09 輩[ヤカラ]
「――おいッ!! そこのゴルフクラブのおっさんッ!! てめえら、何勝手に店のモン盗み食いしようとしてんだよッ!!」
「い、いや、私たちは、ただ………………」
「勝手なことしてんじゃねえぞ!」
そう叫んだ連中のひとりが金属バットを躊躇なく、おっさんの頭に打ち下ろす。
「よっしゃー!! 死んだか!? ………………ん? ……ちっ、生きてんじゃん」
「なんだよ、おれが殺ろうとしたのに……順番守れよな、ったく」
「わりぃわりぃ」
こいつらも狂っている……まるで狩りでもするように殺人を楽しんでいた。
「おい、おっさん! ちょっとくらい抵抗しろよ! つまんねえだろが!!」
「そのおっさんはもうダメだからほっとけよ、後ろのジジイとババアを殺ろうぜ」
「ジジババ殺してもつまんねえな、どうせやるなら女殺してえなぁ」
「じゃあ、ババアでも殺しとけ」
「はぁ~、つまんね……おい! ババア早く逃げろや、遊んでやるからよ!!」
唖然としていた老人たちはその声を聞くと狼狽し、慌てて逃げ始める――。
「はははッ! 逃げてるつもりかよ! 超足遅っせ!」
「もっと必死で逃げろっての!!」
連中は懸命に逃げる老人たちを煽って楽しんでいた……そして、足腰の弱いお年寄りに追いつくのは必然。追いついた連中のひとりが金属バットでおばあさんの膝頭を強く打ち抜く……そしてそのまま、おばあさんは派手に顔から倒れ込み動かなくなった――――――。
「あれ? このババアなんで死んでんの?」
「こけて頭を強く打ったからじゃね?」
「これだからババアはつまんねえよ、すぐ死にやがる」
「そこのジジイもとっとと殺っちまおうぜ」
「じゃあ今度、おれね~」
「めんどくせえから早くしろよ」
「おっけ~、んじゃ、背中から刺しま~す」
その言葉通り、老人の背中にその若い男は、冷たく光る鋭利な刃物を突き立てた――。
「殺すっていったらさ、やっぱ刺し系でしょ?」
「ば~か、殴る系の方が面白いって」
「殴ると疲れるじゃん」
「体力付けろやボケ!」
「それもめんどくせえ」
「じゃあお前なんにも出来ねえじゃんか」
「いやいや、おれ様が新世界の創造主になるし、そしたらおれ様なんでもできるし」
「おまえばかじゃねえの! はははッ!」
「うっせ、はははッ!」
屈託のない笑顔で連中は笑っていた……この時、俺は確信する。この世界には死んでくれた方がいい人間が実在するのだという事と、仮に殺しても別に何の良心の呵責も感じさせない程に存在自体を否定したくなるようなクソ野郎どもがいるという事を――――――。
「――優馬……あいつらは?」
「……大丈夫だ、もうずいぶん遠くにいったようだ」
「そろそろ外に出ても大丈夫かしらね」
「ざっと見た感じでは……今のところは大丈夫そうだがな……、遠回りでもいいから、すぐに裏道に入って移動しよう」
「そうしましょう、あんな連中に出くわしたら終わりですものね」
「……ずいぶんと足止めをくらっちまったな、みんなごめん……俺の所為だ……、俺が通りに出ようなんて言わなければ、もう着いていたかもしれないのにな」
「陸……、気にするな」
「そうですよ、陸先輩、未来のことを考えましょう」
「………………ごめん」
自分の無力さに対して悔しいとか悲しいとか、そんな感覚ではなく、どういう訳か今は只、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。皆と、そして、あのお年寄り達に………………。
「――いいぞ、陸、早くしろ」
「了解、みんなこっちだ」
辺りを確認して、すぐに俺たちは裏道へ進路を変える。遠回りだが少しでも安全な気がする道を俺たちは、再び選んだ――――――。
「歩いてたったの一時間半の道のりがこんなに遠いとはな」
「仕方がないですよ優馬先輩、いろいろありすぎましたし………………」
ついさっきの暗澹たる光景が俺たちの脳裏を過ぎる。
「……優馬、あとどれくらいだ」
「もう少しだが、ちょっとだけ寄り道したい。家に全員分の食料があるかわからんからな」
「寄るって……どこに寄るんだよ?」
「食料が獲得出来るならどこでもいいんだが……」
「出来るだけ安全そうなところを選びたいわね」
「そうすると、小せぇ店がベターか……? でも小せぇ店だともう荒らされてて食料をゲットできねぇんじゃないか」
「じゃあ、大きいお店にしちゃいますか?」
「いや、大きい店は危険な気がするな」
「そうね……あたしたちと同じように飢えていて、しかも先々の事も考えて、なるべく食料を大量に確保しておこうとする人間がたくさん来そうよね」
「んじゃ、どうするんだよ、優馬」
「……近所に小さいコンビニモドキがある、そこにしよう」
「食料が残っていることを祈るしかないわね……」
危険を顧みず、俺たちはささやかな希望を胸に優馬のいうコンビニモドキに寄る事にした。リスクはあるが仕方がない、虎穴に入らずんば虎児を得ずってやつだろう――――――。
「――みんな、着いたぞ、あそこの奥の店だ」
「ここから見た感じではあんまり荒らされた形跡はねぇな……」
「何があるか知れないわ……陸、油断はしないで」
「わかってるよ………………」
「女子二人はオレたちの後ろへ……陸、行くぞ」
周囲を警戒しながら俺たちは、店の中へ入っていく。電気系統が破壊されているのだろうか、店内には照明となりうるものはなにも点灯していなかった。
「……夜だったら完全に真っ暗ね」
「表から見ると大丈夫そうだったのにな、入ってみればこれかよ……」
「意外と荒らされ放題でしたね、陸先輩」
「仕方がない、奥に行くぞ。この店は奥に倉庫があったハズなんだ、品薄になった商品を倉庫から補充しているのを何度か見た事がある。もしかすると倉庫になら何かあるかも知れない」
「で、優馬先輩、その倉庫はどこなんです?」
「こっちだ、みんなついて来てくれ」
優馬に先導され、奥の倉庫へと俺たちは薄暗い店の中を突っ切っていく――――――。