第十六章
ついに中央の縦1列のインベーダーが全ていなくなった。
そこでオレこと高藤哲治は敵がいなくなったそのスペースに合わせて、自分の砲台の位置を左右にずらし、ミサイルが当たらないようにした。
そのうえで、わが身を守るトーチカをビーム砲で粉々に破壊した。
「ええっ! なんでトーチカを壊しちゃうんだよ!!」
川上直樹が焦って叫んだ。しかしオレは落ち着いて答えた。
「大丈夫! 予定通りだから!」
ついにインベーダーはプレイヤーの1段上まで迫ってきた。次の段までくればプレイヤーの負けでゲームオーバーになる。
直樹も唐沢隆も「もうだめだ!」とあきらめたその瞬間、オレが叫んだ。
「いっけええ!」
オレは砲台をすばやく左右に動かして、ミサイルを落とし続けるインベーダーの真下に自分の砲台を滑り込ませた。
「ミサイルが当たる!」
叫んだ唐沢も直樹も、オレの砲台が粉々になるのを見た……はずだった。
だが、実際は逆だ。敵のミサイルはなぜかオレの砲台には当たらず、オレのビーム砲だけがインベーダーをとらえ、次々と倒し始めたのだ。
「ええええ???」
直樹と唐沢だけではない。周りで見ていたギャラリーたち全員がびっくりしてどよめいた。
「裏技だよな?」
「どうなってんだよ?!」
と皆が口々に騒ぎ立てる。
最後の1機を倒して1面をクリアしたオレはふーっと満足げな吐息を漏らした。
「おし! 成功だ!!」
そこからのオレの活躍はすごかった。
2面、3面、4面と同じ方法で難なくクリア! 5面では敵を倒し切れなくて1機失ったけど、6面も無傷でクリア!
ついにオレは「トリプルB」が破れた7面に突入した。直樹と唐沢は興奮してオレの肩をつかんでゆさゆさとゆすった。
「哲治~! 7面だぞ! お前天才かよ!!」
「『トリプルB』と並んだあ! ありえねえ!!」
オレはゲーム画面から目を一切話さず言った。
「『トリプルB』を抜かしてやる!」
オレの発言に、再びギャラリーがどよめいた。
オレは今日こそ新記録を叩き出せるかもしれないという興奮と、みんなからの熱い注目で胸が痛いほどどきどきと高鳴るのを感じた。
7面目も展開は同じだった。より近くから攻撃を始めたインベーダーの隊列にいかに速く風穴を開けられるかが勝負の分かれ目だった。
しかし、敵が下りてくるのがこれまでになく速くなり、ミサイルの数がぐっと増えた。最大限集中してミサイルをよけ、ビーム砲を当てようとしたけど、焦ってしまって命中率が下がり始めた。
BOMB!
残機はあと1機となってしまった。
「くそっ!」
オレは汗で濡れた手をズボンで拭うと、再びジョイスティックを握り直した。ゲームが再開する。だが、その瞬間!
「ああ~!!!」
周囲から悲鳴ともつかない声が上がった。
最後の1機は敵が発射した2つのミサイルに挟まれて回避しきれず、被弾してしまったのだった。
ゲームオーバー。
ランキングが発表されると、オレは2位。「トリプルB」とわずか10点差だった。
「くっそー、負けた!!」
残念だが仕方がない。
オレは名前を入力した。途端にギャラリーがまた騒ぎ始めた。
「『T』だ! この子が『T』だったのか!」
そう、夏期講習の間、毎日スペースインベーダーで遊んでいたことで、オレは上位ランカーに名を連ねる実力になっていたのだ。
ゲームが終わって人だかりから抜け出したオレ達3人は、ほっとして顔を見合わせ、ゲラゲラと笑った。
「哲治~! まさかお前がゲームの天才だったなんて知らなかったぜ!!」
直樹が顔を真っ赤にして笑いながら、オレの背中をバシバシと叩いた。唐沢も止まらぬ笑いで痛むわき腹を押さえ、涙を拭きながら言った。
「なんだよお! 先に言えよお! びっくりしたじゃんかよお!!」
3人でバカみたいに笑い続け、ようやく笑いがおさまったところで、オレは種明かしをした。
「実はさ、オレがやっている方法は別の人がやってた裏技なんだよ」
「裏技?」
「うん。ほら、ランキング3位に『SAL』っていう名前があったの覚えてる?」
「そういえばあったなあ」
と、唐沢が水筒の水をごくごくと飲んで答えた。
「『SAL』さんはサラリーマンでさ、オレが塾から帰る時間にいつもあそこでゲームをしているんだよ。
そうしたら、ある日突然『SAL』さんのプレイ時間が長くなって、高得点ばっかり出すようになったから、どうしてなのかを見ながら分析したわけ」
「へー! わかったの?」
直樹が興味津々で尋ねた。
「うん。わかった。インベーダーの攻撃は下から2段目に入るとプレイヤーの砲台に当たらなくなるんだよ! 『SAL』さんは友だちから教わったゲームのバグだって言ってた」
「ああ、それで哲治は敵が下りて来るまで攻撃しないで待っていたのかあ!」
唐沢が感心して叫んだ。オレがうなずく。
「そうなんだ。でも逃げられるスペースを縦1列分開けたくらいじゃ、敵のスピードが速くなって間に合わなくなっちゃった。あらかじめもっと多めに敵を減らさないとダメみたいだね」
「なるほどな! よし、今度俺もやってみよう!」
直樹がうずうずした声で言うのを聞いてオレもうんと頷いた。
「また今度一緒にやろう! 3人でトップ3に名前を入れちゃおうぜ!」
ワイワイ盛り上がっている3人の前で、女性ものの赤いサンダルと男性ものの大きなスニーカーが立ち止まった。
「おい、直樹か?」