二十一 城下町に
「やったー、”ごんどら”だぁー」
テンション上がっちゃうよね。遊園地のアトラクションみたいだしね。
”ごんどら”は乗ってみると、思った以上に快適だった。上から見たら、そこそこ早く移動していると思ったのだが、中にいるとスピードも早く感じず、窓の外の景色がゆっくりと変わっていっている。今は紅葉の季節なので、鮮やかに色付いている木々が、やさしく目に飛び込んだ来る感じがする.
他の乗客は世間話をしながら、ゆったりと景色を楽しんでいたのだが、私一人だけキャッキャ言って、喜んでいた。だって、窓からの景色も壮大で紅葉も素敵だったけど、何より窓から顔を出すと、風が気持ちいい。物知り蘭ちゃんに、ガイドしてもらいながら乗っていると、完全に観光気分になっちゃうよね。ね!
ゴンドラの仕組みも気になったのだけど、今日は観光気分を楽しむことにした。さくらは初めての”ごんどら”ではないけど、私に合わせてキャッキャッしてくれている。キョウは保護者ポジションで、温かく見守ってくれている感じだ。
「あっ姫様だ。」という声も聞こえたが、あちらこちらで、「キャー、キョウ様よ。」という黄色い声が聞こえてくる。若い女の子以外でも、年配の女性からも、「キョウ様よ。」と大人気だ。まあ人気者になるよね。中世的な美男子で、物腰も柔らかだしね。これは、どこかにファンクラブがある気がする。
体感で30分ぐらい”ごんどら”に乗っていたら、麓に着いた。麓の駅で”ごんどら”を降りると、上と同じ感じのホームになっていて、その先の建屋を抜けると、町の入り口だった。車や電車は走ってないけれど、大小多くの馬車が行きかっていて、人も多く歩いているので、賑わっている感じ。走っている馬車の中には、馬が付いていない馬車も走っており、聞くと”ごんどら”と同じ仕組みで、術によって動いているらしい。見た目は馬車だが、実質自動車かな。馬もいないしね。かなりエコな感じがするよね。
駅の周りの建屋から受ける印象は、江戸時代というより、明治、大正の雰囲気を感じる。木造の建物もあるのだが、レンガ造りの建屋も多く、いい感じで和と洋が混在している。歩いている人を見ても、和装と洋装が混在していて、大正浪漫って雰囲気で、華やかな感じ。いい感じだね。
建屋の前は、円形の広場になっていて、正面と左右斜め方向に大通りがある。道路は、神佛横断道と同じような石畳で出来ている。細い路地もちゃんと石畳だ。日本家屋が無かったら、映画でみたヨーロッパの街並みと言われても、納得しそうだ。街灯のようなものが一定間隔で立っているが、これも術で光らせるようだ。
さくらの服装は、思った以上に町の雰囲気に溶け込んでいるし、姫様だからといって、特別な扱いを受けている訳ではない。姫様目当てで人が集まるということも無いので、自由に行動は出来そうだけど、さすがに姫様、さくらの事は知っている人は沢山いるようだ。「さくら姫様、こんにちは。」と、あちらこちらで声を掛けられている。さくらもニコニコしながら「こんにちは。」と挨拶していて、町でも愛されているのが分かる。櫻花姫ではなく、さくら姫と呼ばれているしね。
さくらだけではなく、キョウも人気者なので、注目をされている気がする。あまり経験がないのだが、芸能人ってこんな感じで注目を浴びているのだろうかな。ちょっとむず痒い感じで、カッコつけたくなる。
「さくらもキョウさんも人気者だから、注目を浴びてるよね。お二人は慣れてるから気にならないかも知れないけど、緊張しちゃうね。」っていうと、さくらから、「私達というか、桃ちゃんを見てるんだと思うけどね。」って言われた。そういえば、私の格好は巫女服、このメンバーで一番目立っている。なるほど。
歩きで町を散策するのかと思っていたのだが、馬車が用意されていた。そりゃそうか、姫様だものね。ちゃんと馬が引いている馬車で、馬もかなり立派だ。この馬は、退魔の旅でも馬車を引く予定の馬で、徳井川家の中でも、トップクラスらしい。非常に力強い感じがする。御者は山の坊の部下で、護衛の一人のようだ。
町の散策は馬車で移動しながら、所々で止まって見学してまわるようだ。これは、修学旅行みたいだね。
「どちらをご覧になりたいですか?」御者の方に聞かれたが、何があるのか分からないので、難しい質問だ。この町は、南洲の中心街になっているのだが、特に観光地がある訳ではなさそうだ。とりあえず思いつくところで、商店や食事処などが集まる繁華街、商業施設や学校、この町に二つある大きな市場などを見てまわることにした。最初に市場に行ったが、魚市場と野菜・肉の市場で、思った以上に多彩な食材が流通しているので、見てるだけでも楽しい。
その後に行った繁華街で、休憩がてら寄った茶屋は、和風カフェという感じで、店内はお洒落な雰囲気が漂っていた。とはいえ、この世界では、このスタイルが一般的で、洋風カフェの方が珍しいみたい。メニューをみると、何種類かのケーキと紅茶がメインだったので、小さめのロールケーキとアイスティーを頼んで、一服である。当然、さくらも一緒に頼んだんだけど、ちゃっかりキョウも蘭ちゃんも頼んでいるところが、抜け目がないね。
この茶屋の前は四角い広場になっていて、その中心に4方向から見える時計があった。どのような仕組みかは知らないのだが、4方向の時計は同じ時刻を刻んでいる。今は、卯を指しているから夕方の4時ぐらい。もう少しで夕暮れだ。
ケーキを食べ終えて、お茶を飲みながら何気なく外を眺めていたら、広場の先で人だかりが出来ていた。
「あれは何ですか?」と聞いたのだが、誰も分からなかった。すこし?マークを浮かべていたのだが、席の近くを通っていた茶屋の店員さんが、「あれは、花魁道中だと思いますよ。」教えてくれた。花魁道中、聞いたことがある。
詳しいことは、キョウが説明してくれた。さすがに花魁の説明は蘭ちゃんには早いようだ。
「この先に遊廓と呼ばれる場所があってね。そこには、いくつかの妓楼という男の人を対象にした、夜のお店があるんだよ。」その妓楼には、各々遊女という男の相手をする女性が何名か勤めていて、その中で一番人気の遊女が花魁と呼ばれるということだった。この遊廓には、大小20軒の妓楼があるので、20人の花魁がいることになる。中でも上級妓楼と呼ばれている3軒の妓楼には、花魁の上に大夫と呼ばれる最上級の遊女がいるみたいだ。
3名の大夫と呼ばれる遊女と20人の花魁は、店で客を取ることはない。この町に何件かある料亭に呼ばれて、そこで客を取るのが、遊廓の仕組みである。この時に、店から料亭までの移動することを、花魁道中と呼ばれている。大夫が行っても花魁道中っていうみたいだ。
花魁道中は店の宣伝も兼ねているので、派手に着飾った花魁の他に、禿と呼ばれる7歳から12歳ぐらいの女の子や、新造と呼ばれる13歳から16歳の女の子が、花魁の妹分として一緒に移動するので、一種のイベントになっている。華やかな見世物になっていて、見物人が大勢押し寄せるということだ。
キョウの説明を聞いているうちに、さっきまであった人込みがなくなったので、花魁道中は終わったようだ。でも、すごく興味があるので、遊廓を見てみたいと言ってみたが、予想通りキョウと蘭ちゃんはいい顔をしなかった。さくらは、目で「桃ちゃん、頑張れ。」って押してくるのだが、なかなか難しい感じだ。
そこで、援軍になりそうな茶屋の店員に話を聞いてみると、「大夫や花魁はもちろん、遊女の方は流行の最先端ですので、髪型や化粧、身に着ける小物など、流行に敏感な女性が沢山遊廓に行かれていますよ。夜になると男性の方が多いですが、明るい時間であれば、問題ないと思います。」という、ナイスなコメントが出てきた。何とかその他の予定はキャンセルして、少しの時間だけということで、遊廓に行けることになった。私、頑張った・・・




