ様な建屋があり、駅と呼んでおります。」
なるほど、言われてみるとゴンドラみたいだ。動力を考えるとロープウェイのようだしね。ただレールがあるのと、形が小屋だから、違和感しかないけど。
「”ごんどら”は、一日に数回、麓の駅とこちらを行き来きをしており、人々が移動しています。朝と夕方が少し混雑しますが、無料で乗ることが出来るので、人々には大変便利な乗り物です。この”ごんどら”が出来るまでは、馬か徒歩で麓まで移動をしていました。馬でも、こちらに来るには少し遠回りする必要がありますので、半日はかかっておりました。」
だから、山の上なのに、こんなに人がいるのか。ゴンドラを使えば、人の移動がかなり楽だからね。
「神社、お城、お寺に務めているものは、こちらで住み込みで務めているものもおりますが、”ごんどら”が出来てからは、麓の街から通っている者も大勢おります。本日は祭りの準備で、普段より多くの者が、町より移動してきているようです。神子様もお時間が出来ましたら、麓の街をご案内致しますので、是非”ごんどら”に乗って、町へ行きましょう。」
なんか、遊園地のアトラクションみたいで、面白そう。楽しみ。
「神子様、本日は予定がございますので、城へまいりましょうか。」
駅を後にすると、再び城に向かって歩き出した。この神佛横断道でも、所々で屋台の準備が進んでいる。まだ、どんなものが売られるのかはまだわからないけど、期待でワクワクしてきた