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第九章

しばらく水曜日+1日で連載します。水曜日以外は不定期ですが、土日のどちらかで考えてます。

「あれ? お前、哲治?」


 声のする方を見上げると、バリケードのてっぺんで、リーゼント頭の黒い人影が動くのがわかった。

 

 「えっ、誰?」


 オレこと高藤哲治は目を細めて顔を見ようとしながら尋ねた。そもそもオレのことを知っているヤツに、リーゼント頭の不良はいない。カツアゲされたら大変だ。オレは緊張して相手の返事を待った。


 「ん~? 俺だよ、俺。川上!」


 言いながら、同級生の川上直樹がバリケードをよっこらせと降りてきた。


 「川上? 直樹なの?」

 「ああ!」


 目の前までやって来た直樹のヘアスタイルを見て、オレはあっ!と驚いた。今日の終業式とは髪型が違っている!


 「リーゼント!?」


 オレがびっくりして言うと、直樹がニヤッと笑って膨らんだ前髪をくしで直しながら言った。


 「いいだろ? 夏休みだからリーゼント解禁だぜ!?」



 直樹とは小3のときに同じクラスになってからの友だちだ。直樹はガキ大将だったから、休み時間や放課後になると、直樹を中心にみんなで集まって校庭で野球をしたり、公園で遊んだりしてたんだ。

 でも、小5になって別々のクラスになると、オレは毎日塾に行かされるようになり、直樹と遊ばなくなっていた。

 たしか、ちょうどその頃からなんだよ。直樹が学校で暴れたり、不良の中学生と夜遅くまで外を出歩いて、補導されるようになったのって。

 それで今年。久しぶりに同級生になったんだけど、直樹はぶっといズボンに、ワイシャツ外出しで、上履きの踵を踏んだ、立派な不良になっていた。周りにいるのは、同じような恰好の不良ばっかりだ。


 全然違う世界の人。

 というのが、久々に直樹を見たオレの感想で。だから1学期の間、直樹とオレには何の接点もなかったんだ。

 それが、夜8時過ぎの灯りもほとんどないバリケードの上で会うことになるなんて。


 戸惑っているオレを見て、直樹が少しいらだって言う。


 「あんだよ? 無反応?」

 「え? そんなことないよ」


 慌てて返事をするオレに直樹ががっかりしたような声で言った。


 「まだ伸びきってないから、これじゃリーゼントとは言えねえか……」


 どうやら直樹は自分の髪型が微妙で、オレの反応が悪いと勘違いしたらしい。オレはぶんぶん首を振った。


 「違う違う! リーゼント、決まってるよ! うらやましいくらい!」


 途端に直樹の顔がぱっと明るくなる。


 「マジ!? あー良かったあ! まだ誰にも見せてなかったから不安だったんだよ!」


 言いながら手に持っていたくしで髪を丁寧にとかし上げ、太い丸太の上に腰かけた。つられてオレも隣に座る。

 すると直樹がごそごそとズボンのポケットをまさぐって、マイルドセブンを取り出し、


 「吸う?」


とタバコのパッケージをオレの鼻先に突き出してきた。


 「あ……いや」


 ドギマギして断ると、嫌な顔をするわけでもなく、


 「そっか」


と言って、直樹はタバコに火をつけた。


 「フウウウウ」


 くわえたタバコの先で、炎が真っ赤に光る。そしてタバコを外した口の中から、吐く息とともにゆっくりと白い煙が漂い出た。

 直樹は明るく輝く満月に向かって何度も煙を吐き続ける。それを見ているうちに、段々オレもタバコを吸ってみたくなってきた。


 「あのさ、オレも吸ってもいい?」


 直樹がニッと笑ってオレにタバコを差し出す。一本もらってライターで火をつけてもらった。


 「ゲホッ! ゴホゴホ!!」


 思いっきり吸い込んだら、あまりの煙たさと苦さに、オレは思いっきりせき込んでしまった。

 苦しんでいるオレの背中を直樹がポンポンと叩いてくれる。そして言った。


 「もっとゆっくり吸うといいぜ。最初は口の中に煙を貯めるようにして、それからすうっと吸い込むとせき込みにくいんだ」


 喉から下に親指をおろしながら説明する直樹を見て、オレは涙を拭ってこくりと頷いた。


 「わかった、やってみる」


 今度は直樹みたいにゆっくりと煙を吸い込む。熱さを感じる煙を口の中に少し貯めてから、肺を膨らまして恐る恐る煙を飲み込んでみた。そして、


 「フウウウウ」


と口の中から真っ白い煙を吐き出した。


 「ウマいじゃん」


 直樹が親指を立ててニヤッと笑う。オレもニヤリと笑い返した。



 それからしばらくの間、オレたちは黙ってタバコを吸い続けた。こんなに呼吸を意識したことが今までなかったからか、段々とリラックスした気分になってくる。気がついたときには、あんなにしつこかった頭痛がきれいさっぱりなくなっていた。

 オレは満足して呟いた。


 「タバコ、サイコーだな」


 直樹がハハハと笑った。


 「マジかよ。お前、不良じゃん!」


 ふと顔を見合わせたら、なんだか腹の底からおかしくなってきて、直樹とオレはゲラゲラと笑い転げた。


 「それにしてもさ、なんでこんなにリラックスできんのかな?」


 ラスト一本を吸いながらオレが尋ねると、直樹が煙を吐いて答えた。


 「ため息だからだろ」

 「ため息?」

 「なんかさあ、ため息つくのって、ちょっとダサくね? おっさんぽくてさ。でも、つきたくなるんだよな、ため息。

 そんなときにタバコがあるとさ、堂々とため息をつけるわけ。だからリラックスすんじゃないかなあ?」

 「なるほど、すげえ」


 言いながら、オレも煙を吐き出すときにため息をついてみた。


 「フウウウウ」


 今まで胸の中にわだかまっていた、お父さんへの怒りや勉強ができないコンプレックス、お母さんにもっと優しくしてほしい、といった気持ちが、ため息の煙になって空中に流れ出ていく。

 お父さんとお母さんがヘビースモーカーなのも、同じ理由なのかもしれないな、とオレは感じていた。

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