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第十七章

 「兄貴!」


 3人の目の前に現れたのは、川上直樹の兄、太一とその彼女の相川美波だった。太一はリーゼントにグラサン、ゆるめのカーキ色のパンツの上からダボっとした派手なTシャツを裾出ししていた。


 オレこと高藤哲治は太一の話を直樹から聞いてはいたが、実際に会ったのはこれが初めてだった。

 直樹とそっくりなファッションをしている太一は、クラスでも一番背が高くなったオレよりさらに背が高く、浅黒い肌と細身ではあるが筋肉質のがっちりとした体つきをしていた。


 2歳しか違わないのに、太一には子供っぽさがなく、まるで芸能人みたいな華やかなオーラがある。

 かっこいい! とオレは興奮して太一をぽうっと見つめた。



 「太一、この子たちは?」


 太一の筋肉質な腕にほっそりとした白い腕を絡ませていた美波が太一を見上げて尋ねた。


 「ああ、こいつが俺の弟」


 親指でくいと直樹を指さすと、直樹がぺこりとお辞儀をした。


 「こ、こんにちは! 美波さんですよね」


 「こんにちは! 君が直樹君ね。いやーん。太一とそっくり~!!」


 笑いながら美波が、お辞儀をして下がった直樹の両頬を両手で包んでくいと持ち上げた。裾が膨らんだ真っ赤な水玉のワンピースに身を包み、おそろいの大きな赤いリボンを頭にはめた胸の大きい美女にいきなり大接近されて、直樹は耳まで真っ赤になった。


 「やめろよ。直樹をからかうな」


 ちょっとイラっとした声になった太一を見て、美波はいたずらっぽく笑った。


 「もーいいじゃん。だって目元がそっくりなんだもん。じっくり見たいじゃない?」


 そう言って、太一のサングラスをひょいと取り上げた。


 「ほらー、やっぱりそっくり~!!」


 「くそっ! 美波返せよ!」


 サングラスを渡すまいとキャッキャッとはしゃぐ美波を太一が後ろから優しく抱きしめた。後ろからサングラスを取ろうと太一が手を伸ばすと、サングラスを取られまいと美波も精一杯腕を伸ばす。とはいえ、30センチほどある身長差もあって、太一はすぐに美波の指先からサングラスを取り上げてしまった。


 もー、と不満げに頬をぷうっと膨らませた美波の頭を、サングラスをはめ直した太一がぽんぽんと優しく叩いて腕の中から解放してやる。


 こんな高校生二人のいちゃいちゃ振りを見せつけられて、中学生のオレ達は目のやり場に困ってお互いに顔を見合わせた。



 「ねえねえ太一~、今から原宿行こっ!」


 そんな中学生の戸惑いにまったく気が付かない美波は、太一の腕を引っ張って甘えた声を出した。


 「また『ブティック竹の子』か? お前も好きだねえ」


 呆れたような太一の言い方に、美波はまた小さな頬をぷーっと膨らませた。


 「何よ、その言い方! カワイイ服がいっぱいあるから行きたいんだもん!」


 直樹が太一に尋ねる。


 「兄貴、『ブティック竹の子』って何?」


 太一が直樹の方に向き直り、太くてよく響く声で答えた。


 「原宿の竹下通りにある、ハーレム・スーツの専門店だよ」


 「ディスコで踊りやすいように作られた、サテン地の2ピースのスーツなのよ。最近じゃ、お店の前でハーレム・スーツを着たダンス好きの子たちが、ディスコ・ナンバーをラジカセで鳴らして踊ってるの! ねえ、今日も行こうよ~!」


 美波がそう言って、太一の引き締まった太い腕を両手で引っ張った。太一はやれやれと肩をすくめた。


 「ったく、バイクでもこっからだと結構かかるぞ。お前そんなひらひらしたスカートじゃ、パンツ丸見えになるんじゃないか?」


 「大丈夫だもん! 美波はバイクにまたがるの得意だもん! パンツなんて見えないもん!」


 ムキになって言い返す美波に顔を寄せて太一が囁いた。


 「そうだよな。美波はバイクにまたがるのも、俺にまたがるのもすげー上手だもんな」


 途端に美波が真っ赤になり、目の前にあるにやけた太一の両耳を思いっきり引っ張った。


 「痛ってえ!!」


 「そういうことを公衆の面前で言わないで!」


 美波がくるりと踵を返し、呆然と様子を見ていた中学生3人に謝った。


 「ごめんね、太一がバカで」


 「あ、いえっ。……なあ?」


 直樹がおどおどと返事をして、唐沢とオレを見た。オレたちもどう言っていいかわからず、こくこくと頷いた。


 「あー痛かった」


 両耳をさすりながら太一が美波に言った。


 「からかったのは悪かったけど、お前も思いっきり引っ張るなよなあ!」


 「ふん!」


 美波は腕を組んで太一からぷいと顔をそむけた。


 「だって太一、デリカシーがなさすぎるんだもん!」


 「ちえっ、悪かったよ……」


 そう言って太一がそっぽを向いた美波の肩を抱き寄せた。


 「じゃ、今から原宿に行くか」


 その言葉に、ぱあっと美波の表情が明るくなった。


 「ホント!? じゃあ許してあげる♪」


 ニコニコ顔で抱き着いてきた美波に、太一が苦笑した。


 「ったく、しょうがねえなあ」


 そして美波を抱きしめたままで、太一は直樹に話しかけた。


 「じゃあ、俺たちもう行くわ」


 「兄貴、今日も夜はいないんだろ?」


 直樹の問いかけに太一が頷く。


 「ああ、夜はボーイのバイトが入ってるから。こいつを自宅に送ったらそのまま直行だ」


 「みんなまたね!」


 美波が太一の腕の中でひらひらと手を振った。

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