二十五 初めての旅
次の日の朝は、この世界に来て初めてユキに起こされた。
「神子様、おはようございます、朝でございます。」
朝は苦手なのだが昨日は早く寝たので、なんとか起きることができた。こっちの世界に来てから、早寝早起きの健康的な生活リズムになっている。いつもギリギリまで寝ていたのが信じられない。
「本日は宜しくお願いいたします。日の出と同時に町を出ますのでご用意をお願いします。」
ユキも一緒の時間に寝たはずだけど、既に出発の準備が出来ている。昨日は一緒に風呂に入って寝るのも同じぐらいで・・・ちゃんと寝てるの?
急いで準備をして神社を出るときには、大宮司、イケオジ神主と多くの神職、巫女が見送ってくれた。荷物は既に馬車に積み込まれているので、手に持っているのは小さな手提げ袋だけだ。
「いってらっしゃいませ、神子様。ご武運をお祈りしております。」と挨拶してくれる。別に戦にいく訳ではないんだけどね。まあ妖獣に会う可能性があるので、ご武運で良いのか。
大勢の見送りは、ちょっと気恥ずかしいけど、なんか嬉しいね。
外に出ると夜だけどかなり明るい。そういえば一晩中明るいのだった。神社を降りる階段からみる町の夜景もすごく綺麗だ。遊廓のあたりは、赤やピンクの灯りが灯っていて、ひと際鮮やかなのが分かる。さすがに日中の賑やかさはないが、まだ日が昇る前なのに、それなりに人通りがある。みんな早起きだなぁ。寝てないのかも知れないけど。
駅につくと、既にさくら、キョウ、嗣基くんと蘭ちゃんが待っていた。さくらは修学旅行前のテンションで「楽しみ~」と満面の笑みを浮かべている。「姫様、落ち着きましょう。」といっている蘭ちゃんも、なんだか楽しそうな表情をしている。町を出たことは何回かあるようだけど、少人数で自由に行動できる旅は始めてのようなので、きっちり温泉にも入る準備もしている。
気持ちはわかる。私とユキもさくらのテンションに乗っかった。旅は楽しい方が良いもんね。女の子3人パワーを思い知らせてやるぜ・・・誰にって話だけど。
ワイワイ、キャンキャン言いながらゴンドラを降りたら、麓の駅前には昨日みた旅用の馬車が用意されていた。馬が二頭ついているので、昨日より馬車っぽい。まあ馬車だからね。
御者の所には、山の坊が座っていた。もう一つの場所にはキョウが座って、嗣基くんは馬で先行するようだ。私達3人は2階に登って最前列に座って準備万端、蘭ちゃんも誘ったが、真っ赤になって「ご遠慮します。」といって、御者のキョウのところに移動した。男の子が聞くとドキッとするような際どいガールズトークもするし、さくらが直ぐに蘭ちゃんを弄るから、逃げたね。かわいいね。
「姫様、神子様、それでは出発いたします。」いよいよだぁ、ワクワクするね。
町を出るタイミングで日が昇って来た。計算通りなのだろうけど、雲一つない晴天で、周りの木々に太陽の反射してすごい綺麗だ。さくらとユキも感動している。
川沿いに南洲街道という大通りがあり、このまましばらく川沿いを下っていくようだ。この街道は海沿いにある港町まで、ちゃんと整備されているようだ。街道の横幅は、馬車が4台ぐらい並んで走れるぐらいに広くて、路面は石畳となっている。馬車に乗っていると揺れはあるのだが、大きな凹凸がない路面になっているので、十分快適だ。この通り沿いには一定間隔で灯篭が立っており、まだ灯りを灯している。
まだ日が昇って直ぐだというのに、馬車や台車を引いている人、徒歩で歩いてる人と、時間がたつと共に増えてきている。この南洲街道は、町ほど強固ではないものの結界に守られているので、日が出ている間はある程度安全な道になっているので、晴れた日にはそれなりの人通りがあるらしい。移動は日中にするのが基本なので、遠出をする人や商人などは、朝早く出発するようだ。
日中は結界の確認と妖獣に備えて、対妖獣組が巡回警護をしているので、大通り沿いは安心感がある。
しばらく川沿いを進んでいくと、一つの目の集落に着いた。小さな集落だが集落の中心に着くと、街道が円形に広がり、その円沿いに馬車などを止めて休憩できるような広場になっている。円形の広場の中心には時計が設置されているので、今が朝の牛の刻(7時)前という事が確認できる。円の外周には、馬車を止めるところ以外に食事処や農産物を売っている商店、トイレなどが並んでいる。馬が食事する場所などもあるので、パーキングエリアみたいな感じのようだ。
その一つにひと際大きな建物があり、そこには何人かの護衛がついている。聞いてみると、この集落をまとめている建屋で集会場と呼ばれており、対妖獣組の駐屯地にもなっているみたいだ。市役所と警察を合わせたような感じかな?
「もう少し先の集落で朝食としましょう。」ここでは休憩しないようだ。残念。
「えぇ~、どれか判んない。桃ちゃんは顔に出るけど、ユキちゃんは出ないからなぁ。」
馬車の2階はトランプでババ抜きが始まった。旅の定番だね。
こちらの世界にトランプがあったのは驚いた。一から十までは数字が書いてあって、ジャックは士、クイーンは妃、キングは主になっていた。ジョーカーは鬼かと思ったけど、道化師となっている。スペード、ハート、ダイヤ、クローバーの形は同じだが、呼び方が、刀、心、宝石、三つ葉になっていた。材質は紙で出来ていて、大きさは花札やかるたぐらいかな。頑張って薄く作ったのだろうけど、私が知ってるトランプはプラスチック製だから、少し厚く感じる。子供向け雑誌のおまけトランプみたい。
私とさくらが一番前の席の両サイド、ユキが二列目の中央に座ってババ抜きの対戦中だ。ユキはポーカーフェイスでさっぱり分からないけど、取ったカードを右側におく癖があるので、それほど強くない。さくらは気がついてないみたいだけどね。
最初の集落から、二つぐらい集落を通りすぎたところにある少し大きな町の広場で止まった。時計を見ると羊の刻(8時)を少し過ぎた時間になっていた。
「櫻花姫、神子様、ユキ殿、休憩と朝餉としましょう。」やったー、少し動いてはいたけど、座ってる時間が長いと体が固まっちゃう。馬の事を考えたら、定期的な休憩が必要になるのだが、乗っている人も休憩があるのはありがたいよね。
私は馬車を降りて、思いっきり伸びをする。さくらやユキ、キョウや蘭ちゃんも同じように伸びをしている。山さんは馬車から馬を切り離して、馬が食事ができる馬房に連れていっている。働き者だね。
駐屯地から対妖魔組のリーダーらしき人が、数名護衛を引き連れて馬車の所に走ってきた。
「櫻花姫さま、神子様、ようこそいらっしゃいました。」と挨拶をしてくれたが、「こちらで朝餉としましょう。」と先行していた嗣基くんが店の前で呼んでいるので、挨拶は簡単にしてお店に向かった。でも、まずはその前にトイレっと。
「お供致します。」という対妖魔組の皆さんと一緒に嗣基くんに案内されたお店に向かうと、そのお店はフードコートの様なつくりになっていて、中央に多くの机と椅子が並んでいる食事スペースと、奥にある3軒の食事を提供する店が入っている造りになっていた。食事を提供する店は蕎麦屋、定食屋、煮物屋だ。さくらとユキは、このような造りの所に来るのは初めてのようで、少し楽しそうだ。まずはどんなメニューがあるのかを、みんなで見てまわることにした。
まず蕎麦屋は、何ものっていない蕎麦が基本で、上にトッピングする形になっている。トッピングは、野菜のかき揚げ、きのこを煮たもの、とろろ、生卵の4種類、どれもおいしそうだ。定食屋は時間でメニューが変わるようで、いまの時間は、焼き魚定食と卵焼き定食の2種類になっている。煮物屋は、おでんだね。卵とこんにゃく、大根とはんぺんがあるようだ。
私とさくらは焼き魚定食にした。今日の焼き魚はサケだ。ユキは卵焼き定食をチョイス、男衆はみんな蕎麦を頼んでいる。山の坊はいないが、ちゃんと食事はしているので心配なさらずにと言われている。対妖魔組はリーダーの人だけ店に入った来ており、他のメンバーは外で待機している。こちらも既に食事は済ませているので、お気になさらずにと言われている。お盆に食事を乗せて、食事処に向かう。食事処は2~3割ぐらい埋まっている感じかな。空いてる場所に座って食事を始める。うん、おいしい。
食事が終わって外を出ると、まだ馬車の準備中だったので、私とさくらとユキ、蘭ちゃんは、円形の歩道をぶらぶらと一周してみることにした。キョウと嗣基くんは対妖魔組のリーダーと話をしている。妖獣の出現状況などの情報収集をしているようだ。お願いします。
この町の広場には宿屋が2軒もあるので、主要な町なんだろうと思う。宿屋の店先では、串焼きや饅頭などを売っているので、見ているだけでも観光気分で楽しい。民芸品を売っている店や小さな提灯を売っている店もあるので、本当に観光地のようだ。食事が終わった直ぐだけど、途中で食べるように饅頭を買っておくことにした。
ちょうど一周したところで、馬車の準備が出来たので、出発だ。
「少し先の町で一度休憩しましたら、その先の脇道より山に入ります。山に入りますと、妖獣が襲ってくることもございますので、お休みになるなら次の休憩までにお願い致します。」
どうも、旅行気分は次の休憩までみたいだ。朝早かったし、少し寝ようかな。




