2話 水を求めて
「………んんっここは」
春の暖かい日差しが優しく照らしているその平原。きっとここに動物がいたら強烈な睡魔に襲われるような暖かみを感じるのだろう。そんな平原の一部、周囲に草木は無く、深さ3メートルのクレーターの中で頭の痛みを感じながらその少年は意識を覚醒させていく。
「っそうだ。俺はいきなり地面に落ちて、、、ってなんで無事なんだ?」
悠は深さ3メートルのクレーターを作るような勢いで落下した。普通の人間なら地面の染みになるのが当たり前だ。"普通の人間"なら。悠はまだ転生して、頑丈で身体能力が化け物級の肉体を手にしたのにまだ気づいていない。あと身長が125センチになっていることも。
「まぁ助かったならいいけど。まずはこの穴から抜け出さなきゃな…」
(これが異世界転生ってやつか?それでもこれはないだろ…転生して気がついたら目の前に、、、4メートル弱の壁とかバッドエンドか?とにかく出ないと始まらないな。雨降って水溜まりみたいになるのを待つわけにもいかないし)
実際は3メートルだが悠は日本にいた頃の身長178センチを基準にしているので若干高く感じている。そんなでかい斜面を悠は駆け上がりジャンプっ!悠はその崖ともいえそうな斜面を飛び越えた。そう、文字どおり"飛び越えた"。高度数百メートルからの自由落下に耐える肉体をもっているので、なんでもありが常識さ!みたいな異世界基準で考えたら当然かもしれないが、あいにく悠は考えが日本人で、しかもそこまで全力で跳んでないので受け身をとる準備をできるわけなく再び地面とディープキス!異世界初の恋人はこの大地だ!といわんばかりに顔面からダイブすることになった。
「ぷはぁっここは…どこだ?平原か?その割には生き物がいないけど」
ちなみに悠がいる平原は魔力濃度が非常に高く、通常の生物は存在できない。また、生えてる草は大量の魔力を吸収しながら育っているので正しく処理すればものすごいポーションになったりもする。
「とにかく喉がかわいた。水溜まりは…ないよな。とにかくまずは森に行こう」
(大丈夫!きっとあの森には水場があるはず!あるよな?あるといいなぁ~)
と悠は自分に水場があると言い聞かせながらうっすらと地平線の辺りに見える森に向かって歩き始めた。
空が夕焼けに染まりかけている頃に悠は森に着いた。その森は普通の森と思えないくらいに生命力に満ち溢れていて、夕焼けの色と合わさったその森は幻想的な雰囲気を出していた。悠も少しの間見惚れていたが、いつまでもそうしているわけにはいかないと我に戻り、その森の探索を始める。
(ってやばい!早くしないと夜になる!)
夜になったら視界が悪くなるのに加えて平原にいなかった分のモンスター、それも肉食のモンスターが活動する可能性が高い。なら平原で過ごしたらいいじゃん?と思う人もいるかもしれないが脱水状態で明日の朝から森を探索するよりかは今なんとか水を見つけた方がいいと悠は判断したので、森を探索することにしたのだ。
それから約2時間、日は完全に落ち、なんの手がかりもなく夜を迎えた。
(はぁ、はぁ、そろそろ、まずい。もう周りも完全に見えなくなった。もう見つかっても…?「ギャアアォ」そんなこと言ったって無いもんは…今の声は?)
突然の獣の鳴き声に思わず反応してしまった悠だが次の瞬間パキッと明確な物音が聞こえてきたのでギギギッと壊れたおもちゃのように振り返ると
「っ!?」
そこには二本の足に大きな翼、小さな生き物なら丸呑みできそうな大きな顎を持った竜種、地球だとワイバーンと呼ばれていたドラゴンが近くの大木とも言える木の枝から悠を獰猛な目で見下ろしていた。