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21.わたしを祝福するためだけに

「い……、いいよ、……いいよ」


「ちょっと、お待ちくださいませ!!」



手をピクリとさせたアルパード殿下を、つい大声で止めてしまった。


いまのは、わたしが悪い。



――頭を叩いてください。



という、わたしの〈おねだり〉に、アルパード殿下は、



――バシッ!!



と、叩かれようとされたのだ。


うん。わたしの言葉が足りなかった。



――え? どういうこと?



と、お尋ねになられる前に、



――叩くなんて、イヤだな……。



というお気持ちが「いいよ、いいよ」と言わせてしまったのだ。


それも、かなり躊躇いがちに。


この一瞬の間、お心の内に相当な葛藤を抱かせてしまったはずだ。


エミリー殿下から、アルパード殿下のお心のことを詳しくお教えいただいていたというのに、申し訳ないことをした。



「大きな声を出してしまい、失礼いたしました」


「ううん……、大丈夫だよ」


「やさしく、撫でるように……、その……、ポン、ポン……っと、わたしの頭を……叩いて……くださいませんか?」



かぁ~~~~っ!!


われながら、なんて恥ずかしいことを言っているのだ!!!!


ガラじゃない。


わたしのガラじゃ、なさすぎる。



「ああ……、そういうことかぁ」



と、まっすぐなアルパード殿下の透んだ瞳を直視できない。


絶対、真っ赤だ。


わたしの顔。



「お、お、……おねがいいたします!」



と、馬上槍試合の手合わせを求める従騎士のような緊張した声を出し、


真っ赤になった顔をアルパード殿下からお隠しするように、


そっと、頭をさしだす。



その仕草をする自分も恥ずかしい。



だけど、どうしても興味がまさる。


凛々しいお母様、おすすめの……、



「すごいね、ガブリエラ殿は」



と、



ポン、



ポン、



……。



く、



くわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!



なんだこれ。



なんという……、なんという……、



快感。



全身がビビビビッと痺れたようでありながら、ふんわり宙に浮いたようでもあり、ほんのりとした温かさに包まれる。



こ、これは……、



たまらん。



あの凛々しいお母様をして〈性癖〉と言わしめるだけのことはある。




たまらんわぁ~~~~~~~~~~、




頭をあげ、アルパード殿下のお顔をまっすぐに見詰めた。



「ありがとうございます。アルパード殿下、ガブリエラは幸せです」


「そう? なら、良かった」



お母様、


ガブリエラは、やはりお母様の娘でした。


すごい威力でした。


あたまポンポン。


けれど、これはきっと、褒めていただくのとセットでないと意味がないのだ。



「ぜひまた、なにか、わたしをお褒めいただくときには、ぜひお願いいたします」



と、膝に両手をそろえて真顔で言ったら、


アルパード殿下に、すこし引かれた。



「う……、うん。分かったよ」


「ぜひ」



わたしは、わたしの愛しい人の、あたらしい表情を見れたのだ。


そして、相互理解、大事。


それでこそ、わたしもアルパード殿下のお役に立とうと頑張れる。


わたしがニコリと微笑むと、アルパード殿下もやさしく微笑み返してくださった。



   Ψ



あたまポンポンの余韻に浸りつつ、


次のあたまポンポンを求めて、王太子妃教育の外交編に励んでいるうちに、


ついに、花冠巡賜が始まった。


三大侯爵家と27侯爵家のご令嬢、もしくはご夫人が、祝福と承認の証しとして王太子妃候補に花冠を授ける、


正式な婚約前、最大の儀礼。


瀟洒な装飾が艶やかに彩る、屋根に幌がかかるだけで壁のない馬車に乗り、王都の市街地をゆっくりと進む。


馬車に壁がないのは、王都の民衆に王太子妃となるわたしを、お披露目する儀礼でもあるからだ。



二輪の馬車を、三頭立ての馬が引く。



三大公爵家の花冠巡賜では、四輪の馬車を四頭から六頭の馬で引いていたのに対して、一歩退いてみせた。


だけど、馬車を彩る意匠は、わたしを王太子妃に迎えてくださる王家に対し、不敬にあたらぬよう充分に華美壮麗。


謙譲な姿勢を示しつつ、わたしがこれから三大公爵家より上の立場にのぼる、威厳もあらわす。


御者は、ガーベラの騎士バルバーラ。



――そうか! そりゃ、女騎士は絶対に必要なはずだわ。



と、途中で気が付いた。


優雅な微笑みを浮かべて、視線をすこし下げ、沿道にならんで見守る民衆の間を、馬車が厳かに進んでゆく。



――素敵ねぇ~。


――侯爵家からって聞いてたけど、こりゃ、納得だな。


――このお美しさでは、王太子殿下もご無理を言われるはずだわ……。



と、民衆の囁き声がわたしの耳にも届く。


この段階に至って、わたしは王太子殿下以外の男性の目にも触れる。


若い平民の男子は、口笛を吹いたりもする。


礼儀正しいとは言えないけれど、祝福の意をあらわすのに、咎められることはない。


正直、


照れる。


大仰だ。


だけど、これが花の王国、ヴィラーグ王国の王家に嫁入りするということなのだ。


ほほを、ほんのり紅く染めながら、微笑みを絶やさない。



――えっ!? ……花冠巡賜って、今日からだったの?


――異例の速さで王太子妃教育を修められたらしいわよ?


――ええぇ~~~っ!? 聡明でいらっしゃるのねぇ……。



羨望の声が、わたしを祝福してくれる。



――見て、あのドレス。ほんと、素敵。


――きっと流行るわね。


――よく見ておかなくちゃ。



前回の花冠巡賜は42年前。


王都に訪れた久しぶりの祝祭に、女子は老いも若きも浮足立っている。



――これは、ふわふわ王太子の治世もヴィラーグ王国は安泰だな。


――ああ、俺たちにもやさしくて、いいお方ではあるけど、ちょっと……、頼りないものな。


――聡明で美しいガブリエラ王妃がお支え下さるんだ。きっと、いまより栄えるよ。


――見ろよ、あの……威厳あふれるお姿。


――ああ。ヴィラーグ王国は、きっと大丈夫だ。



口さがないヒソヒソ話まで、わたしの耳に届くのはやむを得ない。


ええ。ツンとした顔してますよ。


ツンとした顔で、アルパード殿下の治世を支えてみせますとも。


それに、アルパード殿下は頼りなくなどありません。


やさし過ぎるだけです。


その王国の常識を塗り変えるようなやさしさと、崇高なお志に、みながまだ気付いていないだけなのです。


きっと、わたしがお支えし、この国をより良くいたしますから、みなさん見ていてくださいませね。



やがて、わたしを乗せた壮麗な馬車は、カタリン様の待たれるナーダシュディ公爵家の広大な王都屋敷へと入った。


三大公爵家が、27侯爵家が、そして王都のすべてが、


わたしを祝福するためだけにひらく、


74日間におよぶ、壮大な儀礼。


花冠巡賜が始まる。


本日の更新は以上になります。

お読みくださりありがとうございました!


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