十七 神術
私たちが、ワイのワイの話をしている一方で、大宮司と祈祷師たちは何やら話し合いをしていた。かなり真剣な感じで話をしていたのだが、やっと終わったらしく、代表する形で大宮司から声がかかった。
「さすが神子様でございます。この短時間で、術を会得できるとは驚きました。神子様には、術に対する優れた特性を持っていらっしゃるようですな。感服しましたぞ。神子様の特性を踏まえて、伸明と今後の神子様の修行の方向性について話をさせて頂きました。私としては、基礎的な術特性を研鑽頂くのが宜しいかと考えましたが、伸明は、神子様には身を守る忍術を覚えて頂くのが良いとの考えです。忍術の習得は、普通はそれなりに時間がかかりますのですが、伸明は、神子様であれば出来ると主張しております。」
大宮司は慎重派、イケメン神主はイケイケだね。
「神子様は、術に対して高い適応性を要しておられるとお見受けしました。私は、神子様であれば、忍術というより神術も習得できるのではと、考えております。」
誉められて悪い気がしない。もっと褒めても良いのだぞ。でも大体調子に乗っていると、失敗するのだけどね。
「大宮司様とも相談をさせて頂き、次は予定通り水の術に挑戦して頂きます。そして水の術が成功しましたら、神術に挑戦して頂くことにしました。神術の習得には時間がかかる可能性がございますが、気長に修行を続けて参りましょう。それでは神子様、次はあちらの滝の方へ」
よし、やってやろうじゃないか。
水の術の修行は、火の術の蝋燭の代わりに、滝の水を見ることだった。特に、滝壺に水が落ちるする様子をイメージして、想像の中で水を固まりして、それを放出する練習だった。水を塊って何よって思ったのだが、先の火の術の練習でコツが分かったので、今回は3回目で水の放出が成功して、さっき火をつけた焚き木の、消火が出来てしまった。
「驚きました。こんな短時間で水の術も使えるようになるとは。」
拍手をしながら、イケメン神主が驚いた表情で近づいてきた。大宮司と2人の神主は驚いた表情で、何か話をしている。さくら、蘭ちゃん、キョウは、「みーこ!みーこ!」とコールが始まっていた。そこまでされると、少し恥ずかしい。
「私の予想を遥かに上回る短時間で水の術を成功されましたね。さすがでございます。」
周りの反応から、かなり特殊なケースだということがわかる。恥ずかしいけど、悪い気はしないね。
「それでは神術に挑戦してみましょう。」
きたっ、神術!
「神子様、神術は歴代の神子様が使われた術で、残念ながら我々が教えられるものではありません。」
えっ、それじゃあどうするの?
「しかし、先代、先々代の神子様が神術を使っているところは、私は見たことがございます。神術は火雷神に与えられた術で、雷を操る術となります。私が見させていただいたのは、雷を呼び、神子様自身が雷を吸収した後に、妖獣に放出するという術でございました。」
どうやって自分に雷を落とすんだ。ムズイ。イメージが出来ない。
「どのように想像すればよいのかは、検討もつきませぬが、歴代の神子様は、見事に雷を操っておられました。」
神術の修行では、イケメン神主も役に立たないようだ。
さくら達は大盛り上がりで、「しんじゅつ!しんじゅつ!」てコールが始まった。これは多分先代が教えたんだろうね。そのうち推し活うちわも出てきそうな勢いだ。
まあ、やってみるかと初めてみたが、やっぱりうまくいかない。雷は何回か見たことがあるけと、雷が自分に落ちるってイメージできないよね。自分に落ちたらあぶないし。そんなのは漫画だけ・・そうか、想像する方法を思いついた。
右手を空に向けて伸ばして、「XXXXサンダー」と叫んでみると、自分に雷が落ちるのを感じたので、そのまま壁に投げる感じで手を伸ばしたら、雷が崖に向かって放たれた。崖に大きな穴が開いている。なかなかの威力だ。
「やったぁ、できた!」
当然、頭の中では、とあるアニメが再生されていた。
ふと、周りが静かな事に気が付いて、見渡してみると、普通に「凄い」と拍手をしていたのは蘭ちゃんだけで、さくら、キョウ、大宮司、イケメン神官たちは目を見開いている。
最初に、さくらが口を開いたのだが、「桃ちゃん、その術のやり方、先代の神子様と同じ」といって固まったままだったので、後を継ぐようにキョウが説明してくれた。
「僕も、その術を見たことがあるよ。本当に先代の神子様と同じ所作だったよ、驚いた。その所作は、自然とできたのかい?」
説明がむずい。何となく出来たと説明したが、あまり信用されていないようだ。それにしても、先代も世代だったようだ。黒派かな白派かな。
「神子様、初日でここまで出来るとは、我々の想像を超えております。術は自らの精神を費やして放たれます。ただの術では、殆ど精神に負担はございませんが、忍術となりますと、大変疲弊いたします。神子様は神術をお使いになられました。とてもお疲れではございませんか?」
たしかに少し疲れたけど、まだ大丈夫かな。「大丈夫です。」と答えたが、「無理をしないように致しましょう。本日の修行はここまでということで社務所に戻りましょう。午後は徳井寺の大僧正様に、ご挨拶となります。」