三 魔物
イケメン武士は、意外と偉い人のようだ。さっきから徳井川家の人を呼び捨てにしていたので、そんな気がしていたのだが、領主の息子かぁ。イケメン武士(嗣家というらしいが、私の中ではイケメン武士と呼ぶことにした)は説明の続きを話し始めた。
この世界は、五つの大きな国があり、五ノ国時代と言われている。その五つの国の一つがこの火の国だ。
五つの国は、ここ数百年大きな戦争はなく、その点では泰平の時代とも言われている。もちろん小さい争いはあるのだが、国と国の争いまでには発展はしていない。火の国の中でも権力争いはあるものの、武力の衝突まで発展することはない。
それには理由がある。
この世界には妖獣といわれる魔物がいて、人を襲うのだ。妖獣自体はそれほど知識が高い訳ではないのだが、集団で襲ってくることがあるので、人々は身を守らなければいけない。そうはいっても、誰もが忍術を使えるわけではなく、武術を極めている人も少数しかいない。そこで村や町には、対妖獣組という自衛のための組織があり、妖獣を倒すための、魔物と戦うための武道を習得した人が在籍している。
さらに、妖獣たちは力が強くなってくると、知識をつけて妖鬼となり、人を襲うのも狡猾になってくる。妖鬼の数はさほど多くはないのだが、人の姿に変化することができ、人を騙して喰うと言われているので厄介だ。対妖獣組では対応が難しいので、徳井寺から退魔忍術を習得した僧を、火の国の各地に派遣している。
なるほど、だから徳井寺があるのか。
もっと厄介な魔物として、知性を持った妖魔という魔物がいる。妖魔は、人と戦っている妖鬼や妖獣の親分みたいなもので、忍術使いや妖術使い、退魔武道士が束になっても、そうそう勝てない強さを持っている。火の国では各領土に妖魔がいるようだが、それは、領土を決めた理由が妖魔基準だからで、妖魔は敵でもあり守り神でもあるということだ。
世界中が同じような状態なので、とてもじゃないが人同士で争っている場合ではない、ということで戦争が起きない。平和ってことではなさそうなので少し残念だったが、魔物が出てくると何となく異世界感が出てきてワクワクするよね。
実際に魔物にあったら、ワクワクじゃあ済まないと思うけど。
徳井川領からは、妖獣から人々を守るため、各領土に対妖魔組を派遣している。要は火の国の治安を担っている武装集団が徳井川領である。対妖魔組は対妖魔の修行を積んだ僧が主体だ。領主が中央領に行っているのも、火の国全体の治安を管理するためだということで、なんで領主が不在なのかも理解した。
話を聞いているうちに、空がオレンジ色になってきた。高台から見る夕焼けは絶景だった。
「神子様、本日はいろいろとあって大変だったでしょう。本日はこの辺りまでとして、夕餉を準備させていただいておりますので、食事といたしましょう。本来であれば宴としたいところですが、準備をするには少々お時間がかかってしまいまする。急ごしらえで粗末なものしかなく、お口に合わないかもしれませんが勘弁くだされ。」
ちょうどお腹がしてきていたのでラッキー。ありがたく頂きましょう。
「この神社に、寝所もご用意させていただきましたので、本日は、どうぞごゆるりとお過ごしください。失礼ながら、拙者はここで失礼させていただく。明日は拙者の愚弟 嗣基を寄こします。それまでどうかゆっくりとお考えをまとめて頂きたい。」
それでは失礼といって、イケメン武士はあっさり去っていった。
入れ替わるように少し離れたところにいたイケオジ率いる祈祷師3人衆が近づいてきた。
「神子様、ご挨拶が遅れました。私はこの徳井神社で祈祷師を束ねておる神主を務めさせて頂いている伸明と申します。本日より、この神社にお住まい頂きたく存じます。歴代の神子様も、この神社を寝所として頂いてきました。少し寒くなってまいりました。どうぞ食事や寝所がございます社務所へご案内いたします。」
食事と寝床の心配はいらないようなので、一安心である。