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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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07 門出

「――――――大丈夫そうだ、誰もいないぜ」

 周囲を確認し、俺はみんなを誘導する。そして、俺たちはまず剣道部の部室へと向かう――。不思議と今は昨日のような焦燥感や不安感、心のつかえのようなものをほとんど感じない。

 ――辿り着いた剣道部の部室のドアを開け、全員が部室に入ったことを確認した俺は静かに部室の扉を閉じた。

「……暗いな、萌衣、懐中電灯を」

「了解ですぅ」

「………………陸、木刀が二本あったぞ」

「ああ、サンキュー……ん? 優馬、あれって本物かな?」

「あれ? ……あぁ、あれか、さすがに本物ってことはないだろうな、模造刀ってやつだろう。本物そっくりに作ってある偽物さ」

「木刀より強いんじゃないのか?」

「いや、わからんが、飾りだから実用性には欠けると思うぞ」

「ん~そうか、残念だな」

 そういいながらも俺は、その模造刀を強く握りしめた。

「まさか、陸、持っていくつもりか?」

「うん、なんかの役にたちそうじゃん」

「なんの役にたつんだよ」

「それは……わかんないけど………………」

「まったく……みんな、他に何かめぼしいものはあったか?」

「これといったものはないわね」

「優馬先輩、この部屋なんか臭いですぅ」

 鼻をつまみながら涙目の萌衣が目で早くここを出たいと訴えていた。

「何にもなさそうなら次に行くか、防具かなんかもひょっとしたら使えるかもと思ったけど、とてもそんな感じではなさそうだしな」

「まあ、いいんじゃないか、一応はお目当ての物があったわけだしさ」

「そうだな……じゃあ、次は食堂だ」

「了解!」

 こうして次に、俺たちは食堂へと向かう。年甲斐もなく宝探しでもしている気分だったのだろうか……この時の俺は、なぜか子供の頃を思い出していた――――――。


「――萌衣、懐中電灯を頼む」

「はい、陸先輩どうぞ!」

 懐中電灯を受け取った俺は早速あたりを照らしてみる……照らし出された周囲の光景を目の当たりにした俺たちは、昨日の選択が決して間違ってはいなかった事と人間の浅はかさと脆さ、そして、醜さと苛酷な現実を突付けられる。食堂はすでに争いがあった後のようで、辺り一面に死体と食料品が散乱していた――。


「………………宿直室に止まって正解だったようだな」

「そのようね………………」

「やはり、考える事はみんな同じというわけか」

「腹が減ったら……そりゃそうか」

「あたしたちの分の食べ物はなさそうね」

「散乱した奴ならいくらか残ってるぜ」

「陸先輩、そんなの食べたら不衛生ですよぅ」

「まともな残り物はないものかしら………………」

「この様子だと期待は出来そうにないな……」

「なぁ優馬、あのぶっ倒れてる自動販売機はどうだ? 壊されてるっぽいけどさ」

「自動販売機か……、とりあえず見てみるか」

「……最後の希望ね」

 やはり詩織里は随分まいってしまっているのだろう、その言葉にひどく悲壮感が漂っている。

「詩織里、ここに食い物がなかったら外で調達すればいいだけの話さ、そんなに悲観的にならなくてもいいと思うぜ」

「陸の性格をホントに羨ましいと心から思うわ」

「いい加減しつこいっての!」

「詩織里、陸、残念だが最後の希望も潰えたようだ……」

 片膝をついて屈んだまま、ため息交じりに優馬が俺たちに視線をおくる。

「完全に壊されてますぅ……」

「中に何本か残ってないかしら?」

「あるとは思うが、これを開けるのはずいぶんと手間がかかりそうだな、できれば大きな音は出したくないし、あまり時間もない……どうするか………………」

「………………優馬、もう夜明けよ……」

「……仕方がないな、食料は外で調達しよう」

「まあ、割に合わないことはしない方がよさそうだし、ここは俺も優馬に賛成だな」

「仕方がないわね、じゃあ出発しましょう。あたしもこれ以上ここに居たくはないわ」

 そういうと詩織里は辺りの死体を一瞥した――。

「木刀をゲットしただけでもいいじゃないですか、前向きに行きましょうよぅ、詩織里先輩」

「萌衣の言うとおりだぜ、前向きに行こうぜ」

「そうだな、人間は水だけでも数日は生きられるっていうし……何とかなるさ」

「……みんな、ありがとう」

 皆が皆、思いやりを持って詩織里に接していた。そして、少し無理して笑顔をつくる詩織里を見て、この先の未来に何があるのかわからないけど、俺はこいつらと一緒に生き残りたいと、この時、強くそう思った――――――。

「じゃあ、ここはもう用済みだな」

「収穫なしということで、みんな行こうぜ」

「焦るな、陸、反対側の裏門から出よう。なるべく人通りの少ないところを行きたい」

「そっちの方が安全かしらね」

「いや、わからん、正直オレにも何が正しいのかわからないんだがな、なんとなく、なるべく人と遭わない方が安全そうだと思わないか」

「優馬にそう言われるとそんな気もするな……わかったよ、じゃあ裏門から出ようぜ」

 たったの一日がひどく長く感じられた。 きっと俺たちには、いつもと変わらない退屈な日常、いつもと変わらない平和な明日は、もう来ない――――――。

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