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四ツ目の復讐者《アヴェンジャー》  作者: ソラリス
第1章:2人の復讐者編
8/22

第8話:猫の国

 結論から言うと、あたしたちは森の中で迷子になっていた。

 村を出て丸一日歩き通しだったのだけど一向に街道に出る様子がなく、頭の地図で方角を再調整したのがたしか一昨日の話だ。

ぐぅ、と腹の虫が不満を主張する。そういえばしばらく食べてなかったっけ。緊張状態が続くと空腹感も忘れてしまうものだ。


「レアハ...大丈夫?」

「あはは、ちょっとマズいかも...」


 シエルが心配そうに声をかけてくれるけど、彼女も流石に疲労の色が隠せなくなっている。旅慣れしていないシエルには夜はなるべく寝てもらっているけど、野宿が続けば疲れも溜まる一方だ。かく言うあたし自身もろくに休息をとれていない状態でそろそろ民家でもなんでもいいから落ち着けるところを見つけないと、こんなところで野垂れ死ぬ訳にはいかない...が。


「あ...っ、やば...」


 ちょっと遅かったようで視界が揺れる。まるで脳みそを掻き回されたような不快感と共に目の前の景色が不規則に引き伸ばされ、捻れる。

 足元がふらつき、わずかな浮遊感を感じた後――


「レアハ?レアハ!しっかりしてください!ステラーー!」


 ぐりん、と目の前の"色彩"が反転する。あたしに呼びかける声が少しずつ遠ざかり視界が黒く染っていく。

 ――シエル...ごめん。


 ◇ ◇ ◇


 森を迷って数日(・・)、ステラさんは歩き通しだった。

 それだけじゃない。その途中で襲いかかってきた敵のほとんどを迎え撃ち、夜も私を気遣って休憩や物資を優先してくれていた。

 だからこそ、私は彼女の強がり(・・・)を指摘することができなかった。森の様相が変わり始め、ステラさんの顔に疲労と焦燥が浮かぶ。その時に無理にでも休ませるべきだった。

「まだ大丈夫」の言葉を疑いもせずに真に受けて――違う、考えないようにしていたのだ。そうでないと怖くて仕方なかったから。

 そして結局そのしわ寄せがステラさんに行き、結果としてステラさんが倒れてしまった。


「シエル...ごめん」

「レアハ?レアハ!しっかりしてください!ステラーー!」


 慌ててステラさんを抱き留める。

()()()()()()()彼女の寝顔は信じられないほどやつれていて、力なく伏せられた目元には隈が濃く刻まれていた。

 ――こんなになるまで私を励まそうとしてくれていたなんて。つくづく自分の鈍さで自己嫌悪に陥りながらも、焦る頭でどうにか現状を整理する。

 ここは村から数日歩いた距離にあるどこかの森で、食料は底をつきかけている。幸か不幸か人と遭遇したのはあの山賊以来なく、ステラさんは過労と睡眠不足で昏倒してしまっている。

 ほとんど遭難に近い状況だ。少なくとも私に現状を突破する術がない。


「それでも...ステラさんは私が守ります...!」


 ステラさんを抱え、近くに生える木の根元にゆっくりと横たえる。起きている時とは正反対な、まだあどけなさすら残るその寝顔を見つめていると彼女の唇がかすかに動いた。


「シエル...ごめんね...」

「...はいっ」


 不意に名前を呼ばれ、心臓が一際強く鼓動する。

 咄嗟に返事をしてしまったがどうやら寝言だったらしく、そのまま再び寝息を立ててしまった。

 夢の中でまで私に謝っている、それだけ心残りだったのだろうか。ステラさんの優しさに私の胸の奥が熱を持つ。

 名前のない感情が生じ、それがなんなのか自問していると――がさり、と少し離れた茂みから音がした。

 敵?こんなときに遭遇戦とは本当に運がない。それでも絶対にステラさんだけは守ってみせる。

 決意を胸に武器(ヘビークロスボウ)を執り、物音とステラさんとの間に立つ。渡された棍棒も、少し嫌だけど腰に着けている。がこん、と音が鳴り短矢(ボルト)が装填される。

 ――引き金(トリガー)にかけられた指が震えている。生まれて初めて、誰かを守るために誰かを害そうとする戦いに私の心が浮き足立つ。

 1度だけ深く息を吸い、そして吐く。落ち着け、私。

 茂みを掻き分ける音が近付いてくる。

 そして現れたのは数匹の――直立歩行する、体長1メートルあまりの...猫だった。


「え...猫...?」


 思わず重弩弓(ヘビークロスボウ)の照準が下がる。猫たちは私...正確には私とステラさんを見たあと仲間同士で話し合っている様子だったけど、にゃーにゃー言っているようにしか聞こえずその内容はさっぱりわからなかった。

 私が呆然としていると話し合いが終わったらしく先頭の長靴を履き、帽子とマントを身につけた黒猫が腕?前脚をステラさんに向けると、残った4匹の猫達がステラさんに群がり、あっという間にその体を担ぎあげる。


「ちょ、ちょっと、レアハをどうするつもりなんですか!?」


 私が慌てて黒猫の前に立つ。黒猫は少しだけ鬱陶しそうに一鳴きすると前脚をぐるんと回し、ステラさんを担いだ猫たちと共に森の中に進んでいった。着いてこい、ということなのだろうか。

 置いていかれないように急いで彼らの後を追う。その途中で彼らが昔図鑑で見た、猫種の亜人であることを思い出した。

 亜人。かつて女神アルカンシエルの娘である土の女神(グーリ)が獣の王との間に産み落としたと言われる種族。私たち人族に数えられ、人の姿に獣の相を持つ獣人の民(アンスーロ族)とは異なる存在だ。この猫種の特性は確か慎重かつ好奇心が強く、暗い所を好み――


「ニャーオ」

「え?ここが、あなた達の住処...ですか?」


 黒猫の亜人が、私と巨大な木の洞の間で前脚を振る。穴の大きさは私が3人くらい纏めて入りそうな程で、底の方は暗くて見えない。


「大きな(うろ)...どこまで続いて――きゃあっ」


 私が穴の中を覗いていると、不意におしりが強く押し出される。バランスが崩れ穴の中に吸い込まれる私の視界には同じく投げ込まれたステラさんの姿、そして次々に飛び込む猫亜人たち。

 ――そして、イタズラ好きだ。


 ◇ ◇ ◇


 燃える村の中、仮面の男があたしを見下ろして立っていた。

 四肢を失い、芋虫のように地面を這いつくばるあたしをシエルが醒めた目で見ていた。真っ白なローブを纏い生気を失ったような、どこか諦めたような貌。

 待って、シエル。

 トドメを刺そうとする男をシエルが制す。そのまま踵を返してこの場を後にする。


 ――嘘つき。


 最後に振り返ったシエルの唇は、そう震えていた。


「待って、シエルっ!...はぁ...はぁ...夢...?」


 左手を伸ばしながら飛び起きると、またしても見知らぬ部屋だった。薄暗くて見通しが悪く、一先ずはシエルを探そうと立ち上がろうとすると隣で「うぅん...」とシエルの声が聞こえる。


「シエ...じゃなかった、ノーチェ。ノーチェ、起きて」

「んぇあ...レアハ...おはようございます...」


 寝ぼけた様子でシエルも起き上がる。それを待つ間にあたしは周囲に目を凝らす。シエルの部屋(リンデル村)とは違った、素朴というか雑というか...なんとも趣のある内装だ。まるで土の中に穴をを掘って、そこを部屋にしたような、そんな印象だ。


「ノーチェ、ここどこだかわかる?」

「断言はできませんが、猫亜人の巣だと思います」

「亜人...て、ゴブリンとかのあの亜人?」


 思わず肩に力が入る。もしかしたらあたしたちは敵の巣に連れ帰られたのかもしれない。ただ、もしそうならあたしとシエルを一緒に収容するだろうか?


「敵ではないと思います。いえ、何を言ってるのかはわからなかったんですけど、何と言うか...害意のようなものは感じられなかったので」


 あたしの様子に気付いたシエルが説明してくれた。どうやらあたしが気を失っている所をシエル共々ここに連れ込んだようだ。もしかしたら保護してくれたのだろうか。だけどシエルから教えられた限りではわざわざあたしたちに接触して保護する理由なんてない気もするけど。

 そんなことを考えていると部屋の外から光が近付いてきた。そこでわかったのはこの部屋に扉や窓の類はなく、出入口がひとつあるのみだった。

 身構えるあたしたちの前に姿を現したのは長靴を履き、二足歩行する人の子供くらいの大きさの黒猫だった。確かに敵意とか害意とかそういった感情は感じられず、黒猫は面倒くさそうに「ナーオ」と一鳴きすると手にした灯籠(ランタン)を揺すり部屋を後にする。部屋を出る時にちらっと振り返ったのは、着いてこいという意味だろうか。


「ついて行ってみようか」

「はい。どこかに案内してくれるようです」


 あたしとシエルは目を見合せ、頷くと黒猫の後を追いかける。

 黒猫はあたしたちが来るのを待ってくれていたようで部屋から出てきたあたしたちを見てそのまま先を進む。

 亜人の巣に入るのは初めてのことだけど、こうして当たりを見てみると彼らにも文化という物があるのが分かる。長靴もそうだけど回廊もきちんと整備されているらしく、雑草や木の根も見当たらない。すれ違う猫たちも立っていたり転がっていたりと色々いたけど短い鳴き声で挨拶を交わしているようだった。

 しばらく歩いていると突き当たりの大きな扉の前に着いた。

 大きな岩を切り出し、立てかけたような扉はひときわ強烈な存在感を放っており、ここに親玉がいるのは間違いなさそうだと冒険者(ウォーカー)の直感が告げている。

 黒猫が扉の前に立ち、大きな声で鳴くと扉が重い音を立てて左右にスライドする。


「なに...ここ...」

「祭壇...なのでしょうか」


 部屋の中はさっきまでとはガラリと変わり、石造りのタイルが敷き詰められたその空間はシエルの言うように祭壇のような雰囲気があった。

 壁も土壁ではなく石が積み上げられており、壁掛けの絵(タペストリー)がいくつも飾られている。そして何よりも天井には巨大な灯篭(ランタン)がぶら下がっていて真昼のような明るさを齎し、部屋の奥にある"それ"を浮き彫りにしていた。

 石と木と枯葉で作られた"玉座"に座る"それ"は身につけた衣服こそ見たことの無いものだけどあたしたちと同じ人間の姿をしていた。


「やっとお目覚めかい、お嬢さん方(フロイライン)。僕はバステト――俗に言う"神"と呼ばれる者さ」


 玉座にふんぞり返り周囲に猫を侍らせ、猫を模したような黒い仮面を身につけた男は、自らを"神"であると底抜けに陽気な態度(ノリ)で語りかけた。

神様登場です。彼は一体何者なのでしょうか?

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