十 建国物語
仕方がない。ここは頼りします!とばかりに蘭ちゃんを見てみる。
「神子になってすぐなのに大変ですね。何人ぐらい集められるのですか?」
「それは、私の方が聞きたいのですが、今までは何人ぐらいだったのですか?」
「特に決まっている訳ではございません。私も全てを知っている訳ではないのですが、歴史の書では、姫と神子のお二人だった事もあるようです。その時は、影なるものが数名、護衛についたようですが。」
影なるものって忍者みたいな感じかな。ばあちゃんが好きだった時代劇みたいだ。ちょっとかっこいいかも。
「私が知る限りでは、十名から二十名だったことが多いと思います。」
なるほど、知っている時代劇みたいに、数名での旅は現実的には難しいのだろう。姫様を守るとなると、それなりに人は必要になりそうだ。となると、何名ぐらいがいいのだろう?
「しかし、こんな伝説がございます。これは火の国の立国の物語になります。すこし長い物語ですが、せっかくですので。」
蘭ちゃんの話には、続きがあるようなので、聞いてみた。
「この国は、太古より大地が火に包まれており、草木も生き物もいませんでした。海の中で、火が蠢いていたのです。海の中から湧き出た火は、海に流れこむと冷えて陸となりましたが、次から次へと火が湧いてくるので、大地はずっと火に包まれていました。しかし、ある時変化が訪れます。火の中から二つの命が生まれたのです。この二つの命は、人の形をしていましたが、人間ではありませんでした。全身が火に包まれていたからです。新たな命は、人間ではなかったのですが、心を持っていたので、火の人と呼ばれています。」
「二つの火の人は、溢れでる火を見て、このままでは自分たちは、再び火に戻ってしまうのではと考えました。そこで、自らの両足をもぎ取って、海で冷やして固めたあと、それを火が湧いている場所に投げ込みました。すると、大きな爆発が起こると共に、十個の火の塊が飛び出して、溢れていた火が止まったのです。飛び出した十の火の塊は、海に落ちると冷えて固まり陸地が出来ました。日が溢れていた場所の他に、十の島が出来たのです。その島々が、いまの火の国となったのです。」
「火が固まってできた島には岩しか無かったので、二つの火の人は、自らの体を使って、山、川、植物、動物を作りました。そして、最後に残った頭は、二人の女の子になったのです。女の子たちは成長をして、一人はこの国を治める姫となり、もう一人の女の子は、姫を守るための神の子になりました。この姫と神の子が、火の国を興したと言われています。」
「伝説には続きがあります。姫と神の子だけでは国は出来ませんから。実は、十個の火の塊は島を作るのと同時に、勇敢な戦士を作っていました。その者たちは勇士と呼ばれています。勇士は、姫と神の子を助けるために、二人がいる始まりの島に集まってきました。神の子は勇士を束ねることになり、姫を助けることになりました。この姫と神の子、さらに十名の勇士が、火の国を作っていくという、古の物語になります。」
「ちなみに、十の島から勇士が誕生したと共に、邪気を纏った鬼も同時に誕生しました。その鬼は、やがて妖鬼となり、さらに時間がたって妖魔になったと伝わっています。その後、その妖魔たちが各々の島を支配していきました。光と影は表裏一体ということなのでしょう。始めての島にも、鬼が誕生して、時間と共に妖魔となりました。初めての島は、姫、神の子、十人の勇士の他に、妖魔がいることになりました。」
「初めての島の妖魔は、姫と神の子、勇士たちに、島の頂点を取るための戦いに挑みました。妖魔は更に力を得るために、十の島の妖魔に協力を求めました。十の島の妖魔はその依頼に応じて、初めての島に、それぞれ最強の妖鬼を送り込んだのです。そして姫たちと妖魔の戦いが始まり、最初に妖鬼たちが、十人の勇士と戦いました。各々の戦いは接戦となったのですが、すべての戦いで勇士たちが勝利しました。」
「勇士に敗れた妖鬼は、妖魔の元に集まり妖魔と一体になって、姫と神の子と最後の戦いに挑みました。激しい戦いになったのですが、最終的には姫と神の子が勝利ました。負けた妖魔は、姫と神の子の力を認めて、二人の国造りに協力することになりました。その後、初めての島に人が誕生して、集落ができて、村ができて、町が出来ました。その後も人が増え続けて、やがて初めての島の人々が、十の島に移住することで、火の国が誕生しました。これが、この国の立国の物語です。」
なるほど、これは私が知ってる古事記や日本書紀、もしくは聖書やギリシャ神話の、こっちの世界版のようだ。
始まりの島が南洲ということのようだ。神の子は神子になったのだろう。こっちの世界では有名な話のようで、姫も嗣基くん、キョウも「うんうん」という感じで頷いている。
それにしても蘭ちゃんは、話が上手だね。まるで、自分が体験したみたいに話をしてくれたし、すごく分かりやすく話をしてくれた。さっき聞いたら、10歳になったばかりだと言っていたので、数え年で十歳みたいだから、以前の世界では、小学校三年ということになる。10歳で出来上がっているね。
「ここは、この伝説を手本にして、姫様、神子様の他に十名のお供を集めるのは、如何でしょうか?」
う~ん、10人が多いのか少ないのか分からない。感覚的には、姫様の護衛としては少ない感じがしたが、大勢で移動したら、戦みたいになってしまう気もする。昔の護衛もそんなに大人数ではなかったようだし、10人ぐらいが、ちょうどいいのかも知れない。その代わり、誰でも良いとはいかなくて、最強メンバーを集める必要がありそうだ。
「私は姉上の護衛が使命でございますので、選ばれなくても、お供致します。」
「僕は意外と強いからね。姫様の護衛には最適だと思うよ。まあ、選ばれなくても、ついていくけどね。」
「私は姫様のお目付け役ですので、私が付いていかなければ、姫様の生活に支障をきたします。」
3人が、抹茶ミルクを飲みながら、しれっとPRをしてきた。さっき、誰でも良いわけではないと言ったばかりだけど・・・
なんか3名は決まっている感じ。さくらもニコニコしながら、頷いているしね。私はこの世界に来たばかりで、他に頼る人もいないので、このメンツを信じていきますか。誰が強いか弱いか分からないし、なんたって、昨日の夜に一生懸命転生した運命を飲み込んだばっかしだしぃ。私の直感だと、なんとなくだけど、信用しても良いと感じるしね。
でも、なんとなくで決めてよいのかなぁ?