六 神子のお仕事
私は基本的に朝は弱いのだが、次の日は意外と早い時間に目が覚めた。
まあ、昨日は早い時間に寝たからね。
朝から有能なユキが、布団の横に控えていて、段取りを教えてくれる。
「神子様、おはようございます。昨日はよくお眠りになられたようで、ほっとしました。先代の神子様は、顕現された当初は、なかなか眠れなかったご様子で、非常に辛そうなお姿だったので、同じように眠れないかと心配をしておりました。」いや、別に神経が図太い訳ではないのだけど、よく眠れたのは事実だから、あえて反論をしないでおこう。
「お着替えをご用意させて頂きました。こちらの巫女服にお召替えをお願い致します。」
すこしぼっとしながら、横を見ると巫女服が準備されていた。ユキや、昨日みた女の子が着ていた巫女服より、豪華な巫女服だ。うん、コスプレだね、これは。
「こちらには、水をご用意しました。手ぬぐい、櫛、鏡もございますので、それらをお使いいただいて、身だしなみが整いましたら、昨日と同じ食事処に朝餉の準備をしておりますので、ご案内させて頂きます。」
神子服の横には、鏡台があって、水が張ってある桶が置いてある。手ぬぐいや櫛、木の容器に入った、紅と白粉も置いてあった。
白粉は、ラノベで身体によくないと記憶していたので、体に害がないのかユキに聞いてみた。ユキがいうには、この世界では術を使うことで、毒の有無がわかる人たちがいて、この白粉もちゃんと確認をしているので、問題なしとのことだった。また、この術があるので、この世界では毒殺での殺害もないらしい。
私は、陸上部の割には、それほど日に焼けている訳ではない(自分調べ)が、それでもこんがり小麦色だ。そこも私の魅力だと自分に言い聞かせて生きてきたので、特に白い肌に拘っていない。でも、白い肌に憧れていない訳でもないという、自分でも面倒な性格も持っているのを知っている。白粉にチャレンジしてみようかなって、少しだけ白粉を手に取ってみると、思った以上に白かったので、似合わない(自分調べ)ので、使わないことにした。
口紅も殆ど使ったことがないから、使わなかった。使い方は、指先に紅をつけて唇に塗るようだ。鮮やかな赤色をした紅に目が行ったが、朱色や淡いピンクなど、何色かある。時間を見つけてチャレンジしてみよう。そういえば、秋から冬にかけて唇が乾燥するので、薬用リップを使っていたことを思い出した。術で何とかならないかな?
髪の毛を櫛で整えながら、昨日から見かける女の子は、みんな長髪だったのに気が付いた。髪の手入れは大変そうだ。ドライヤーもヘアアイロンもないからね。私はショートボムなので、多少マシかな? 少し髪の毛を濡らして、髪をとかすと寝ぐせが直った。
ユキに髪の手入れ方法を聞いてみたが、風呂上りに術を使って、髪を乾かしているとのこと。
ぜひ、その術は習得したい。
朝食は浴衣のままでOKということなので、身だしなみだけを整えて、食事処に移動した。テーブルの上には既に十数個のお膳が用意されており、作務衣を来た人たちが、朝餉の準備がしている。各々のお膳の前には、すでに昨日会った神主や巫女が座っていたが、私のお膳の正面には、昨日はいなかった、白髪で髪と同じ白い髭を蓄えた、お爺さんが一人座っていた。
お爺さんは、私に気づいて慌てて立ち上がって、私の隣に来て挨拶をしてくれた。
「おおぅ、あなたが新しい神子様でございますな。ご挨拶が遅れまして大変失礼しました。わしは大宮司の職を務めておる、大谷と申すものじゃ。まあ大宮司といっても形だけでな。実務は伸明が取り仕切っておるのでな。」
大宮司といえば、この神社で一番偉い人だ。昨日教えてもらった。
「昨日は、月に一度の禊を務めていたので、神子様が顕現されたときに留守になってしまいました。失態でしたな。」なるほど、だから昨日会わなかったのか。
「この年寄りに大宮司の大任は、いささか大変でしてな。やっと解放されそうです。今後も神子様のお世話は伸明が見させていただきますので、よろしくお願いします。」
「それでは」と言われて、大宮司が席に戻ると朝食が始まった。朝食はごはんとみそ汁に焼き魚と、まだ旅館モードが継続しており、おいしく頂いた。多分、素材が良いのだろうね。
朝食を取りながら今日の予定の説明が始まった。ドラマで見た、どこかの社長みたいだ。これからの日々の、午前中はお勉強の時間のようだ。勉強といっても国語や数学をする訳ではなく、この世界について覚えることと、術の特訓を行うのが、メインとなる。術の特訓は、今後もずっと続くようなので、厳しくなければ良いけど。体力は自信があるけど、座学は苦手なんだよね。
昼食は、城にいって徳井川家の一人娘である、櫻花姫と一緒に取るのが日課になる。神子の仕事は基本神事を執り行うことだが、徳井川家の姫様を守ることも使命とされているので、櫻花姫と過ごすことが多くなるようだ。これは姫様とは仲良くしないとだね。
姫様を守るという使命には、理由がある。魔物のトップである妖魔を倒すのはかなり難しいが、妖鬼については、定期的に倒されており、倒されることで、その土地の平和が保たれている。しかし、倒しても倒しても、暫くすると新たな妖鬼が生まれてくるので、厄介極まりない。
そこで、姫様の出番になる。姫様は15歳になると、火の国のそれぞれの領地を巡って、その領地の妖鬼を倒すことで、火の国の平和を維持するという役目を担っているのだ。その旅には、戦闘要員として手練れのものも同行するのだが、その同行者の筆頭を務めるのが神子の役目になっている。来年、姫様が十五歳になるので、神子である私の仕事として、まずは姫様が旅立つまでに、お供の者を探さなければいけない。今日から午後は、毎日同行者を探す仕事が待っている。
むっ無茶ぶりが過ぎる。昨日この世界に来たばかりなんですけど、それは関係ないのかな?
神子は退魔の旅が終わると、この神社に戻って大宮司を務めることが決まっている。大宮司は、この神社のトップとして、祭事を取り仕切る立場になる。現在の大宮司は、神子の補佐に着くようだ。
それって変更できないのかな?さすがに大宮司は大変そうだ。
とりあえず今日は、この後お城に挨拶に行くようだ。本日の予定は、午前中に姫様に挨拶をして、そのまま姫様と一緒に、昼食を取ることになっている。午後には、領主代行の嗣治様に挨拶を行ったら、城の中を案内してもらって、夕食はお城で取る段取りになっている。
ここは流れに乗ってみるしかなさそうだ。