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第十四章

 30分後。オレ達3人は再びマンモス団地の中にある駄菓子屋の前で集合した。午前中だけど日差しは強いし、空気は湿気でベタベタしている。オレ達は3人ともばかでかい水筒を自転車のかごに突っ込んでいた。


 オレこと高藤哲治と唐沢隆は野球帽をかぶっていたが、リーゼントにしている川上直樹はセットが崩れるのを気にして帽子はかぶってこなかった。


 「小学生みたいでカッコ悪くね? お前らも脱げよ」


と直樹に言われて、急に恥ずかしくなったオレは素直に野球帽を脱いでリュックに放り込んだが、唐沢はかたくなに拒否した。


 「やだよお。スポーツ刈りだと直射日光が頭の皮に当たって痛くなるんだあ。絶対脱がねえ!」


 そもそも、普段から野球帽をかぶっている唐沢は、野球帽をかぶる姿が様になっている。

 直樹もそこまで押し切るつもりもなかったようで、この話はここで終わり、3人は町田に向けて出発した。



 団地の横を抜けて下り道を自転車で一気に駆け降り鶴川街道をしばらく行くと、田んぼが左右に広がる平坦な一本道に入る。3人は直樹を先頭にして唐沢、オレと並んで自転車をこぎ続けた。


 そのうち道は上り坂に変わった。16メーター道路の先にある山道に似た急な傾斜で、オレは自転車のペダルがぐっと重みを増したのを実感した。


 直樹がガチャっとギアを落とした音が伝わってきた。オレもギアを落としたら、途端にペダルを踏むのが楽になった。

 しかし唐沢はギアを誰より早く落としたにも関わらずすでに限界が来たようで、腰を浮かして自転車を立ちこぎし始めた。


 「あー! 上り坂は大嫌いだあ!!」


 叫ぶ唐沢の背中に汗のシミがどんどん広がっていく。

 体が大きい唐沢は3人の中で一番汗っかきだ。普段野球で体を鍛えているとはいえ、重たい体で急な坂道を上るのはかなりしんどいらしい。


 「あと少しだ。がんばれ!!」


 オレが後ろから唐沢に声をかけた。


 「もうすぐ下りになるぞ! ファイト!」


 直樹も後ろを振り向いて唐沢を励ました。


 二人に励まされたのが効いたのか、唐沢はゼエゼエと肩で息をしながらも、一度も自転車を降りることなく最後まで坂を上り切った。


 「終わったあああ」


 平坦な道路にたどり着き、唐沢が片手をハンドルから離して、ぐっとガッツポーズをした。


 「よーし、唐沢! こっから先はしばらく平坦が続くから足を休めてくれ」


 直樹が振り返って話す。


 「この先ちょっとだけ上り坂があるけど、そこは大したことない。そのあとはずっと平坦だ。あと20分も走れば町田の駅前だよ」



 「うん、わかったあ。じゃあ…」


と言って、唐沢が自転車を止めた。


 「おっとっと!」


 慌てて後ろにいるオレがブレーキをかけた。


 「何で止まったの?」


 唐沢は自転車を道路脇に止めて自転車のかごから水筒を取り出した。


 「ちょっと休憩だあ」


 ごくごくとのどを鳴らして水を飲む唐沢を見ていたら、オレもめちゃくちゃのどが渇いてきた。


 「オレも!」


 水筒の中の麦茶を飲んでいると、最後に自転車を止めた直樹が、道路脇の小高い丘の上に立っているのが見えた。


 オレが近寄ると、直樹が向こうを指さした。


 「ここにもでかい団地があるぜ」


 オレはおお、と思った。


 直樹が立っている場所は、これまで登ってきた大きな丘の稜線がはるかに見渡せる位置で、眺めが抜群に良かった。


 なだらかにずっと向こうまで広がる丘の起伏には、白光りする団地が5~10棟ごとに群になって規則性を持って並んでいる。


 そして団地と団地との間にはこんもりとした林がいろんなサイズで挟まっている。まるで大きくて四角い白い団地と小さくて丸い緑色の林が順々に並んで、こっちに向かってくるみたいだ。


 「インベーダーじゃん」


とオレは思わずつぶやいた。直樹が笑った。


 「お前の目にはこれがゲームに見えるのかよ! 面白れえな!」


 「えー? どこがゲームなんだよお」


 あとからやってきた唐沢がよくわからんという顔で聞いてきた。

 オレはちょっと恥ずかしくなって笑った。


 「いや、本物はもっとすごいからさ! 早く行こうぜ!」


 3人は再び自転車にまたがった。やや下り坂になった平坦な道でスピードを上げて走っていく。


 そして、町田駅が見えてきた。

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