一 新しい世界
台の上で目覚めて薄っすら目を開けて見えた部屋の雰囲気は、一言で言えば神社、朱色の柱が何本か立っていて、台の四隅にも4本の朱色の柱が立っている。良く神社で見かける藁の紐みたいなものが柱と柱を繋いでいて、所々に雷の形に切られた白い紙がついていた。
背中に触れている台が硬くて冷たい感じがしたので、頭を少し動かして台を見てみると、台は石で出来ていて私が乗っている上面はピカピカに磨かれて輝いていた。
「おおぅ、神子様が顕現されましたぞ」
声がする方をいると、驚きとも喜びともとれる表情で私を見ている三人の人が見えた。
どうも私の方を見ながら祈祷の様なことをしていたらしい。映画やテレビで見たことがある祈祷師みたいな恰好なのだが、真ん中の一人は上下白の羽織袴をきていて、他の二人は白い羽織に紫色の袴をはいている。
中央の人はイケオジ感満載で貫録があり、他の二人は少し下がった位置にいるので、中央のイケオジが一番偉いであろうことの察しがついた。
私はあまりのことに逆に冷静になっていたのだが、一方ではパニックになっている自分がいた。
一言で言うと、「どういうこと?」って感じ。
ここが病院ではないことは分かったけど、今がどういう状況下なのかさっぱり分からない。さっき私が寝ている台を見たときは、「生贄?」これはやばいと思ったけど、落ち着いて周りの反応や、私の事を「神子様」といっているのを考えると、生贄ではないようだ。
まだまだ頭の中で処理できない状態だったが、さっきの三人のイケオジ集団が私が目を覚ましたことに気がついているし、いつまでも寝ていても状況が変わりそうもないので、少し重い頭を右手で押さえながら上半身を起こして、足を台から降ろしたのだが、そのタイミングで自分が学校の制服のままであることに気がついた。
「えっ もしかしたら壮大なドッキリ?」とも思ったが、祈っていたイケオジ集団の後ろから、これまた時代劇に出てくる武士の格好をした、二十代ぐらいのイケメン男子が表れた。状況の説明を始めてくれるらしい。たすかる。
「神子様、今の状況について拙者に説明させて頂きたい。」
まだ頭の整理がついていない私は、条件反射で「はい」と答えていた。
その様子をみたイケメン武士は少し安堵した表情になって、とんでもないことを言い出した。
「神子様、わが領土では代々ご祈祷によって神子様を神の使いとして神の国より授かってまいりました。そして顕現された代々の神子様には、我が領土をお守り頂いております。
しかし残念ながら、先代の神子様は五年前に神の国へおかえりになられました。そこで、新たな神子様を授かれるようにと、この場所で毎日祈祷を行ってきたのです。拙者どもは代々そのようにして神子様をお迎えしてまりました。そして神の国は、やっと新たな神子様を使わしてくれたのです。」
「神子様には、まだご理解頂けてないかと思います。今までの神子様も最初は戸惑っておられたと聞き及んでいます。中には幾日も泣かれて過ごされた神子様もおられたようです。
大変失礼なことを申しますが、新たな神子様は、すでにこの状況を理解されようと努力されているようにお見受けしました。よろしければ、まずはこの国の状況を説明をさせて頂けないでしょうか?」
勢いにのまれてコクンと頷くと、イケメン武士が続けて喋りだした。
「この屋代を出た先には、街を一望できる高台がございます。その場所で詳しくお話しさせて頂けると幸甚でございます。
神子様には現状をご理解頂くには時間がかかるやもしれません。ゆっくりでも結構ですので考えを整理しながら理解して頂ければと願っております。」
私の素直な感想は、「このイケメン、よく喋るなぁ」だったが、同時に「この状況はきっとタイムリープしたのかな」という事を考えていた。残念ながら、吉住桃花のJK人生が終わってしまったようだ。
屋代から出て振り返ると、いままでいた屋代は想像した通り神社の雰囲気がある建屋だった。歩いていく方向を見ると、屋代の前は日本庭園が広がっており、その庭の中心には大きな池があった。その池を取り囲むように何本かの松が生えており、その先が松林になっている。池の縁に沿って松林を間を抜けるように石畳が続いていて、そこを歩いていくようだ。
イケメン武士は、時々私を確認するために振り返りながら石畳を進んでいく。私はイケメン武士が振り向くたびにドキッとしながらの後ろをついていくと、突然視界が広がって、さっき聞いた通り街が見渡せる高台に出てきた。
そして、ここに来るまでの間に、今回は単純なタイムリープでないことにも気が付いてしまった。
この庭には松以外の木もいくつかあって、色鮮やかに赤や黄色の色彩で「これぞ紅葉」という風景が広がっている場所があるのだが、その紅葉の下には非常に多くの枯れ葉が庭を覆っている。その枯れ葉は枯れ葉できれいなのだが、ほっておくと大変なのだろう。何人かの巫女服をきた女の子が一生懸命枯れ葉を集めていた。
その光景を歩きながらぼおっと見ていたのだが、巫女服を着た女の子が集めた枯れ葉に向かった箒をぐるんと回した瞬間に、枯れ葉に火が付いたのが見えた。
少しびっくりしたので、立ち止まって前を歩くイケメン武士に聞いてみた。
「す すみません。あれは何ですか?」
「あれとは?」
「あそこの女の子が枯葉に火をつけていたのですが、箒で火をつけていたような・・・」
「ああ それは”術”というものです。」
「じゅつ?」
詳しく聞くと、この世界では”術”という魔法のようなものがあるらしい。殆ど人が火をつけたり水を出したりする”術”が使えるようだ。”術”にはいくつか種類があって、生活に使えるレベルのものを、ただの”術”というらしい。火、土、水、風、植物の力を利用するのだそうだ。
その一般的な”術”以外では、攻撃に特化した”忍術”、魔物を呼び出す”妖術”などがある。忍術や妖術は誰でも使えるものではなく、特定の人しか使えないらしい。
「先代の神子様は”術”のことを魔法とお呼びになっていました。」
なるほど、私の感覚でもあれは魔法だ。
「神子様であれば、”神術”がお使いになれるかと思います。」
と言われたので、どうすれば使えるのかを聞いてみたが、やはりそれなりの修行が必要らしい・・・残念。神術は攻撃も防御もできる万能型の術で、雷の力を操る術のようなので、ぜひ使えるようになりたい。
すでにこの世界を受け入れている自分がいる。う~んポジティブ。