十二 領主代行への挨拶
その他にも、いろいろと話をしていると、昼になっていた。さっき面談した部屋に移動して、昼食をとるようだ。場所はどこでもいいのだけど、正直、正座はしんどいなと思っていたら、枕の様な小さな椅子が用意されていた。それを使うと、お尻が直接足につかないので、少し楽に座ることができた。助かった。
明日からの昼食は、さくらが自分の部屋でとるように手配していたので、安心、安心。
今日の食事も、さっきまでのメンバーと同じメンツだったので、少し気が楽だった。このメンバーは気が楽だからね。多分、さくらの性格のおかげだと思う。抜群のコミュ力を持っているよね。
食後に少しゆっくりしたら、午後は領主代行に挨拶をすることになっているので、さくらに連れられて、城の最上階にある謁見の間に向かった。嗣基くんは先に謁見の間に向かったが、キョウは後ろからついてきてくれるので頼もしい。
「桃ちゃん、緊張しなくても大丈夫だからね。」
「そうはいっても、緊張するのが普通じゃないの?一番偉い人に会いに行くんだから。」
「一番偉い人の代理ね。まあ畏まった形にはなっちゃうけど、嗣家兄さまには会っているんでしょ?」
「会っているけど、こっちに来たばっかりで、まだ余裕がなかったし、殆ど会話はしていないから。」
殆ど、一方的に聞いていたしね。
城の最上階には、さくらに会ったときと同じような控えの間があり、まずはそこに通された。しばらくすると、「領主代理、嗣治様がおなりになりました。お目通り頂けるとのこと、入るがよい。」との言葉と共に、襖が左右に開いた。ちゃんと襖の陰に人がいて開けているのだが、自動ドアみたいだ。
襖の先にある謁見の間は、さくらの謁見の間の豪華版、一番奥の一段高いところに嗣治と思われる人が着座していて、左右には槍をもった護衛が立っていた。左右には襟が付いた羽織を着た、如何にも偉いですって感じの武士が着座しており、右側の前の方にイケメン武士の嗣家様と嗣基くんが、少し緊張した面持ちで並んで座っていた。領主代行の弟なのだから、序列でいえば上の方なのだろう。
さくらに会った時と同じ様に少し前に出て着座した。今回、私の横に座ったのはさくらだったので、気が楽だね。さくらの後ろに蘭ちゃん、私の後ろにはキョウが座っている。頼りにしてますよ。
挨拶の口火を切ったのは、以外にも領主代行からであった。
「そなたが新たな神子殿であるな。わしはこの南洲の領主代行をしておる、嗣治と申す。すでに神子殿にお目通りさせて頂いた、嗣家、嗣基、櫻花の兄ということだな。本来は神子殿は徳井神社の大宮司、わが父である領主嗣元、徳井寺の大僧正と、同じ立場であらせられる。よって、領主代行の立場で神子殿へ上から話すのは不敬なのだが、ここは徳井城、わしはこの城の城主代行という立場故、ご容赦願いたい。」神子は、かなり偉いらしい。急に偉くなっても、すこし困るよね。
「この南洲は、火の国最初の島と言われておる場所でな。伝説と伝統で、代々の大宮司は国の掟を作り、大僧正は国を護り、領主は祭りごとを行う役目を持っている。」さっきも聞いたけど、やはり南洲がはじまりの島のようだ。その伝説の上に成り立っているのだろうね。多分、姫が城を作って、神の子が神社を作って、勇士たちが寺院を作ったのかな。
「既に聞いているであろうが、今後は櫻花の事を、宜しく頼む。櫻花はまだまだ子供、迷惑をかけることも多かろうが、神子殿の力で、正しき道へ導いてほしい。」
「兄上、いつまでも子供扱いは困ります。櫻花も十五になりました。立派に役目を務めあげて、ご覧いただきます。神子様とは、本日初めてお会いさせて頂きましたが、非常に気が合います。今後も力を合わせて、魔物を討伐してまいります。」
「それは重畳であるが、それぞれの国では、妖魔や妖鬼と相対することもあろう。神子殿には万全を期して頂けねば。わが南洲には、一騎当千のものが多くおるので、神子殿には、思うがまま護衛を選んで頂きたい。」
「兄上、神子様は昨日顕現されたばかりですが、既に護衛集めを初めて頂いております。櫻花は神子様にお任せすれば、最強の護衛集団を作って頂けると信じております。」
「櫻花は、神子殿と打ち解けるのが早いな。良いことである。」
私は、まだ挨拶もしていないのだが、どんどん話が進んでいく。話が進んでいくのは楽でよいが、そろそろ挨拶をしないといけない気がする。
それにしてもさくらは随分と私を持ち上げてくれている。心配性の兄を安心させる為だとしても、少し照れてしまうよね、実際は、まだ何もしていないからね。多分、先代の神子の影響で、最初から神子の事を信頼しているんだと思う。これはプレッシャーだね。頑張らなければ。
「ご挨拶が遅くなりました。桃花と申します。神子という大任に身が引き締まる思いでございます。今後ともよろしくお願い致します。」
よし、挨拶終了。強引に話に入っていったが、無難に挨拶が出来た。一仕事した感じだね。
「ところで神子殿、大事な話なので尋ねるが、先代の神子殿の最後については聞いておるのか?」
「先程、櫻花姫様より説明を受けました。」
「そうであったか。少し話しずらいのだが、これについては神子殿には知ってもらわないといけない話じゃ。残念ながら、事の真相は分かっておらぬ。神子殿の警備を、厳重にする必要があろう。叔父貴、お願いできますか?」
「それについては、お任せ下され。神子殿の警備、抜かりなく手配致します。それと嗣基より、神子殿は先代神子殿の話も、詳しく聞きたいということ。後程、時間をとってお話させて頂こうと思う。」
話が早いのでうれしいのだが、私に警備ですか?私も、殺される可能性があるということかな。怖い。でも、殺されるのは嫌だが、ずっと監視されても困っちゃう、これでも自由な時代を過ごしてきた、自称乙女だからね。
と思ったら、神社、城、寺院では結界があるので大丈夫らしい。
先代の神子が、馬車を作っていたのは、麓の町だったようで、それが火事の時に駆けつけるのが、遅れた原因でもあるようだ。いま作っている馬車は、やはり麓で作っているのだが、ちゃんと結界を張っているそうだ。私が
町に出るときは、誰かがついてくれるみたいなので、それが護衛のメインであれば、良しとするしかないかな。
でも神子って大変だなぁ。