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十八 お茶目な大僧正

 社務所に戻って少し汗を拭うと、大宮司と神主たちと別れて、さくらと昼食を取るために、一旦城に向かった。徳井寺への挨拶は、さくらとキョウが同行してくれる。当然、蘭ちゃんもだけどね。昨日の事があったので、城に行くのが少しハズイのだけど、城の人達は何事もなかったように、「神子様、こんにちは。」と挨拶をしてくれる。みんな、優しいね。


 昼食時に優しくなかったのは、さくらだった。修行場から城までは、たわいのない話をしてたのだが、さくらの部屋で二人きりで昼食になった瞬間、嵐の様な質問攻めが始まった。私と先代との共通点が、いくつかあったのもあるのだが、やはり雷の術のポーズが同じだったことが気になるようで、先代と私が、姉妹だと思っている。


 二人きりだったので、さくらにだけは理由をちゃんと話すことにした。どこから話してよいか分からなかったけど、前世でテレビという物があり、テレビでは色々な番組があったこと。その番組の中に、アニメという動く漫画が放送されていたことを、身振り手振りで一生懸命説明してみた。電気も電波もテレビもない世界で、アニメの説明は大変だったけど、こっちの世界でも、漫画や映画があるようなので、何とか伝わったようだ。この世界に映画あるんだ!


 さくらは、ずっと目をキラキラさせて聞いてくれて、「桃ちゃんのいた世界も、面白そうだね。」っていったくれた。話を信じてくれたようだ。話してよかった。でも今の私は、こっちの世界にドキドキしているけどね。


 昼食後は、ニコニコ顔のさくらと、そのさくらを不思議な表情でみている蘭ちゃんと、なんか納得した感じのキョウの3人で徳井寺に向かった。蘭ちゃんは先代の神子の事を知らないので、さくらやキョウに質問してくる。その時だけは質問攻めから逃げることが出来るので、グッジョブである。


 「姫様の表情で分かったよ。雷の術の秘密を聞いたんだね。僕も知りたいところだけど、今は遠慮しておこうかな。そのうち教えてもらうよ。」キョウは立場を良く分かっている。二人きりの時にしか話をしていないということは、私はまだ、さくらしか信用していないと思われても仕方がない。キョウや蘭ちゃんを、信頼していない訳ではないのだけど、まだ分からないところが多いからなぁ。自分から言ってくれたので助かる。


 神佛横断道を歩いて、徳井寺の真下まで来た。ここから寺を見上げると、左右に曲がりくねった道が。寺まで続いているのが見える。所々で階段があるのも、確認できた。寺には神仏横断道の右側から入っていく階段があり、森の中を進んでいく感じだ。知ってる、これはつづら折りってやつだね。


 山道に入って2回目の折り返しには、この寺で修業をしているであろう武道士が立っていた。なぜ武道士だと分かったかというと、武道着を着て、いかにも修行僧であるという格好をしていたからだ。180センチ以上はあるかと思われる武道士で、背より長い棒を持っている。棒術を使うようだ。


 「姫様、神子様、ようこそいらっしゃいました。徳井寺にて大僧正 天空様がお待ちしております。この折り返しを含め、あと4回折り返して頂ければ、寺の入り口の山門につきます。その先に徳井寺がございますので、頑張って下さい。」折り返しの度に案内をしてくれるようだ。なるほど、目標があれば頑張れるからね。


 とはいっても、この山道はきついね。私は陸上部だったので何とかなってるけど、キョウはともかく、さくらと蘭ちゃんは大丈夫かなって思ってしまった。しかし、途中で何回か二人をみていたが、全然平気な顔をしている。キョウは少し笑みを浮かべながら飄々としているし、さくらはいつものニコニコ顔で、蘭ちゃんも通常運転だ。考えてみると、この世界は歩きが基本、馬車とかゴンドラをあるのだが、元の世界と比べて圧倒的に歩いている。食事も含めて、健康的な世界だということに気が付いた。


 暫く歩いていくと、また折り返しに武道士が立っていた。


 「姫様、神子様、あと3回折り返すと山門でございます。」

 あれ?なんか既視感がある。さっきの武道士と瓜二つのような気がする。後ろを振り返ってみたが、先の折り返しは見えないので、確認できない。

 「あなたは、先程の武道士に似ていると思うのですが、ご兄弟ですか?」

 「何の話でしょうか?」


 さくらを見ると目を逸らされた。キョウと蘭ちゃんは、最初から違う方向を見ている。これは何かあるなって思ったけど、特に突っ込むのはやめて、流れに任せてみることにしてみますか。念のため、瞬間移動をする術や分身の術があるのかを聞いてみると、妖魔の中には瞬間移動や分身をする術を操るのもいるようだが、妖魔以外の魔物や人間が使う術には、瞬間移動や分身の術はないみたいだ。瞬間移動の術があるのなら、わざわざ歩いて寺には向かわないと言われて、納得である。となると・・・なるほどね。


 その後も山門までの折り返しには、必ず武道士が立っており、みんなおんなじ顔だった。途中からカラクリが分かった気がするので、楽しくなってきた。さくらとキョウは、私が謎を解いたことに気が付いたようだったけど、特に話題には挙げなかった。武道士に、ニコッと「こんにちは」と挨拶する余裕も出てきた。


 山門を抜けた寺の入り口には、やはり同じ顔の武道士が立っており、「姫様、神子様、ようこそいらっしゃいました。ご案内させていただきます。」と挨拶をしてくれた。しかし、本当に似ている。


 寺に入ると、左右に仏像があった。修学旅行で行った寺で見た覚えがある、風神と雷神のようだ。でも、修学旅行では友達と話をしていて、良くは見てないんだよね。今は神術を与えてくれる、私にとって大切な神様だ。心の中で、「かっけぇ」とヨイショしておこう。


 通された部屋の先には、仏像が鎮座していた。アニメでみた阿修羅像のようだ。手が6本あるし。たしか阿修羅は、武勇の神だったと記憶があるので、やはりここは、武闘派の寺院なんだろう。その像の前にロープを編み込んだような座布団があり、そこに、坊主頭で白い髭を蓄えた老人が、禅を組んでいた。


 「天空大僧正、ご無沙汰しております。」

 「久しいのう、櫻花姫。ますます美しくなられて、この年寄りも元気をもらえますな。」

 「なにをおっしゃりますか。大僧正は会う度に同じことを仰っています。」

 「そうだったかのう。ところで、そちらが新しい神子殿ですかな?」

 「大僧正、ご紹介します。こちらが新しい神子、桃花殿です。」


 ここでも、挨拶する前に話を進めてくれる。ありがたいね。

 「桃花と申します。よろしくお願いします。」

 「わしは天海じゃ。よろしくたのむ。そちが顕現した話は聞いておる。どうか姫様の力になってやってくれ。」

 「頑張らせて頂きます。」


 さくらは、どこに行っても愛されているね。私も、昨日会ったばかりだけど、すでに大好きになっている。これも一種の才能だと思う。私は、人見知りとは言わないけど、初めての人に会うときは緊張はする。でも、さくらがいると、安心するだよね。コミュ力が高い。


 挨拶をしている途中で、一人の武道士が大僧正の隣まで歩いてきた。さっきの同じ顔の武道士だ。無意識に私はニヤッとしたようで、さくらに気づかれた。

 「大僧正、いつもの悪戯は、神子様には通じなかったようですよ。」

 「さて、どういうことかな?」なるほど、悪戯ね。

 「それは、神子様が説明するようですよ。」


 いつもの無茶ぶりだきた。まあ、ここは名探偵になった気で、推理の結果を話してみようかな。間違ったらハズイけど、この流れではしかたない。記憶の中のレパートリーに何人かの名探偵がいるので、真似しようかと思ったが、私の知っている名探偵の殆どが、生意気な話し方をするので、ここは私なりに説明してみることにした。


 「大僧正様、そちらの僧は双子でございますね。」

 「ほう、なぜ双子だと思うのかね。」

 「この寺に来るまでの間に、そちらの僧と同じ顔の方に5回お会いしました。聞くと、術で瞬間に移動することや分身で複数の人間なることは、できないとのこと。空を飛んでいる様子もなかったので、最初は五つ子かと思いました。しかし、この世界でそこまでの多くの子を、同時に授かるのは少ないのではと考え、その場合はどうすれば、5回も同じ顔の人に会えるのかを、考え直してみたのです。」


 大僧正は、うっすらと笑みを浮かべながら、「なるほど、それで。」と先を促してくる。

 「まず、1人で出来るのかを考えてみました。その場合、私たちが折り返しから、次の折り返しに向かったいる間に、私たちに気づかれないように追い越したことになります。修行を積んだ武道士であれば出来るのではと思いましたが、途中で気が付いて前後気にしながら進んでいました。同時に二人をみることはできませんでしたが、前の折り返しにいた武道士が見えなくなって、次の武道士が見えるまで、それほど時間はかかっていません。さすがに、その短時間で移動するのは無理だと考えました。」


 さくらは、いつものスマイルで見てくる。なんか子供の発表は聞いている母親の表情だ。幼い感じがするが、この表情も持っているところが、すごいと思う。


 「1人以上で最小人数は何名必要かを考えた時に、二人なら出来るのではと考えました。つまりそこで、双子ではないかと推理したわけです。2人で5回お会いするには、どのようにすれば良いのかは、すぐ解りました。折り返しには、縦に繋がる道があるのですね。いや、そちらの僧は、かなり鍛えられているようにお見受けしました。道なき道を移動されたのかも知れません。いづれにせよ、双子の僧の方に交互にお会いしてたのではと、思っております。」


 大僧正は、悪戯が見つかった子供の様な表情を見せながら、「なるほど、今度の神子様は、なかなか頭が切れる。」と、ご機嫌である。本当にいたずらっ子の様な人のようだ。


 「神子様、お察しの通り、この僧は双子だ。山の坊、川の坊、こちらに来て神子様に挨拶をしなさい。」

 大僧正が声をかけると、奥の方から立っている僧と瓜二つの僧が現れた。並んで見比べてみても、本当にそっくりだ。

 「神子様、先程は失礼しました。この徳井寺にて武道の修行を行っております、武道士の山の坊と申します。以後お見知りおきを。」

 「山の坊の弟で、川の坊と申します。神子様の仰る通り、我々は双子でございます。騙すようなことをして、大変失礼しました。」

 声もそっくり。年は40ぐらいだと思う。双子でも年を取ると少し違いが出ると思うけど、見た目も声も仕草もそっくりだ。これは分からない。


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